Talk with Lama Iyeshe.









 以下は稲葉が個人的にラマ・イエシェと交わした会話です。


ラマ・イエシェ 質問したいですか? それとも私が話しましょうか。

稲葉 ぜひ、お話ください。

ラマ 私の名前はラマ・イエシェ。これくらいの声で大丈夫かな?(テープに入るか、という意味) スコットランドのサムイエ・リンのリトリート・マスターです。個人的に12年間のリトリートを行い、49日間のトータル・ダークネス・リトリートを行いました。瞑想の体験はたくさんあります。またいろんな国で仏教を教え、たくさんの男女の弟子を持っています。スコットランドでのホーリー・アイランド・プロジェクトはCNNでも二回取り上げられ、たくさんの国からひとびとが訪れています。この島はとてもいい環境にめぐまれ、様々な宗教のひとびとが、集うことができる場所です。

 サムイエ・リンでは48人の長いリトリートを行っている弟子がいます。彼らは16の異なる国からやってきました。僧院には40人の僧侶と18人の僧尼がいます。

稲葉 サムイエ・リンはとても有名ですが、イギリスにはほかにもチベット仏教の寺院はあるのでしょうか。

ラマ たくさんあります! ヨーロッパ中どこにでもあるんですよ。アジアにも、ね。日本はチベット仏教のセンターがない、最後の場所なんです。今回私自身が来日してみて、日本人の精神面についてわかったことがあります。日本はもともと仏教国ですが、産業の面ではとても発達していくなかで徐々に、仏教の実践的な面が失われているように思います。だから仏教が帰ってくる必要があるんです。私が日本にきたのは、純粋な、かつオーセンティックな仏教を伝えるためなんです。


48日間の完全な暗闇

ラマ 次のことははっきり覚えておいてください。チベットにおいてはリネージがもっとも大切なものです。私たちのリネージはブッダ・ヴァジュラダラから始まり、81人の仏教の成就者のうち、ふたりのマハー・シッダを生みました。マルパは16年間をインドで過ごし、いろんな言語を習得し、仏教を理解しました。マルパの弟子はみんなが知っているミラレパです。ミラレパの弟子はガンポパで、彼の弟子は初代カルマパです。現在は17世カルマパの時代です。715年間の破られないリネージを持っています。

 私たちのリネージはプラクティス・リネージと呼ばれています。書物から学ぶことも大事ですが、実践なしにはなにも変わりません。私たちの実践のもっとも大事なものはマハー・ムドラーと呼ばれます。これはサンスクリット語でマハーは大きいという意味。ムドラーは印です。仏教においては特別な意味を持っていて、禅の境地も同じです。でも私たちは、タントラヤーナのマハー・ムドラーを実践します。たくさんのテクニックを使い、心を変化させ、「Zen mind,Beginer's mind」にいたるのです。これがマハー・ムドラーです。

 私たちは「子どものこころ」がすばらしいものだと知っていますが、それを得るのは難しい。この頑固な、動き回る、こころを、ヴィジュアライゼーションによって、変化させる。ビジネスをダルマ・ビジネスに変えるのです。こうして私たちの金剛乗の教えは世界中の知識階級のひとびとのあいだで受け入れられているのです。

稲葉 ラマはチベットで生まれたのですか。

ラマ そうです。1959年にチベットを離れました。

稲葉 49日間のトータル・ダークネスとはどのようなものですか。

ラマ 49日間、完全な暗闇のなかで瞑想をすると、死後、とても安らかに過ごすことができます。チベットの外では、これを教えることができるラマはひとりしかいません。昨年私はネパールへ行き、リトリートを行い、トランスミッションを受けました。それから少しずつ、この教えを西洋や日本に伝えたいと思うようになったのです。

稲葉 チベットにはたくさんの教えがあると聞いています。

ラマ 4つの主な流れがあります。みんなはその違いに興味があるかもしれませんが、私たちは同じものを信じています。ブッダ、ダルマ、サンガです。さらに、悟りを信じ、無我を信じています。なぜ四つの流れがあるかというと、それぞれの先生が特に重要とするものがあります。私たちは瞑想と内面の体験を重要視しています。あなたがゲシェーにインタビューすれば、彼らは教えを書物から学ぶことを重要視していることがわかるでしょう。でも、信じているものは同じなのです。この東京の真ん中に来るためには、あるものは地下鉄で、あるものはバスで、あるものはヘリコプターで来るでしょう。でもゴールは同じなのです。

 チベット仏教にはいろいろな教えがありますが、瞑想はもっとも難しいものです。書物を学ぶことは易しい。だから、学ぶことに時間をかけすぎてはいけません。


エッセンスを失った日本仏教

稲葉 ラマは、いつラマになったのですか?

ラマ あー(笑)。ラマになるのは簡単ではありません。仏教について深く学び、瞑想の修行もしなければなりません。

稲葉 なぜお坊さんになったのですか。

ラマ 私はチベットにおいて、正統的なチベット仏教の教えを学びました。その後、西洋に来たときに、物質的なものを学びました。インドで英語を学び、イギリスに渡り、アメリカに行き、ニューヨークで何年か過ごしました。そのあいだに人生の苦しみを見て、仏教の教えにもどったのです。そうしたことが仏教に対する信仰を強めてくれたのです。1980年に出家し、深く仏教を学んできました。私はいろんな国へ行き、いろんなものを見ることができてとてもラッキーでした。そして、人類のためになる教えをしなければならないと決心したのです。それは私が子どもの頃、教えられたことでした。

稲葉 日本の仏教についてはどう思います。

ラマ 日本の仏教はエッセンスを失ってしまっています。実践的な部分を忘れてしまっています。みんな現代の生活の進歩を享受するのに忙しい。お坊さんたちはお寺の経営に走り回っていて、人々が深いリトリートをしたいと思ったり、内面的なものを求めても、それに答えられない。私たちがなにか利益を得るとしたら、それは内面的な体験のほかにないのです。


 ラマ・イエシェは約2週間日本にとどまり、教えを説いた。その後は弟子のクレア・オコーナーさんが残り、カルマ・サンガ・リンを設立。活動を続けている。


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