タリバン支配の最後の砦、カンダハルには、干しぶどうやピスタチオを売る露天商の並びを少し奥に入っていくと、アフガニスタンのウォール街とも言えるアヘンバザールと呼ばれる取引き街がある。タリバンはインサイダー取引きの罪を犯しているのだ。2年前の夏、この喧噪に満ちた路地を出入りする大口の顧客の中には、地元のタリバンの指揮官たちの姿が見られた。彼らはアヘンの供給が今にも激減しそうだという内部情報を密かに得て(タリバン最高指導者ムラー・モハマド・オマールがケシの栽培を「非イスラム的である」と宣言したのだ)、そこに大儲けする機会を見たのだ。

 その当時、市場でのアヘン相場は低調であった。アフガニスタンは、全世界のアヘン及びその誘導体であるヘロインの75%を供給していた。粘着性の緑色がかった黒色アヘンは1kgわずか30ドルにすぎなかった。タリバンの指揮官たちは何トンものアヘンを買い占め、カンダハル周辺やパキスタンとの国境周辺の部族民の土地の倉庫に、そのアヘンを貯蔵し始めたのだ。オマールがケシの栽培を禁止した翌年、アヘンの年間生産はその前年の3,300トンから185トンへと急激に減少したと国連の麻薬担当官は言う。価格が急激に跳ね上がり、カンダハルでは、9月11日のアメリカへのテロ攻撃の前には、1kgあたり700ドルの値をつけられていた。「タリバンの指揮官の中には、それで稼いだ巨額の財産を得意げに喋っている者もいました」クエッタでインタビューを受けたカンダハルの商人、ハジ・モハマドはそう語る。

 2000年夏のアヘンのにわか景気の間、カンダハルのバザールでは、アフガン通貨を扱うような無駄なことをする者は一人もいなかった。受け入れられたのはグリーンバック、つまりドルだけだった。モハマドによれば、狂ったように取引きが行なわれ、商人たちはわざわざお金を数えることもしなかったほどだと言う。どうしたのかというと、天秤を使って予め数えておいた100ドル紙幣のつまったバッグを量って計算したのだ。(仲間をだます者は、このバザールでは長続きしない。)数名の有力なタリバン指揮官を含め、それまでアヘンを買いだめしていた者たちは、テロ攻撃後の数日間、それを売り払い、差し迫るアメリカとの戦争に備えて資金を貯え始めた。彼らはまた、アメリカのミサイル攻撃に合い、その一基100万ドルのもうもうとした煙りの渦の中に、自分たちの店が灰燼に帰してしまうかもしれないと心配していた。クエッタにやってきた取引き業者はそのように言う。だが、これまでのところ、アヘンバザールは、絶えまなく続くアメリカの爆撃を逃れているようである。

 アメリカが攻撃を始めれば、タリバン指導者は報復行動として、農民にケシの栽培を再び許可するのではないかという噂も広まった。だがムラー・オマールは先月、ケシの栽培禁止を解除するつもりはないと述べた。彼は、さらに厳しい口調で、自分の布告に従わない農民は誰であれタリバンが死刑にすると脅した。現在、カンダハルやペシャワール周囲の部族民のバザールでは、アヘンは1kgあたり約380ドルの値がついている。そこではパシュトゥン人商人が、レンガ状に固めたアヘンやハッシッシをガラスの陳列ケースに入れて商売をしている。

 タリバンの意図に関しては、専門家の意見は別れている。オマールのケシ栽培禁止は、アヘンとヘロインの価格を釣り上げるための意図的な動きだったと主張する者もいる。また、片目のこのイスラム聖職者は、国際社会に加わり麻薬を一掃することに寄与したいと心から願い、飢えたアフガニスタンの農民たちに援助の見返りを期待していたのだという者もいる。アメリカに対するテロ攻撃が起こった時、小麦の種子の入った袋と肥料を与え、労働意欲を高めるという援助計画が始まっていた。だが、その後すぐに、国連はアフガニスタンから外国人スタッフを引き上げてしまった。

