ネコ科の猛獣にも王位がある。ライオンは百獣の王であり、トラはその気高きプリンスである。そして、こっそりと忍び寄る狡猾なヒョウの地位は三番目で、美しき下男といったところであろうか。インドの広大な野生動物保護区は、この三種のネコ科の動物たちに豊かに恵まれた場所だ。だが、ライオンとトラは数の激減のため、特別な保護活動の焦点となっているのに対して、現在、密猟者や野生動物の違法取引き業者の脅威に、最もさらされているのはヒョウであるかもしれない。「トラは稀少化しているので、インドの違法業者はその注目をヒョウに移しつつあるのです」こう語るのは、国連「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引きに関する条約」( CITES 通称サイテス、いわゆるワシントン条約のこと:訳者)監視部門のチーフ、ジョン・セラー氏。密猟により殺されているヒョウは、毎年およそ1000頭にのぼると推定され、このまま現在の割り合いで減少すると、あと10年でヒョウはインドから消滅してしまうと保護活動家は警告する。

 この危険性がまさしく本当だということを示す出来事が、昨年下旬、インド北部のウッタルプラデシュ州で起こった。消費税検査官がある一台のトラックを止め、積み荷を検査した時のことである。そこで検査官たちは偶然、きちんとたたまれたヒョウ皮の梱包を発見したのだ。野生動物保護局の職員が呼ばれ、1月12日、小さな町の皮なめし工場に警察の手が入った。トラックと工場の二ケ所からの押収品は、まさにジャングルにおける大量殺戮とも呼べるもので、それは、120頭ものヒョウ皮、(推定1000頭もの死体から抜き取られた)18000本ものヒョウの爪、ヒョウのペニス、7頭のトラの毛皮、(30頭以上の)132本のトラの爪、そして合計175キログラムのヒョウ、トラ、その他の動物の骨に及んだ。何枚かの毛皮には番号がつけられ、"Tsering" と署名がなされていた。これはおそらく取引きの首謀者の名で、彼はネパールやチベット経由でこの密輸品をこっそりインド国外に持ち出そうとしていたのではないかと、当局は疑っている。

 今まで、インドの保護活動家たちは、ヒョウの運命について、それほど深刻な懸念を抱いてこなかった。というのも、ヒョウは、他の大型のネコ家の動物たちよりも、はるかに生命力が強く、順応性に富んでいるからである。群れをなさず狡猾なヒョウはインド亜大陸のいたるところで見られ、人間と並んで、低木地から伐採で丸裸になった林にいたるまで、過酷な様々な住環境の中で生き延びてきた。彼らは、ほとんどどんな獲物でも、狩りをし、エサとすることができるのだ。だが残念ながら、後に保護活動家に転じた伝説のハンター、ジム・コーベットが「ジャングルの動物すべての中で、最も美しく最も優美な」と称したこのインドのヒョウは、同時に、自然動物学者によって最も研究調査がなされていない動物でもある。インドの野生の中で、いったいどれほどのヒョウが生きているのか、誰もはっきりと分からないのである。1万頭という数がよく引き合いに出されるが、実際はその数を下回ることが十分にあり得る、と保護活動家は言う。

 現在、ヒョウは、トラとまさに同じ天敵、つまり中国や日本、その他の東南アジア諸国の漢方医によって存在を脅かされている。ヒョウの体の各部分は、トラのものと容易に間違われやすいため、トラの各部位を利用した漢方薬を売買する薬剤業者によって高額の値がつけられるのである。トラの部位の売買が禁止されているにもかかわらず(アジア主要各国の中では、日本がもっとも遅く、今年4月1日から販売が禁止される)、このような治療剤に対する需要は伸び続け、インドは世界最大の供給国となっている。昨年1月以来インド野生生物保護協会が公式記録した、殺されたトラとヒョウの数はそれぞれ61頭と188頭であるが、実数は少なくともその7倍になると推定されている。というのは、野生生物犯罪はその大半が報告されないままになっているからだ。(インド政府は、国内の密猟件数の統計すらとっていない。)

 ヒョウはまた、ファッションに敏感なアジアの新富裕層の犠牲ともなっている。毛皮が再び流行し、ヒョウ皮は、その商業利用が禁止されているにもかかわらず、需要が高い。目を見張るほど美しいこのヒョウ皮は、女性の上着、ハンドバッグ、靴などにうってつけなのである。「トラの皮は、なめした後、ラグぐらいにしか使えません」保護活動家のアショク・クマルさんはこう語る。「しかし、ヒョウ皮は、なめすと工場製の布地のようになり、とても柔らかくなります。インドのヒョウが大量に殺されている背景には、この突然の需要の高まりがあるのです。」

 ウッタルプラデシュ州で回収されたヒョウ皮には、どれ一つとして弾痕がない。これは、ほとんどの場合、密猟するのは村人たちであり、彼らはヒョウを農薬で毒殺するためである。彼らがヒョウを殺すのは、家畜や人間を襲ったことに対する報復の場合もあるが、多くの場合、都市の犯罪集団が村人を動かしているのである。しかも、こういった野生動物を取引きするマフィアは、複数の州にまたがって活動を展開しているのに対して、インド中央政府はいまだに効果的な防御策を見つけだせないのだ。「インドに欠けているのは、密猟や違法取引きに対抗するため野生生物犯罪を取り締る、国としての専門部局です」こう語るのは、国連職員で、推定60億ドルにものぼる絶滅危惧種の国際取引きを監視しているウィレム・ワインステカース氏。「多くの場合、そういう問題の存在すら直視したがらないようです。」

 特にヒョウは、役人の無関心の犠牲となりやすい。毎年インドは野生動物の保護に、およそ7000万ドル費やしているが、そのうち6500万ドル近くを、ライオン、トラ、象の保護を目的としたプロジェクトに振り当てている。だが、そこから漏れたヒョウは、いかなる保護計画の対象ともなっておらず、野生生物犯罪のいいカモとなっているのである。「このままでは、トラの絶滅よりも先にヒョウが絶滅してしまうことは、100%確実です」トラの専門家、バルミク・タパール氏は、こう警告する。「どちらを先に絶滅させるかというこの殺しのゲームは、野生動物に対する適切な政策・管理があって、初めて止められるのです。」ウッタルプラデシュで押収されたヒョウ皮、骨、ツメは保護活動家を唖然とさせた。そして、インド政府はここにきてやっと、野生生物犯罪に取り組む迅速な行動部隊の設置を検討し始めている。だが、毛皮にされてしまったヒョウにとっては、それすら遅すぎることだろうが。