マイケル: 「あなたのお名前は、ナンデスカ?」 自分の名前を言わない人に、本名を言うつもりはなかった。 彼はマイケル・ジャクソンが好きだからマイケルと名乗ったのだ。 僕: 「ガンダム・・・」 マイケル: 「Oh、がんだむさんネ。なんだか日本人の名前じゃないみたいネ」 確かに人の名前ではない。 僕: 「で、何の用件でしょうか」 マイケル: 「ワタシ、ニポーン人の友達、たくさんいます」 だから何? 僕: 「はあ…、なるほど」 マイケル: 「あなた、マキシムさん、知ってるカ?」 僕: 「マキシム?」 まきしま(牧島、填島、巻島・・・)という苗字なら日本人の名前っぽいが、マキシムではコーヒーだ。 マイケル: 「そうそう、マキシマさん。その人は日本の香港にいるヨ」 仮にマキシムでもマキシマでもそんな人は知らないし、第一、香港は日本ではない。 僕: 「そうですかー。よかったよかった。」 マイケル: 「箱を渡してホシイね」 箱? よく聞くと、どうやら小さな小包みをそのマキシムさんに届けてほしいというのだ。 マイケル: 「モロッコのポストはダメダメ。信用できないネ」 オマエこそ信用できないのだよ。 いったい何を運ばせようとしているのだ? 一瞬、その小包みなるものの中身が気になって請け負ってやろうかとも思ったが、中身がドラッグとか大麻だったら受け取った瞬間に隠れている警官に逮捕されることだってありうる。 マイケル: 「お礼に5ドル差し上げるネ」 5ドル。1ドル120円として、600円。 子供の使いですか? とはいえ、モロッコで5ドルはそれなりに意味のあるお金であることは知っている。 きっと僕を逮捕する警官は報奨金として警察から20ドルもらい、マイケルは警官から10ドルもらうのだろう。 あるいは、「逮捕されたくなかったら有り金全部置いてけ」、ということなのかもしれない。 途上国では警官とチンピラは同義語であるケースが少なくない。 僕: 「いや、責任もって渡せる自信ないから別の人を探してください。それじゃ!」 服をつかまれないようにしながら足早に立ち去ろうとしたとき、 マイケル: 「がーんだーむすぁーん、待ってクダサイ、がーんだーむすぁーん、がーんだーむすぁーん」 ここはアガディール、モロッコ南部の静かなリゾート地。 季節外れのこの時期にまさか日本人がここにいるとは思えない。 でももし万が一他の日本人に聞かれたら、とても恥ずかしい。 大声で連呼するんじゃない! せめて、「アムロ」にしておけばよかった・・・。 僕: 「・・・なんですか?」 マイケル: 「待ってクダサーイ、ベストフレンド、ベストフレンド!!」 ベストフレンド=Best Friend: 親友。最も気軽に話せる友人。友達の中でもっとも大切な人。腹を割って心中をさらけだすことができる相手のこと。 知り合ってまだ5分もたってないんですが。 僕: 「まだ何か?」 マイケル: 「ワタシの店に来てくだサーイ。すぐソコです。日本のものもイパーイありまース」 日本人に対して日本のモノを、モロッコで売るとはなかなか勇気がいることだ。 僕: 「何があるの?」 マイケル: 「カセット、ゲーム、CD・・・」 よくあるコピー商品の典型だ。しかしまだDVDはないようだった。 マイケル: 「・・・ウォーター、Gas(ガソリン)、」 日本でガソリンは採れないのだが。 彼は必死でアピールしている。 マイケル: 「・・・オレンジ、バナナもありまーす」 オマエんちは何屋なんだ? 途上国には、謎を持つ商人が多い。 |