カンボジアの国境からシェムリアップに向かう私を乗せたピックアップトラックは、入国して２時間弱ほど行った街シソポンで昼食のため停車した。国境の街と変わらない非常に貧しいこの街では、ここを通る旅行者は絶好の商売相手である。食堂でナシゴレンを食べ終えた私が付近を散策していると、自宅で作っているのかそれともどこからか仕入れてきたのだろうか、インクで文字が入っているパンを売る一人の少女が近づいてきた。私が写真を撮らせてもらおうとカメラを向けても、彼女は決して笑わなかった。ここら辺の子供達は笑顔が素朴で素敵なのになぜだろう。それほど生活が切迫しているのか、それとも単に異国の人間に警戒しているのか。何か複雑な気持ちになった私は、結局そのパンを買うことができなかった。