男だってナイーブ



高校の時に、一度好きになった女の子がいた。某私立女子校に通う、ショートカットの女の子。同じ年齢だった。彼女は明るく活発で下ネタもこなす、粋という言葉がぴったりな江戸っ子(?)だった。

どこで知り合ったのかはよく覚えてないが、たしか友達が企画した放課後マックだったような気がする。単に、学校の帰りに渋谷あたりのマクドナルドに集まっておしゃべりをするとかいう、そういうものだ。

僕は、お嬢様お嬢様してるのよりも、めちゃめちゃ庶民的で一種破天荒な女の子に魅かれてしまう傾向があるらしい。結局そのとき友達になった女の子3人のうちで、僕の友達二人は髪の長いキレイめの女の子に魅かれていたようだが、僕はひとり、そのショートカットの女の子、リエちゃん(仮名)にひとめぼれしてしまったのだった。

といっても、このときは、ドラマになるようなことはなんにもなかったのだ。何回か電話して、何回かデートに誘い、2回くらいまたみんなで遊んで、それっきりだった。思い出したように僕は手紙を書き、やる気のない(苦笑)ハガキが返事として届いた、そんな感じだった。

僕が大学に入ってからの正月、僕は彼女に年賀状を出した。高校3年のときの正月は受験期で何にもしてなかったはずだから、少なくとも一年間はブランクが空いていたのだけど。

彼女は年賀状を返してきてくれた。文面の最後に、「…京都かぁ、いいなあ」と一言書かれていた。

***

そのあとに連絡をしてきたのは、珍しく彼女の方からだった。いや、珍しいというよりも初めてだ。バイトから帰ってきた僕の目に入ったのは、「今度京都に行くけど、泊まらせてくれる?」という内容のFAXだった。

もう内心ドキドキである。リエちゃんを最後に見てから数年たってたし、その分ボーイッシュでカッコイイ、そしてハツラツとしたイメージがかなり美化されていたはずだった。

OKの返事をしないわけがなかった。そこから先で、話はどんどん進んでいった。僕はまちどうしくて仕方なかったのだ。高校のときは、一度とても憧れた女のコだったから。

***

2月のある日、僕は京都駅まで迎えに行った。彼女は私大でうちよりも後期試験が早く終わったらしかった。

高速バスで来るといっていたから、僕は始発のバスで駅に向かわなくちゃいけなかったけど、別に大したことではなかった。だって、今夜は数年越しの念願の夜になるかもしれなかったからだ()

バスから降りてきた彼女は、髪がセミロングになって、多少化粧してるくらいで、当時の雰囲気とあまり変わってなかった。多少大人っぽくなったかな、というくらいだった。

「あ、ひさしぶり…」

彼女「あ、●君? ん、なんか、変わったね?」

「そう? 日焼けしたせいかな?」

なぜだか知らないが、このぎくしゃくした会話だけがくっきりといまでも覚えている。向こうは、僕が当時思い入れていたことは知ってたはずだし、そして彼女が僕に特にそんな気がないことも僕は知っていた。そんな関係だったのだ。数年ぶりに会ってギクシャクしないわけがない。

午前中は、疲れたというので、家に残して僕は授業に出た。なんか、高校のときに好きだった女のコが自分のベッドで寝ている、というのはくすぐったい気分だった。

ホントは学校の授業なんてサボってもよかったし、その日は出るつもりなんてなかったのだけど、高速バスの寝心地の悪さは知ってたので、そうしたのだった。

午後は、彼女のリクエストにしたがって、2〜3の寺社周りをした。途中でたしかたこ焼きを買って食べたのだった。たしか高校当時、憧れていたデートスタイルだ。

そんなことをしながら時間をつぶし、夕方からは繁華街に行った。パスタを食べたのがもう夕方の7時過ぎだった。木屋町のバーに行って、カクテルを頼んだ。そこから先、話がへんな方向に行ってしまった。もうそのころには、お互いに氷は融けて、数年前のマクドナルドのときのような冗談も言えるようになっていた。

「あれ? ねえ、彼氏いるっていってなかったっけ?」

その質問が発端だった。彼女の顔色が少し変わって、口調も少し変わって、言葉数が減った。

結局、この京都の小旅行は、ふられたことの気分直しだったのだ。

しかも、京都には、かつて自分のことを好きだといってくれた男もいる。そこに行けば、もしかしたら自分の居場所があるのかもしれない。そう彼女は思ったのかもしれない。

夜、寝る前のことだ。
僕は、テレビを見ている彼女を後ろからゆっくり抱きしめた。リエちゃんは特に拒む様子はなかった。男の家に二晩泊まる。そのことだけで、すでに意味するところは一つだ。“そう”なったとしても特に驚くことではないだろう。

僕が、キスをしようとして、彼女を振り向かせたときだった。

リエ「●君は、あたしのこと、大事にしてくれるよね」

小さくそう言った。

それを聞いた瞬間、昂ぶっていた性欲が一瞬にして罪悪感にすりかわったのだった。今から考えればそれは、「傷心につけこむ」とか「遠距離恋愛を前提しない刹那的Hはダメ」という言葉で罪悪感の原因が理解できるけども、そのときは、“ん?なんでこんなに心苦しいんだ?”と疑問だった。

でもとにかく、このコをこれ以上傷つけちゃいけないと思ったのだ。

僕はほっぺたに軽くキスをして、寝よう、と言った。

電気を消し、彼女はベッド、僕は床の上の布団で寝た。しばらくして、彼女が音をたてないで泣いてるのが聞こえた。原因は今でもわからない。

考えたけど、特にかけてやる言葉が見つからなかった。ただ、

「おれは、多分、ずっと味方だから…」

と言えただけだった。

結局次の日も何事もなかったように寺社巡りをし、別々に寝て、三日目に東京に帰っていった。

初めはHできると思った彼女の京都滞在も振り返ってみれば、やたらと気分が重い滞在だった。相手の事情次第では、男もそうなのだ。いつだってHしか頭にないわけではない。

教訓「ブルーな女のコとはHできない」


 
メインページインデックスへ戻る
お遊びページインデックスへ戻る
恋愛は格闘技だ!インデックスへ戻る