午後から学会が行われる予定のホテルのレストラン。 カメヤマ君は午後、ここで最近の臨床例を発表するらしいのです。 ウラシマ「でも、お医者さんって、大変なんだろ?」 カメヤマ「まあな。・・・あんまりがっついて食うなよ、恥ずかしいぞ。・・・そりゃ医者って職業は大変だよ。休みがあってもしょっちゅう呼び出されるし、ヒマがあったら論文発表しなくちゃいけないし。」 ウラシマ「時間がありすぎるのも困るけど、ないのも困るわな」 カメヤマ「手術とか緊急の患者が重なるときはほんとにイヤってくらい重なるんだけど、でも、平和な日もそこそこ多かったりするんだ。もうほんとにバラバラ。」 ウラシマ「患者さんが、均等に来てくれたらマシなんだろうけどな(笑)。事故とか病気はそういうわけにはいかないしね。」 カメヤマ「そうさ。医者って職業はそれが一番困るところなんだよな。患者の数をこっちで操作するわけにはいかないからね」 カメヤマ君はそういったあと、ニヤリと笑って、 カメヤマ「でも、だったらこっちの時間を融通利かせたらいいだけの話だろう?」 ウラシマ「ん? どういうこと?」 カメヤマ「“時間銀行”って知ってるか?」 時間銀行。 ウラシマ君は聞いたことがありませんでした。 カメヤマ「簡単な話さ。忙しいときは『時間』を借り入れして、空いてる『時間』ができたら返済すればいいんだ。そんなに利子もつかないしね。ホラ、ここでそういうの扱ってるし」 カメヤマ君は1枚の名刺をウラシマ君に渡しました。 ウラシマ「へ〜、そんなのがあるんだ。でもオレは借り入れするほど時間には困っちゃいないけどね(笑)」 カメヤマ「ん〜、そうでもない。どっちかっていうと『時間』は今不足気味だからな。銀行が買い取ってくれるケースもある。ホラ、さっきのポルシェ、あれはオレの『一週間分の時間』と引き換えに手に入れたんだぜ。」 ウラシマ「え!? そうなの? じゃあオレの余ってる『時間』も売れるのか?」 カメヤマ「ん〜。売れることは売れるけど・・・。ただし・・・」 そこで場内アナウンスが会話を中断させました。 「東大附属病院のカメヤマさま、いらっしゃいましたら「紫雲の間」まで至急お越しくださいませ」 カメヤマ「おっと、呼び出しだ。行かなくちゃ。チェックはオレがしとくから」 カメヤマ君は「ただし・・・」のあとを言わずに行ってしまいました。 ウラシマ「“時間銀行”で『時間』が売れるのか・・・」 ***** 次の日。 東大附属病院に一人の青年が現れました。 エルメスのスーツに身を包んで両脇に2人の美しい女性を引き連れていました。 ウラシマ「よう、カメちゃん。おれも『時間』売ってきたよ。オレには『時間』なんて売るほどあるからね(笑)。」 初め笑顔だったカメヤマ君の顔が一瞬にして冷たく呆然となりました。 カメヤマ「おまえ、何て言って売ってきたんだ!?」 ウラシマ「なに、おまえ、くやしいの? ハハハ。 でも大丈夫だよ。たった200万円だし。おまえ7日間分の『時間』でポルシェだろ? 200万なんて3日分くらいさ。オレもこれまでそれなりに苦労してきたしな。これから3人でイイコトしようかな〜♪ なんてね。おっと食事の時間だ。もしお金が余ったらフレンチくらいおごるよ。またな」 ウラシマ君は軽い足取りで再び姿を消しました。 残されたカメヤマ君は、ぽつり、と カメヤマ「200万円ねえ〜」 ***** さらに次の日の朝。 東京のとあるホテルのスウィートルームは、2つのけたたましい女性の叫び声で包まれました。 大きいベッドの右側と左側に、半裸の女性が腰を抜かして床に座り込んでいました。 それでもなんとかベッドから離れようと壁のほうににじり寄っています。 ベッドの中では、白髪でしわくちゃになった老人が一人、小さく丸まっていました。 いい夢を見ながら死んでいったのでしょうか。 息をしていない老人の顔はとてもさわやかな笑顔が浮かんでおりました。 そしてその老人の枕元には、誰が置いたのか一枚の紙片。
教訓『時間の価値は人それぞれ』 |
【解説】 浦島太郎は竜宮城から帰ると、その玉手箱の白い煙を浴びて一瞬のうちにおじいさんになってしまう。 さて、ここで問題。 おじいさんになってしまった浦島太郎はこのときどう思ったでしょう? 竜宮城なんて行かなけりゃよかった、と思ったでしょうか。 それともやっぱり一瞬のはかない夢でも平凡な人生を送るよりも幸せに思ったでしょうか? 今日のお話は、『時間』の価値をキーワードにして、その使いみちが人それぞれなのではないか、そして逆に使いみちによってこそ『価値』が決まるのではないか、というところに関心を持って作ってみました。 あなたの時間の価値、使い方次第では価値が上がるし、下がりもするのではないでしょうか。 |