人生塞翁が馬、とはよく言ったものだ。 何があるかわからない、ということなのだ。 僕は2004年の6月にニューヨークに来た。 A上司: 「10月半ばまでは正規の研修プログラムで財務会計の勉強をしてもらう。そのあとは半年くらい、来年(2005年)の春までそこの銀行で企業調査をしてもらうつもりだ。まあ好きにリサーチしてくれ」 アメリカ株式を担当する者においては、現地での企業調査がどれだけ重要な意味を持つかは言うまでもないだろう。 特にアメリカの医療産業の構造は日本のそれとはまったく違う。 日本よりもはるかに高い医療費。民間主体の健康保険。次々に登場する画期的新薬。株式会社化された病院。 いったいどこに収益の源泉があるのか。 どういう企業戦略が望ましいのか。 日本で入手できる資料だけで体感できるものではない。 あと2週間で正規のプログラムが修了し、そのリサーチに突入できるという、10月1日のことだった。 ***** その日、僕は疲れていた。 その日も当然のように難度の高い宿題を与えられて夜遅くまで格闘していたのだ。 ベッドに入ったのは午前1時を過ぎたあたりだった。 ・・・zzz プルルル、プルルル、プルルル、 誰だろう、こんな夜中に。 枕元の時計は深夜3時を指していた。 プルルル、プルルル、プルルル、プルルル、 いいや、ほっといたらそのうちあきらめるだろう プルルル、プルルル、プルルル、プルルル、プルルル、 早くあきらめて、昼間とかに掛けなおしてくれないかな・・・。 プルルル、プルルル、プルルル、プルルル、プルルル、プルルル、 間違い電話だったら、刺す 仕方なく起きて電話を取った。 僕: 「はい、もしもし・・・」 電話は日本のA上司からだった。 時差からすると今は夕方の4時だ。 A上司: 「ああ。もしもし●君。起きてた?」 普通の人は寝てます。 僕: 「午前3時なんで寝てました」 A上司: 「なんでまた?」 普通の人だからです。 僕: 「すいません、疲れてたもので」 謝ってしまうのがサラリーマンのツライところだ。 A上司: 「ところで●君は、パリパリしたおせんべいとガリガリしたおせんべい、どっちがいい?」 あんた午前3時に何言ってんだ? 僕: 「・・・はい?」 A上司: 「パリパリのおせんべいとガリガリのおせんべい、どっちがいい?」 僕: 「えっと、パリパリしたほうです」 A上司: 「え?なんて?もっとはっきり言ってよ」 僕: 「パリパリがいいです」 A上司: 「言うたな?パリパリがいい、って言うたよな?よし、じゃあ●君はパリ行き決定。12月になったらニューヨークからパリに異動ね。いやあ、ガリガリを選ばなくてよかったな。リガはラトビアの首都なのだよ」 僕: 「え???」 (いろんな意味で)マジですか? A上司: 「じゃあ、そゆことで。よろしく。あ、そっちの銀行のほうにはこっちから連絡しとくから」 そして電話は切れた。 10月1日。午前3時の出来事だった。 僕のパリ行きが決定した。 ところで一つ分からないことがある。 僕はパリで何をするんだ? |