スリランカの内戦は長く熱い。スリランカ政府軍と、北部及び東部スリランカを少数民族タミル人の「ホームランド」と主張し分離独立を望む武装ゲリラLTTE(タミル・イーラム解放のトラ)との18年にもおよぶ戦闘はこれまで、少なくとも6万人もの死者を出してきた。そして、主にLTTE側の非妥協的な姿勢のため、これまでの平和交渉はすべて失敗してきた。双方一進一退を繰り返す激しい戦闘がいくぶんおさまった時ですら、LTTEは残忍な爆弾テロや暗殺などの攻撃の手を緩めることはなかった。
今再び、その全面戦争の火ぶたが切られ、LTTEが優位に立っている。4月22日、LTTEは、戦力的要衝であるエレファントパスの政府軍基地の陥落に成功したのである。エレファントパスとはスリランカ本土と北部ジャフナ半島をつなぐ地峡であり、その陥落に成功したLTTEは再び北部に進撃し、かつて1990年から95年までの間支配し、その後政府軍によって制圧されたジャフナ半島を奪還する構えを見せている。(ジャフナ半島は、スリランカ全人口の12.5%を占める少数民族タミル人がほとんどを占め、LTTEが何らかの分離独立地域を勝ち取った場合、その中心地区になると考えられている。)そのジャフナ半島には現在、約2万5千の政府軍兵士が取り残されている。
スリランカ政府がジャフナ半島を死守できるかどうかは疑わしい状勢だ。1万もの政府軍兵士が、4千のゲリラ兵を相手にエレファントパスの防衛に失敗し、数千名もの兵士が北方に退却してしまったのだ。LTTE側が全面攻撃をかけてくる前に、ジャフナ半島に取り残された部隊を撤退させるだけの艦船も軍用機も、スリランカ政府にはないのである。だが現在LTTE側も、全面攻撃となった場合不可避的に起こる大規模な虐殺を前に、スリランカ政府大統領チャンドリカ・クマラトゥンガが兵を撤退させることができるかどうか、その成りゆきを見守っている状態である。「ジャフナ半島に残った政府軍兵士の皆殺しなど、LTTEは望んでいないと思います」こう語るのは、ロンドンで発行されている、LTTE寄りの月刊誌ホットスプリングズ編集長スブラマニアム・シバナヤガム氏。「彼らが望んでいるのは、ジャフナ半島から政府軍が出ていくことなのです。」
この4月22日のLTTEの攻撃は、政府軍兵士ばかりではなく、クラマラトゥンガ大統領自身を危うい立場に追い込んでしまった。先週のある真夜中、スリランカ政府は新たな戦時策と民間人に対する規制を発表した。政府を批判したり集会を開くことが違法となり、国内紙に対する検閲が外国人記者にまで及び、そして、「あまり重要ではない」開発計画の予算はすべて、即座に軍に振り向けられることとなった。そういったことを、スリランカ人は翌朝目覚めてみると、突然知らされたのである。また、クマラトゥンガ大統領は武器弾薬の支援を外国に要請、その取引きのため中国、イスラエル、イラン、ロシア、ウクライナなどの武器業者がスリランカの(旧)首都コロンボに駆けつけた。
スリランカは週半ばになって、ジャフナ半島から部隊を避難させるための艦船や上空掩護の戦闘機などを含めた軍事支援をインドに要請した。だが、前回インドがスリランカ内戦に関与した際、その結果は両国にとって悲惨なものとなってしまった。1987年から90年までの間、インド軍は7万もの兵でスリランカ領土の3分の1を監視下に置き、内戦の終結を無理にはかろうとしたことがあるが、結果は失敗に終わり、その平和維持活動においてインドは1千名の兵を失ってしまう。しかも、スリランカ国内にインド軍が駐留することに対する、スリランカ民衆の反感をうまく利用した左翼過激派グループにより、スリランカ政府はあやうく転覆されかけたことすらあった。スリランカに新大統領が誕生すると、インド軍は撤退を命じられる。そして1年後には、インド軍の派遣に役割を果たしたとして、インド元首相ラジブ・ガンディーがLTTEの自爆テロにより暗殺されてしまう。それゆえインドは今回、当然のことながら、スリランカ兵を避難させる手助けをきっぱりと断ってしまったのだ。
国内の政治的な事情を考えると、インド首相アタル・ビハリ・バジパイにとって、他のいかなる形であれ軍事援助をすることなど、ほぼ不可能なのである。彼は連立によって政権を維持しており、その連立パートナーのいくつかが、南部インドのタミル人政党なのである。彼らは、自分達の民族的同胞には共鳴するが、スリランカの多数派民族シンハラ人には共感を示さない。だが同時にインド政府が懸念しているのは、スリランカの申し出に対して、パキスタンと中国の両国がともに、より好意的な反応を示していることで、そうなると、インド洋地域における彼らの影響力が、増大してしまう恐れがあることだ。
クマラトゥンガ大統領は、去年12月、LTTEの犯行であることがほぼ確実だとされる爆弾テロにより、右目の視力を失った。二期目の大統領として再選される、その数日前のことである。彼女は今やその右目だけではなく、ジャフナ半島を、そしてさらに多くのものを失う可能性があるのだ。どうやら政府軍は能力に欠け、この戦争に勝利することはほぼ不可能であるように思える。非常に多くの政府軍基地を潰滅させたLTTEは現在、政府軍よりも優れた武器を装備していると考えられている。クマラトゥンガ大統領の報道に対する検閲のおかげで、大多数のスリランカ人は、大敗北が決定的なものとなるまで、このエレファントパスの3週間にも及ぶ戦闘のことは、知ることすらなかったのである。その彼らが今、おびえている。「私たちは一体、この問題を克服できるのでしょうか」コロンボで働く警備員がこう語る。LTTE最高指導者のベルピライ・プラバカランは昨年11月、支持者に対して、2000年は戦いの年になるであろうと語った。彼はその約束を忠実に守ったのである。