アキちゃんへ 突然、こんな手紙だしてごめん。 いや、特別な意味はないんだ。 このあいだイギリスから帰国したときに久しぶりに実家の僕の部屋の片付けをしたんだ。 あの部屋は、僕が京都で生活をはじめたときのままになってたからね。 つまり、高校のときで時間が止まったままになってたんだ。 キミからもらった手紙とか、年賀状とか、そういうの見つけちゃって、なんとなく懐かしくなっちゃったんだ。 こっちの都合で懐かしくなられても困るかもしれないんだけどさ。 僕がキミに出会ったときのこと、覚えてる? あれはそう、ウチの高校の文化祭だったよね。キミは友達と3人で来てたんだっけ。 一番カワイかったのがキミで、廊下をパンフレット眺めながら歩いてたのを見つけて、すぐに声かけたんだ。 自分ではとっても爽やかな声を出して、白い歯をキラリとさせて。 斜めに顔をかしげながら、人差し指を向けてこう言ったんだ。 僕「キミの瞳にフォーリンラブッ♪」 なんでそんなに笑ったの? で、その日の夜、僕たちとキミらのグループは文化祭のあと、そのまま渋谷に遊びにいったんだよね。 カラオケのあいだに、僕はキミに電話番号を聞いたんだ。そのときはポケットベルも携帯電話も普及してなかったから。 夜、次の日も文化祭に来て欲しくて電話したんだ。 もう、ドキドキしたよ。僕の心臓って意外とカワイらしいんだな、って思ったのはそのときが初めてだった。 「へい、まいどありがとうございます! 新進亭です」 キミんちってさ、ラーメン屋じゃなかったよね。 まさかニセの番号をつかまされたとは思いたくなくて、聞いたよ。 僕「あの〜、アキちゃんっていますか?」 店の親父「そんなバイト、いませんよ〜?」 とっても恥ずかしかったよ♪ それ以上に、簡単にだまされた僕が切なくなったよ。 それからしばらくのことだった。運命ってあるんだよね。 いいのか悪いのかわからないけど。 渋谷で買い物してたらバッタリ。 アキちゃん、『ニュータイプ』って知ってる? 人類の革新のことなんだけどね、相手の感情とか、思考を感じ取ることができる人のことをいうんだ。 アキちゃん、ニュータイプ? 僕が電話番号のことで、怒りをあらわにして、問い詰めようとした瞬間、久しぶり♪って言って腕をからめてきたよね。 胸があたるんだ。 怒りのエネルギーが別のところに充填されちゃったよ。 オトコ心を操るの、上手だね。 なんとなくつきあいが始まったのはそれからだったよね。 いまから思えばつきあってたのかどうかわからないんだけどさ。 でも、グループで遊ぶときに、キミの友達が僕を見て笑うのは、ちょっとつらかったよ。 そんなに『フォーリンラブッ♪』のことをみんなにバラさなくったっていいじゃない。 キミの学校での僕のあだなが『フォーリン』ってそれはないんじゃない? そうそう、実はね、僕、渋谷でキミが他のオトコと仲良く歩いてるの、一度見かけたことあるんだ。 仲良く手をつないでたよね。 でもそれって僕が『つきあってほしい』って言って、キミが『いいよ』って言ってくれた三日後なんだよね。 そのシーンを見た瞬間、僕のカラダはチワワのように小さく震えてたよ。 一週間後、僕とキミは映画を見る約束だったんだ。 そこでキミに、手をつないでた男のことを聞こうと思ったんだ。日曜日午後の明治通り。 僕「あのさ、このあいだ・・・」 アキ「え? な〜に? あ!!見てみて、 あの服かわい〜」 僕の腕を抱えて小走りに走る。 む、胸がうでにあたる!! キミって、ニュータイプなの? 浮気の疑念エネルギーは別のところに充填されちゃったんだ。 もうカチカチだよ!! で、結局その質問はできずじまい。 そういうデートも数えるほどもできなかったんだけどね。 最後のデート、覚えてる? あのとき、アキちゃん、 アキ「一緒にサザンのライブ行こうよ〜」 って言ってくれたんだよね。 サザンオールスターズの年越しライブ。 ちょうどチケットが売り出されるころだったんだ。 アキ「あたし、チケットぴあの会員だから、先行予約で買えるよ」 って言ったから、僕の分のチケットも頼んだんだよね、8000円。 |
ねえ、そのチケット、まだうちに届いてないみたいなんだけど?
教訓「男ってバカだよね」