After the "burn out"

interview with Minoru Takahashi









アイソレーション・タンクが燃えた。高橋実さんの
トータル・リコール研究所の名物の、タンクが火事で燃えた。
原因はなにか? 燃えたことにはどんな意味があるのか?
そしてトランスパーソナル心理学の未来は?


高橋実 ( たかはし・みのる )  1953年、千葉県生まれ。舞踏家、治療家、トータル・リコール研究所主宰。学生時代より演劇を始め、舞踏に転向。笠井叡、大野一雄に師事。自己の内面を肉体を通して直視する即興舞踏を模索しつつ、ソロ活動を展開。1985年に鍼灸、指圧、整体の治療院「からだはうす」開設。その間、トランスパーソナル心理学のセラピーを学ぶ。91年「トータル・リコール研究所」を設立。現在、日本各地で呼吸法を中心としたワークショップを手がけながら、年2回の舞踏公演を行うなど、治療と舞踏とセラピーを三本の柱にして活動している。


稲葉 タンクは日本でここにしかなかったんですか。

高橋 10年くらい前は10箇所くらいにあったっていうんだけど、経営的にうまくいかないんですよね。今は四谷のスポーツジムにあるらしいけど。本格的にやっていこうと思っているみたい。うちの岩田さんという北陸科学技術大学の修士論文でタンクに入ったんだけど、感覚遮断の研究で。

稲葉 高橋さんのタンクはジョン・C・リリーさんからもらったんでしたっけ。

高橋 あるアメリカ人が手作りで3台作ったんですよ。それをあるひとがお茶の水にマインドセンター弥勒という名前のブレインジムを作ったんです。それが一年半くらいでダメになって、ぼくに話が来たんだ。そのとき自分自身の展開を広くしていこうと思っていたし、スペースを持とうと思っていたので、置けるような場所をつくろうと。1991年のことです。タンクは4年しか生きなかったんだよね。けっこうぼろいものをぜんぶで180万くらいで買ったのかな。当時は輸入しようとしたら500万くらいしたからね。今はもっと自宅用に手軽に100万以下で手に入るみたいだけど。

稲葉 高橋さんはそれ以前に入ったことはあるんですか。

高橋 だからその弥勒の時に入ったんだけど、そのときはそんなに特別な体験の記憶はないんだけどね。ただ面白い装置だなあとは思ったんだけど。

稲葉 そのタンクを使ってどんな展開を考えていたんですか。

高橋 ぼくのなかではまず場というのがあって、タンクそのものの研究じゃなくて、ストレス社会のなかで自分たちを解放できる場がない、という現実。だらだらできるような場所、自分の衝動のままに動けるような場所が欲しかったんだ。そのときにタンクというのも瞑想をするのに有効な装置であるというは分かっていたし、ぼくは呼吸法やっていたでしょ。ブレスワークが動とすれば、タンクは静、というマッチングで行けると思ってトータル・リコールを始めたんだ。

稲葉 じゃあタンクを売り物にするというんじゃなくてもっと全体的な視点があったんですね。

高橋 タンクに入るだけじゃなくて、体験を共有したり内的なものをコミュニケートしていくシステムが皆無なんだ。僕たちの方法論というのはもう少し個人とのかかわりを重視していくやり方だからね。タンク入ってお茶飲んでさようならじゃ深まっていかないもんね。だから最初にパーソナルデータをとって、今のからだと心の状況、人間関係の状況なんかを書いてもらって、どういう人間なんだということを話してもらって、リラックスするために体操をしてもらって、瞑想しやすい状態になって入ってもらう。出てきたら曼陀羅を描いてもらって、話をする。


贅沢な時間

稲葉 全部で何時間くらいのセッションですか。

高橋 4時間くらいかな。ひとりにずっとくっついているわけだから、けっこうぜいたくな時間だよね。

稲葉 一日何人もできるわけじゃないし。

高橋 できても二人だよね。そういう贅沢さみたいなものは、リラクゼーションの場には必要なものだよね。今は早い、安い、うまいというものが多いでしょ。簡単ですぐ効果のあるものを求める。タンクっていうのは面倒くさいんですよ。脱いだりシャワー浴びたり、制約が多い。ひっくり返っちゃいけないとか。眼に水が入ると痛いんでね。その面倒くささというのがいいんですよ。簡単でかつ有効で早いという方向性というのはあると思う。人間の進化を促進してきた概念だと思うんです。

稲葉 コンビニエンス。

高橋 そう。これを治療に当てはめてみると、奇跡を求める方向なんですよ。あっという間に直ってしまう……。この奇跡を求める気持ちがある限り、僕たちは同じ過ちを犯していくと見ているわけ。もうちょっとゆっくりと地道に、自分自身の内側に広がっていけるか。ひとつの現象がすぐ片づくのではなく、どれくらい別のものとからみあいながらひろがりを持っているのかにきづく。

稲葉 目先の、とりあえず元気になるとかそういうことじゃなくて。

高橋 そういうジムで失敗したのはそういう視点はないから、ストレス社会から出てきて一時的に直ってもまたストレスを育てちゃう。永遠の繰り返しなんです。そこで体験したものをどうやって持ち帰って家庭や社会で生かしていくか、そう考えないとなんにも変わらない。だってストレスが生まれる場所はそのままなんだもん。

稲葉 商売として考えたらそのほうがいいかもしれないけど(笑)。

高橋 そうそう(笑)、絶対によくならないんだもんね。

稲葉 でも高橋さんの視点はずっと先を見ているというか、人生みたいなものを視野にいれている。

高橋 人生にかかわっていかなくちゃ。人間が変化していったって問題は起こるんだから。その新しい問題に対処していかなければいけないと思う。今ある問題を大事にしていたってしょうがない、と思う。ぼくは社会活動家じゃないけど、そういう意識は強いと思う。


タンクのなかではなにが起こる?

