スリランカはこの5年間、ピラマナランクラムという小さな村を境に分裂していた。その南はスリランカ本土で、その北は、世界でもっとも強硬で暴力的な分離独立グループであるLTTE(タミル・イーラム解放のトラ)の支配地であった。その間には100ヤードの緩衝地帯が横たわり、両陣営により地雷が敷設されていた。ところが先週になって、銃眼付きの胸壁が驚くべき早さでいとも簡単に取り壊されてしまった。狭い通りを封鎖していた重い丸太が、スリランカ政府の兵士によって脇へ押しやられ、LTTEの占領地側から一人の女性が出てきて、ためらいがちにぶらぶら歩き始めた。「これは素晴らしいわ」5人の子の母親である、そのパドマバティ・マハリンガムさんがこう言うと、その後から、切手を買ったり電話をしたり医者に行ったりと、戦争のない生活を再びこの目で確かめようと400人ほどがぞろぞろと出てきた。「この闘いにはうんざりよ。早く終わってほしい。」

 スリランカでは血なまぐさい民族紛争がこれまでほぼ20年続き、その間の犠牲者は少なくとも7万名にも上る。そして考え得るあらゆる停戦の試みは、ことごとく水泡に帰してきた。今日ようやく初めて、和平協定による解決の道が可能となってきたようである。スリランカ政府とLTTEは1年間の休戦協定の宣言にこぎつけようとしており、そうなれば、もうジャングルのゲリラ活動も自爆テロも、そして海からの上陸攻撃もなくなるのだ。LTTEの占領地と他の地域を隔てていた境界線は徐々に開かれつつあり、人々は再び自由に往来ができるようになっている。両陣営の選んだ調停役であるノルウェーの外交団によると、タミル人分離独立の要求をLTTE自身が実質的に取り下げ、もし交渉がうまく行けば、兵を撤退することに同意したという。

 なぜこのような動きになったのか、その原因として双方の側の大きな変化があげられる。まず政府側には、非常に幸運な政治の動きがあった。そもそもタミル人の問題を生み出す原因の一つになったものに、この国の二政党間の対立があり、それが過去の和平のチャンスを何度もつぶしてきた。だが今日、その政党のどちらも政権の座についている。大統領の座にはスリランカ自由党(SLFP)のチャンドリカ・クマラトゥンガが、そして首相の座には統一国民党(UNP)のラニル・ウィクラマシンハが就任し、その双方が、終わりなき戦争の余裕などスリランカにはこれ以上ないと認めているのだ。財政赤字は国内総生産(GDP)の10%にも達し、観光業の衰退と外国投資の激減により経済は収縮するばかりである。先週の独立記念日の演説の中で、クマラトゥンガ大統領は「(シンハラ人とタミル人との)建設的同居の新たなシステムを発展させる歴史的な機会」を宣言した。またウィクラマシンハ首相は「分裂を生じさせる勢力」を激しく非難し、「平和の希望を目覚め」させたいと語った。

 LTTEの側の状況は、9/11の結果を受けてさらに劇的に変化した。周囲から恐れられるその指導者ベルピライ・プラバカランは紛れもない自由の戦士であり、スリランカの少数民族タミル人に祖国を与え、多数派である仏教徒のシンハラ人による数十年にも及ぶ差別からタミル人を解放しようと、彼はこれまで19年にもわたる仮借なき闘いを挑んできた。だが彼の凶暴で復讐心に満ちたやり方が現在、海外で非難の的となっている。彼の指揮するLTTEは、神風特攻隊以来もっとも見事な自爆部隊を持っており、おそらく9/11のテロはそれに着想を得て鼓舞されたものであろうが、現在アメリカ、イギリス、オーストラリア、インドなどでLTTEは非合法組織とされている。こういった国々は国内に、LTTEの反乱に秘密裏に資金供給してきたタミル人をそれぞれ数千人抱えており、9/11以前はその活動が野放し状態であった。現在、その彼らは地下に潜り、資金調達が非常に困難になっている。プラバカランのLTTEもスリランカ政府も共に、軍事的に見て戦争に勝利することは難しいようではあったが、もし現在スリランカ政府が、アメリカや、テロに対抗する国際的な連合国の援助を求めれば、LTTEは大敗北を喫するであろう。シンハラ語の有力週刊誌ラバヤの編集長ビクトル・イバンは次のように言う。「9/11以降の国際社会における変化とLTTEの非合法化を受けて、プラバカランは、もはやこれまでと同じように続けていくことは出来ないと悟ったようです。」