 9月11日以降、カンダハルから逃れてきた商人たちの声を聞けば、自分の指揮官たちがアヘンの取引きで大儲けをしていることをオマールは知っていたと言う。そしてオマールもまた利益を得ていたというのだ。「最高指導者になった時、オマールは破れたスニーカーをはいていた。」商人のアマヌラー・キルジはこう語る。「だが今、彼は、ドバイから取り寄せられた真新しいピカピカの防弾のランドクルーザーを7台も持っていて、そいつは、密輸をしているオマールの友人からの贈り物だ。」ケシ栽培の禁止以前に、タリバンはケシ栽培に税金をかけ、3,000万ドルをかき集めたと国連麻薬担当官は言う。

 ワシントンでは、タリバンとサウジアラビア人テロ容疑者オサマ・ビンラディンがぐるとなって麻薬取引きをしていると、議会議員は主張している。最近行なわれた議会の公聴会では、共和党議員マーク・サウダーが「麻薬の不正取引きと国際テロとの闇のシナジー(共力作用)」について発言した。過激なアフガン人イスラム原理主義聖職者の中には、麻薬は西洋社会を損なうための正当な武器だと主張する者もいるが、ビンラディンのアル・カイーダ組織がアフガンのヘロインを使い、その犯行を疑われているテロ活動の資金調達をしたという証拠はないのである。ビンラディンの資金のほとんどは、湾岸諸国や中東の富裕なイスラム教シンパから集められたものだと、イスラマバードのアラブ人外交官の一人は語る。「ビンラディンは自由に使える豊富な資金を持っています。麻薬に手を染める必要などないのです」と、その外交官は言う。

 一方、ワシントンの手に負えない同盟軍、北部同盟の支配する州の一つが、今年のアフガニスタンのアヘン生産のほとんどを占めている。先月発表された国連の麻薬調査では、バダフシャン州の農民たちが険しい山々の谷間を、深紅のケシの花で覆いつくしているのが示されている。国連は人工衛星や地上の調査官を使い、今年のバダフシャンにおけるケシの栽培面積が2,458ヘクタールから6,342ヘクタールまで急増したと決定した。これは、今年のアフガニスタンのアヘン全生産量185トンの83%を占めるものだ。麻薬商人たちが素早く農民に現金を前払いし、作付けを確保したのだ。それでも、麻薬問題の専門家に言わせると、その供給は去年の収穫と較べてけた外れに減少したのだと言う。

 その麻薬のほとんどは、モルヒネや質の低いヘロインに加工され、イランの砂漠を越え、あるいはタジキスタンを通り、あるいはまたパキスタンの港カラチを経由して、ヨーロッパに渡ってくる(その一部はアメリカにも渡る)。イスラマバードの国連麻薬管理計画局長ベルナール・フラーイによれば、パキスタンには現在、50万人ものヘロイン常用者がいるという。ペシャワールではヘロインは安価だ。彼らは、カイバル峠に到る道沿いの、ゴミで埋まった下水溝に集まる。彼らのサルワール・カミーズはしみで変色し、汚くよごれている。ジャンキーの一人が彼らのただなかでヤクをやりすぎ、崩れるように倒れ込み、ゲーゲーと吐いていても、彼らは無関心で、一人ひとりばらばらだ。そして、アフガン国境へとつながる道沿いの、浅い墓穴に仲間の一人が投げ捨てられ、岩をかぶせられても、彼らは気にもとめずに、そばを足をひきずって通りすぎていく。

 戦争の長期化に直面すれば、アフガンの農民たちは、オマールによる死刑の脅しにもかかわらず、今月再びアヘンの作付けをせざるを得ないだろう。「彼らは命がけなのです」と、ウィーン麻薬管理と犯罪防止オフィスのアフガニスタン問題専門研究員、モハマド・アミルキージは言う。「それが、彼らが生活を支えていける唯一の作物なのです。」アフガニスタンに爆弾が降り注げば注ぐほど、確実に多くのヘロインの花が咲くことになる。