稲葉 実際にタンクを体験した人はどんなふうに感じたんでしょう。

高橋 一番典型的な例は、非常に抑鬱の強い、幽霊のようなひとが入ったときは、完全に失神してしまって、いくら呼んでも叩いても出てこないということがありましたね。こりゃあまた救急車かなって思って。なかにはいって足を揺すっても起きないからぼくもなかにはいって叩き起こしたら、はっと覚めたけどね。そういうひとは自分の体験自体は覚えていないんだけど、なにか浄化されるんでしょうね。なにか緩んだような、来たときとは違う晴れやかな顔で帰っていきましたね。

稲葉 タンクのなかではなにが起こるんでしょう。

高橋 最終的には、ぼくの体験なんだけど、自分のパターンですよ。ぼくらが黙っているといろんな考えのパターンや気分、妄想が浮かび上がってくる。そのときいくつかのチャンネルがあって、感情のチャンネル、言語的なチャンネル、映像のチャンネル。そういう自分の中で想起されるものがどこかでチャンネルが変わる。それがまたふと変わる。そういうふうにジャンプしていく。そういうパターンが見えてくる。自分が想起してしまったものに対して至高体験だと思うのではなく、どういうパターンで自分が動いているのかを見る。

稲葉 それが自分ということですよね。

高橋 そのパターンの現れですよね。身体的な感覚のパターンに行きやすいひともいるし、解釈しちゃったり、想像しちゃったり……。いまこう話していても、言語化しないけどいろんなものが出てきているわけです。

稲葉 それをきっちりと意識化していくことが大事なのですね。

高橋 そう。ああ、自分はこうやってメカニズムが働いているんだと分かること。それが肯定できればオーケーなんですよ。

稲葉 そのためには光とか音とかを遮断することは効果的なんですか。

高橋 自分しかないからね。刺激があるとそっちに持って行かれちゃうでしょう。ただ多くのひとの場合はイメージ的なものが多いですよね。ヴィジョンを見たとか。あとは身体的なリラクゼーション。

稲葉 身体は浮くわけですよね。

高橋 浮きます、浮きます。これも不思議な感覚なんですよ。まっくらですから上になっているのか下なのか分からない。宇宙空間に放り出されたような感覚ですよね。


肉体が消え、意識が浮上する

稲葉 アイソレーション・タンクに似たような、技法ってありますかね。

高橋 うーん、海に関するイニシエーションみたいなものがあればねえ。

稲葉 でも考えてみれば座禅だって、ある意味では身体感覚を滅していくということですから。

高橋 でもまっすぐに立たせているというのはものすごく不自然なことだからね。どちらかというと観念に近づこうとする行為だと思う。タンクは自然に同化しようとする。からだをあずけちゃう。ぼくとしては縦にするのと横にするのではまったく方向性が違うと思う。

稲葉 とすると人類の歴史のなかでも画期的なあり方なんですかね。横たわって浮くということは。

高橋 人間が立つということは上に行こうという指向性の現れだと思う。でも人間は地球を飛び出して宇宙へ行くことまで可能になってしまった。神への指向性というか、ヒエラルキーを作ってきましたよね。そういう縦に向かう構造があって、実際に宇宙に行ってみたら縦とか前とか後ろとかが意味がないじゃないですか。そこではじめてあずけるという方向性が見いだされてきたと思うんです。これからでしょうね。ほんとにあずけるということが分かってくるのは。

稲葉 別の意味でいうと、擬似的な死の体験……。

高橋 いや、もっと意識的なものが浮上しやすいですね。

稲葉 肉体はどんどん消えていく。

高橋 肉体が消えるという感覚は多いですよね。

稲葉 そうすると高橋さんは、面白いですね。こっちでは「からだはうす」みたいに身体にかかわることをやっていて、こっちでは身体を無くす方向でやっている。

高橋 ぼくは実際にはすごく観念的なひとなんですよ。だから逆に身体をやんなきゃいけないというのがあるわけ。身体をやってなかったら、たぶんすっとんでますよ。

稲葉 いろんなものを見るとか……。

高橋 え?

稲葉 吉福さんの話では、ワークの途中、参加者の生き霊(無意識?)が吉福さんに切りかかるのを高橋さんが見たって。

高橋 ああ、そういうものとか、夢で見たり。最近はシャーマニックなところが出てきて、そういうものとのつながりも深いと思います。

稲葉 恐山では……。

高橋 あのときは幽霊を。

稲葉 やっぱり見てるじゃないですか。

高橋 そうそう(笑)。あのときはウエディングドレスの花嫁が出てきましたね。あとタキシードの花婿と。

稲葉 そういうのを見て、なんともないんですか。

高橋 当たり前だと思っているから。そういうのを見てあり得ないと思うのは、自分を抑制しているだけでしょ。目の前であったことはあった。それをどうキャッチングするかというのはそれまで学習してきた回路によって決まるから。疑問を持つというのはそれまでの体験と比較しているからでしょ。比較しないで、ストレートに受けとめればいいんですよ。でもみんながいっている幽霊とぼくが見た幽霊は違うかもしれないし。

WHO ARE YOU?18号より抜粋)


トータル・リコール研究所は、1991年にアイソレーション・タンクによるメディテ ーション、および呼吸法のワーク、鍼灸、指圧、整体を用いた治療、さらに舞踏の塾 などを行なう“場”として設立されました。95年の火災によりアイソレーション・ タンクは焼失し、現在は呼吸法と治療と舞踏を三本柱に活動している。

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