打ち抜かれた女神
2002/11/09(Sat)
シェム・リアップ(カンボジア)
東南アジア最大の遺跡とも言えるカンボジアのアンコール遺跡群、世界遺産として今では多くの観光客が訪れている。クメール人が独自の宇宙観をもって広大なスケールで建立した数々の遺跡、そのどれにも現代でも驚異と言える美しい彫刻の数々が残っている。そしてその中でも一際目立つ彫刻が女神デバダーだ。古代遺跡でありながら現在のカンボジア女性に通じる豊かな姿はほとんどの遺跡に見られそして美しい。ところがこの古代遺跡、昔から現在のように自由に観光できるわけではなかった。実はカンボジアが正式に内戦を終結したのは1991年10月23日の「パリ和平協定」のこと、つまりこのカンボジアは戦後10年ちょっとしか経っていないのである。特に激しかった1970年代後半のベトナム戦争ではアンコール・ワットは共産勢力クメール・ルージュの要塞となり、このアンコール遺跡群周辺では激しい戦闘があったらしい。そしてそれを物語るように、アンコール遺跡群には数々の当時の弾痕が残っているのである。私がバンテアイ・クディという外れにある小さな遺跡で撮影したこの女神デバダーは、ちょうど胸のど真ん中を打ち抜かれ無惨な姿だが、とても暖かい笑みを浮かべていた。彼女はそこで争うカンボジア人を見、そして今の平和に生きるカンボジア人を見て何を思うのだろう。戦争は何も生まない。
Nikon F80D, Nikon AF Zoom Nikkor 28-80mm F3.3-5.6G