その冬休み、僕はある女のコから好きだと言われて、全然乗り気ではなかったのだけど、
なんとなくつきあうことになった。
今から思えば、女のコのほうから気に入られて、そのコが僕の好みだったためしがない。
たまには厳しい現実を直視させることも優しさなのでないだろうか。と、今は反省している。
ちなみにそのコは、どっちかというとあまりかわいくない部類ではないかと思われる。
かなりオブラートにつつんでいるが、
「ケムール星人」を思い描いて頂ければ正解だろう。彼女の名前は「村西 亜樹」
といったが、ここでは本人のプライバシーを守るために、「ケムちゃん」(仮名)としたいと思う。
ある一月の日曜日、僕はケムちゃんと映画館に行った。
たしか観たのはターミネーター2だった。
ケムちゃんと泣ける映画とか、ホラーはあんまり見たくなかった。
封切り直後だったから、席はすぐに埋まった。
僕らが座った席は、かなりいい席だった。
あれ? どうしたんだろう。
ちょっと前からケムちゃんが黙るようになってしまった。
心なしか顔も青い。その形相は、必死になにかを我慢してる様子だった。
腸弱!?
当時この言葉はなかったが、なんとなくそわそわしてる様子でピンときた。
が、しかし。
ここから立ち上がって、横に座る5〜6人の前を通り、トイレのあと再び前を
通らせてもらうのは、かなり失礼なように思われた。しかも、
もう予告CMが始まっている。本編が始まる前に帰って来れるのか?
しかしケムちゃんが立ちあがる様子はなく、そのまま我慢しているようだった。
さすがに高校1年の女のコ。デートの最中、「大」はできなかったらしい。
かわいそうといえば、かわいそうだった。
ここからは、散文詩風に書きたいと思う。
スクリーンでは予告CM。婚約指輪を渡すシーンだった。
音楽が流れ、30秒の恋愛ドラマもクライマックス。
そしてケムちゃんのお腹もクライマックス(笑)。
本編が始まるのか、CMの音楽が止んだ。
その瞬間。両隣の人でも気がつかないような小さな音。
「ぷすぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ〜
プピッ」
最後のプピッってなんやねん!!(驚愕)
幸い、発射口は向こうとなりの子供に向けられていたため、
毒ガス
は浴びずに済んだ。子供、くさかったか?
たったこれだけのことだったのだが、高校1年生の少年には、
受け入れがたい現実だった。
女子高生が
すかしっぺなんて!!しかも最後の
プピッって何?!ちょっと
“弾けちゃった”(笑)のか?!僕が別れを決意するまで、コンマ2秒もかからなかった。
それは、木枯らし吹く、まだ春の遠い一月のことであった。
〜つづく