 とはいえ、十代の頃からゲリラ戦士として生きてきた男が、殺伐とした政治力学のために密林のゲリラ戦を放棄するとは想像しがたいことである。現在47才のプラバカランは、これまで多くの休戦協定や和平交渉に同意してきたが、それは常に、組織を再編成、再武装し、そして戦闘に戻るための時間稼ぎにすぎなかった。彼は誇大妄想癖のあることで有名で、内部の組織反乱を恐れて、信頼する副官の数名を処刑するよう命令したという噂もある。彼は深さ12メートルの掩蔽壕に住んでいる。周囲を自爆部隊「黒いトラ」に守らせていて、その中には「極楽鳥」という名で知られる女性部隊も含まれている。プラバカランはここ10年近く、公衆の前には姿を現していない。彼の信奉者も犠牲者も一様に、一年にただ一度だけ、LTTEの秘密ラジオで放送される殉教者の日の演説で、彼からのメッセージを受け取るだけである。だが昨年の11月は様子が違った。いつものように戦いのスローガンを叫ぶのではなく、彼はそこで国際社会の承認を得ようとしたのである。「我々はテロリストではない」こう彼は声明を発した。「崇高な目的、つまり人間の自由のために、我々は戦い、命を犠牲にしているのである」と。しかし、LTTEをそのように解している政府はほとんどない。インドでは、彼は殺人罪で指名手配されている。その「極楽鳥」部隊の一人が腰に爆弾をくくり付け自爆することで、当時のインド首相ラジブ・ガンディを殺害したのである。スリランカでもLTTEは無数の暗殺事件の責任を問われている。これまで大統領一名、他数名の大臣を殺害し、また14ヶ月前には、現クマラトゥンガ大統領を暗殺するため自爆テロ犯を送っている。大統領はその事件で一命を取りとめたものの、片目を失明してしまった。しかし、それにもかかわらず、TIME誌に語ったところによれば、ウィクラマシンハ首相は、もしプラバカランが進んで孤立状態から脱し交渉の場につこうとするのであれば、彼と彼の手下の罪をすべて赦免するつもりであるという。

 多数派シンハラ人の熱狂的な愛国主義者たちはすでに、この和平に向けた動きに対して反対活動を開始しており、その彼らの激しい抗議活動が懸念されるが、ウィクラマシンハ首相は、完全な分離独立を除くいかなる条件をも協議する用意があると述べている。彼はこう述べる。「我々は、スリランカ領土の保全を守る一方で、解決策を求めて可能な限りの努力をするつもりでいる。我々は、スリランカ国民を構成するすべての者の利益を守る解決策を望んでいるのである。」

 ピラマナランクラムの村や他の地の前線を開放すれば、物資が行き渡り、物価が下がり、一陣の自由の風が吹くようになり、そうすることにより、少しばかりタミル人の心を掴むことができるのではと、スリランカ政府は願っている。だが、それもまた苦しい闘いである。戦争に飽き飽きしているとはいうものの、タミル人は、全人口の72%を構成する多数派シンハラ人によって受けた長年の侮蔑を忘れてはいない。LTTEの専制的な支配を体験してきた多くのタミル人だが、彼らはLTTEやその主張に背を向けることをしなかったのだ。「僕はLTTEを支持もしなければ、反対もしない」と、26才の農民ムトゥさんは言う。「僕は彼らに支配管理されているだけだ。」71才のムルゲン・ベリヤルさんは、政府軍の攻撃に対して人間の盾としての役割を果たすため、自分のバニ村から逃れずに、そこに留まるよう強制された。そういうことがあるにもかかわらず、ベリヤルさんはそれでもなお、タミル人の祖国の独立を望んでいる。「そうでなければ」彼は言う。「すべてが無意味になってしまうじゃないか。」

 それが問題なのである。あまりにも多くの人間が死に、この闘いに費やしてきた年月があまりに過酷だったので、多くのタミル人は、そのすべてを正当化してくれるものを欲しているのである。そしてプラバカランが彼らのためにそれをもたらしてくれると固く信じているのである。「そもそも問題の始まりがLTTEにあったのではない、ということを忘れてはならないでしょう」穏健派の政治グループ、タミル国民連合のP・サンパンタン氏はこう述べる。「私たちは過去50年の間、政府にタミル問題の解決を呼びかけてきました。政府は、プラバカランがその無敵戦士を連れてやってくるまで、何も手を打たなかったのです。」

 ボールは今や政府の方に返されている。プラバカランは独立の要求を撤回したのだ。だが、正真正銘の自治権を主張している。スリランカ政府は、多数派のシンハラ人有権者がどの程度許容するか決断しなければならないのだ。「これは綱渡りのようなものさ」と、ムトゥさんは説明する。彼はLTTEの支配する村に住んでいるが、求められてもLTTEに加わるのを拒否してきた。

 もし加わっていれば、先週末、スリランカ北部と南部をつなぐ国道A9号線の地雷の撤去を始めたLTTE兵士や政府軍兵士の中に、彼も混じっていたかもしれない。1997年以来、この道路をめぐる戦闘では、スリランカ政府軍兵士3000名を含め、8000名もの命が犠牲となった。今、6年ぶりに、敵同士がこの道を共有することになる。ひょっとしたら、数カ月で地雷を埋め戻すことになるかもしれないと、兵士の何人かが笑って言った。だが、あるいはひょっとしたら、今度こそ平和が勝利をおさめ、この道は明るい未来につながることになるかもしれない。