やはり文化祭

あれは僕が高校一年の文化祭だった。

例によって、ホストクラブでホストを楽しんでいた僕である。

確か二日目、つまり日曜日の昼間だったような気がする。

一番客が集中する時間帯。つまり、一番よりどりみどりな時間帯。

お約束のように、廊下を歩くお客さん(女子校の生徒)を

選り好みしていたときのことだ。

向こうの方から、ひときわ美人な女のコを含んだ

グループが歩いてきた。

ターゲットは決まった。

 

「あの、もしよかったら、ここ、入ってかない?」

できる限り渋く、そしてダンディに言う僕であった。

当然、集客率の一番高い時間帯だから、

空いてる席といえば、スピーカーの目の前しかない。

でもこれがまたいいんである。

音がうるさいから、会話はどうしても顔を近づけざるを得ない。

オヤジの発想だ。()

そしてそこでホスト活動を開始したのである。

 

どこの学校?

えー? T蔭。知ってる?

あー。市ヶ尾・青葉台・あざみ野だろ。

あはは。マニア?

ちゃうっちゅうんねん。おれんちつきみ野だもん。

 

初めはそんな会話だったはずだ。

そして、3人同様に扱っていたのが、

いつのまにか、そのターゲットだけに絞られていく()

もちろん、残り2人に関しても抜かりはない。

一つ下の後輩を呼んで、相手をさせた。

3人、同様のサービスをするのが、ミソである。

不公平な扱いをするのは、ホストとして失格だ。

たとえ私利に走っていたとしても、公務を忘れているわけではない。

 

たしかそのあとしばらく、30分くらいは放送部にいて音楽+おしゃべりを

楽しんだのだ。でも、ここが最初の部屋で、他にまだ行ってないから、行きたいという。

それなら、ということで、お化け屋敷に案内することにした。

同じ階にある、水泳部のイベントである。

かなりの人気イベントで30分待ちくらいの列がいつもできている。

が、しかし。

放送部と水泳部は、提携を結んでいる。

放送部:長くいてもらうイベント

お化け屋敷:スルーアウトして終わり

というまったく種類の違ったイベントだったので競合せず、

ライバル関係ではなかったのだ。

お互いに紹介しあう、ということで提携を結んでいた。

そこで、列を無視して、いきなりお化け屋敷にはいることができたのである。

「え? 並ばなくてもいいの? ありがとう」

そういうことだ。

感謝されるのはいいことだ。

提携を結んでよかった。

 

このお化け屋敷のあと、体操部の演技を見に行くという。

体操部? なんで?

弟が入ってるの。

え? 弟、ここの生徒?

どうやらそういうことでこの学校にきたらしい。

不幸中の幸い、同じ学年ではなかった。

2つ下の学年だった。

 

じゃあ、またひまになって、行くとこなくなったらまた放送部においでよ。

まってるからさ。

 

リピーターの確保もホストの重要な使命だ。

指名が多ければ多いほど、放送部内での打ち上げで名誉が得られるし。

そう、打ち上げで指名数の少ないヤツは罰ゲームなのだ。

そして、その日、2回目の再会は夕方になされた。

ほんとは、そのコたちと文化祭のあと渋谷にでも行って

カラオケかなんかに行きたかったのだが、

片付け+打ち上げというものがあって、無理だった。

今度、いっしょにあそぼーか。

うん。いいよ。

ということで住所と電話番号をGET。

当時はいまと違って携帯・PHSはおろかベルすらも普及してなかったから、

自宅の電話番号を聞き出さなくてはいけなかった。

それは結構至難の技だったのだ。

 

放送部に、ひとり、体操部と掛け持ちをしていたやつがいた。

そいつはまた最後に登場するのだが、

そいついわく、

あのコ、そんなかわいーか?

弟そっくりで、いまいちなじめん。

ということだった。(打ち上げ時での会話より)

こいつの茶目っ気があとですごいことになる。

茶目っ気というより、悪意はないが、ひどいいたずらだ。

 

さて、後日、3人+3人で遊ぶことになった。

渋谷で会って、カラオケ行って、マクドに行って、

という健全な高校生の遊び方だ。

が、しかし。

まずカラオケでそのコたちはチューハイを注文しようとし、

途中からタバコを取りだし、吸い始めた。

純情だった僕にはそれ自体でかなりショックだったのだ。

冷静を保ちつつ、

僕にも一本ちょうだい。

本気で吸いこんだのは初めてだったと思う。

咳き込むのをこらえて、平然と吸った。

今では笑える話だ。

でも当時の僕にしてみたら、

「なめられたらいけない!」

という思いでいっぱいだったのだ。

 

さて、その合コンデートも終わりころ。

僕の感謝すべき友人らは、いらない二人を引っ張って、

さっさとどっかに行ってしまった。

うれしいことに、取り残してくれたのである。

いい友達だ(感涙)

さて、僕らも帰ろうか。

ということにはなったのだが、

帰り道に宮下公園があった。

時、おりしも黄昏時=恋人たちの時間。

ベンチに座って、肩を寄せる。

しばらく沈黙が続いた後、

おもむろに肩を引き寄せ、キス。

ちなみにこれが僕のファーストキスだったりする。

小説ではないが、ほんとに胸の鼓動は激しかった。

柔らかいな、というのが今でも覚えてる印象だ。

だが、しかし。

この女、舌を入れてきた。

おいおい。

 

それで完全に夢中になってしまったのである。

その後どうやって家まで帰ったのかはよく覚えてない。

いや、電車で一緒に帰るとき、

ピアスをもらった。

僕はそんときピアスなんて開けてなかったけど。

そのコがつけてたやつを。

記念に。

とかいって。

 

その後、しばらくの間、他愛もない話を電話でするようになった。

「これで僕にも春が来たのか。」

そう思ったものである。

季節は初冬だったが。

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