真夜中の出会いと僕の運命







秋も半ばになると、なぜか皆、人恋しくなるようだ。

彼氏がいる女はなぜか優しくなり、彼女がいる男は少々キザになる。

彼氏がいない女のコも彼女がいない男性も、自分の気持ちを熱くさせてくれる相手を探しに、街へ出る。

そう、秋は恋の季節でもあるのだ。

だってクリスマスが近いから。

僕はその日、久しぶりに木屋町へ飲みに出かけた。

別に友達と約束があったわけではない。

なんとなく久しぶりにいつもの店へ行って、カウンターの中のバイトやカウンターで飲んでいる誰かとおしゃべりがしたくなったのだ。

ちなみに週末は騒がしいのでそういう気分のときにはなおさら行かない。

行くのは決まって平日の夜だ。

週末に遊びに行くとしたらそれは騒いでストレスを発散したいとき。

*****

その夜。

僕がいつものバーへ行くと、1組の女のコ2人がカウンターで飲んでいるだけだった。

このバーは、かつて雇われ店長だった友人が立ち上げた店で、「出会いの場」をテーマにしているということだった。

簡単に言うと、「ナンパしやすいバー」。

確かにそこは、そういう店に仕上がっていた。

注文のお酒を受け取り、しばらくカウンターの中の顔なじみのバイトの大学生と話していたのだが、途中で女のコ2人も会話に参加してきた。

バーというのは基本的に暗いし、音楽も結構大きめの音で掛かっている。

そのときに初めてこちらを向いた二人の顔を正確に判別できた。




ところで、男の間では一つの共通した認識がある。

不思議なことに、おそらく日本全国どこに行っても同じ認識があるはずだ。

すなわち、仲のいい女のコグループや、何人かで連れだって歩いている女のコにおいては必ず一人はカワイイ/美人で、一人は必ずブスである、と。

僕の経験上でいってもそれはほぼ間違いがない。

僕は途中で会話に参加してきた女のコ2人の顔をしっかりと認識したあと、飲んだジンライムを思わず鼻から出してしまうところだった。

近いほうのイスに腰掛けている女のコは、肩までの少々茶色の髪をいじりながら談笑していた。

彼女は馬に似ていた。












・・・え? 馬?(ちょっと自分でも驚愕)
馬・・・子? 蘇我氏?

もう一人、向こう側のイスに座っている女のコはどことなく郵便ポストに似ていた。












・・・え?!郵便ポスト?(かなり自分でも驚愕)


これまで、怪獣や宇宙人、そして動物に似ているコは見たことがあった。

それはそれでどうか、とも思うが。

しかし、動かない物体をイメージさせる顔はそのときが初めてだった。

一生懸命別の何か、せめて似ている動物はないか?と思案してみたがやはり思い浮かばなかった。

クチの中にはやはりたくさんの郵便物を貯めることができるのですか?

犬とかに引っ掛けられたりとかしますか?

しかしそういったたくさんのクエスションはジンライムとともに飲み込まざるを得なかった。

僕は、一般常識は知っているつもりだったしまた、宇宙人の攻撃は読めても郵便ポストの攻撃は読むことができなかったからだ。

バイト: 「そういえばもうあっという間にクリスマスやねえ」

カウンターの中のバイトが次の話題を指定した。

全員、少しブルーな表情で言葉が止まった。

どうやら全員彼氏彼女はいないらしかった。

馬: 「あの〜、彼女とかいないんですか?」

一般的に、恋愛の始まりにはおおよそ一つのルールがある。

彼氏彼女がすでにいる人にはアタックをしてはいけない、というルール。

僕は個人的にはそれには反対だが。

別に好きになった人にたまたまそのとき彼氏彼女がいたところであきらめる必然性はまったくない。

しかしやはり何事にも控えめな日本人の多くはそうなってしまうのだろう。

もし今、相手に好きな人や特定の相手がいるのなら、自分は身を引こう、という。

そして、もう一つ注意しなければいけないのは、この「特定相手の有無を尋ねる質問」は裏返しの意味として「自分はあなたに興味がある」というメッセージになる得ることだ。

もちろん、単なる興味本位で発問されるケースも多々あるが、この質問とともにネットリとした視線が送られてきた場合にはそういうメッセージであることが多い。

その質問のとき、馬は僕をネットリと視姦していた。

多少酔っているとはいえ、脳内シナプスの活動は充分だった。

もしここで「いない」と答えたら、ロックオンされてしまう可能性がある。

もちろん、自意識過剰+杞憂に終わることも充分に考えられるが。

しかし、「いない」と答えるメリットは今のところないだろう。

ここで携帯電話の番号やメールアドレスを交換しても合コンまで話が進む可能性は低そうだ。

っていうか、4×4で合コンしても間違いなくこの2人は来るのだろう、すでにその時点で競争率が2倍。

「いる」と答えたほうが何ごとも無難なセンで落ち着くということか。

僕: 「ん? ああ、・・・」

そのとき、入り口のドアが開き、女のコが2人、入ってくるのが見えた。

バイト: 「いらっしゃいませ〜」

新たに入ってきた二人は、素晴らしく美人だった。

それを見た僕はとっさに答えを変えていた。

僕:いまは彼女いないな〜、欲しいんだけど♪

店内に聞こえるくらいの大きな声だった。

女のコ: 「あれ?ねえ、今日は●●君の日じゃないん?」

バイト: 「ああ、バイトの日が少し変わったんですよー、すみません」

女のコ: 「ふ〜ん。じゃあまた来るね。ばいば〜い」







・・・ト、トラップ!!

神様は時に素晴らしいタイミングで罠を張るのだった。

カウンターの中のアルバイトはグラスを磨いていた。

僕はただ黙って自分の不運を呪っていた。

さて、これからどうやって会話を続けていこう?

心を癒しに来たはずがいつのまにか心を痛めてしまっている現実に驚き、そして言葉に詰まっている自分自身に泣きたくなった。

人生って、ツライことの連続なのかもしれない。

そんなことを、ふと思った、初冬のある晩のことだった。

 
教訓「人生って、ツライことの方が多いよね」




英国居酒屋
お遊びページ
恋愛は格闘技だ!