1991年の1月、アメリカの爆弾がイラクに雨あられと降り注がれた時、現地から地方標準時を五つもまたいだ場所でCNNのライブ映像を特に熱心に見つめる者達がいた。北京である。中国にとって湾岸戦争は大きな衝撃だった。21世紀の扉を開けるその戦術と兵器は、巨大だがすでに時代遅れの中国軍の限界を、これ以上にないほどはっきりと見せつけていた。高性能爆弾、柔軟な指揮系統、そして次々と繰り出されるハイテクを駆使した攻撃は、人民解放軍を世界一流のレベルに引き上げようと準備していた北京の指導者層を圧倒した。中国国防相では「ハイテク条件下での限定戦」という言葉が合言葉となって流行り、そして中国は今や、ハイテク超大国を目指して、買い付けとスパイの道を突っ走っているのである。

中国がその巨大な軍隊をどのような方法で刷新しようとしているのか、ワシントンの者達をよりやきもきさせる一つの調査結果が出された。特に厄介なのが、アメリカに対する中国の大規模なスパイ攻勢だ。先月ホワイトハウスに提出された極秘の議会報告書では、北京が驚くべきスパイ活動の糸を引き、その工作員が20年もの間アメリカの極秘事項を盗み出していたことが示されている。米議会委員会は半年前、航空宇宙会社二社の関わる疑惑調査に乗り出した。ヒューズ・エロクトロニクス社とローラル・スペースアンドコミュニケイションズ社が、弾道ミサイルの性能向上に役立つ、非常に重要なロケットデザインの情報を中国に提供したというものだ。委員会は、二社がクロだと断定した。だが、委員会の調査がさらに進むにつれ、「我々はすぐに、はるかに深刻な問題に行き当たった」と委員会議長で下院議員のクリストファー・コックスは言う。

中国は、機密事項を盗み出すのに真空掃除機のような方法を取り、どのような情報であれ見つけだせればすべて吸い上げているとアメリカの調査委員達は言う。中国の公式の諜報機関は国家安全相であるが、数十の他の政府機関がそれを補完し、それぞれが何らかの諜報活動を行っているのだ。また、香港のダミー会社やアメリカ企業との共同生産契約などを隠れみのとして、軍事関連の機密事項を収集している。

調査委員達によると、中国は今でも情報活動において人的資源を重要視しているのだという。アメリカを訪れる中国人民間人は多くの場合、国家のために情報収集を強いられる。また、アメリカで操業している国際的な企業に潜伏し、任務が発生した際に呼び出されるのを待っている者達もいる。「中国は、利用できる者や情報に近い者なら誰でも使います」あるCIA筋はこう言う。「それはあらゆる分野に及んでいて、見境がありません。」

この二、三十年の間に、米中の緊張緩和が進み、北京には情報を手に入れる機会が非常に増えた。1980年代にアメリカの原爆の研究施設を訪ねた中国の科学者が、中性子爆弾とトライデントIIの核弾頭の設計情報をくすねたことなどは、その一例である。トレードショウでは中国の商務官が会場をうろつき、兵器体系のデモビデオをこっそりポケットに隠したり、極秘の組成を分析できるよう、展示されている化学溶剤にネクタイの端を浸したりする行為が今までに見つかっている。中国のスパイ達は、お払い箱となった航空機器を買うため、米軍の払い下げセールに出向いたりもしている。

ヒューズ社とローラル社は、中国のロケット「長征」に乗せて人口衛星を打ち上げている。それが二度、打ち上げ時に失敗し爆発を起した時、二社は欠陥修正の情報を中国に提供したのだが、その際に中国のミサイル計画を援助したという疑いが持たれているのだ。二社は否定している。また北京も、これを「馬鹿げていて、無責任な主張だ」としている。これまで中国とのより緊密な関係を推し進めてきたホワイトハウス内では、コックスの報告書は中国諜報機関の脅威を誇大にあおり立てるものだと主張する側近の声が聞かれる。中国のこのスパイ大作戦(「大躍進運動」)も、毎回同じように成果が得られたわけではないと彼らは言うのだ。

おそらく、その当然の結果であろうが、中国はひそかにスパイ活動を続ける一方、オープンで合法的な市場で、さらに近代的な軍事機器を買い漁っている。フランスやブラジル、イスラエル、ロシアなどからやって来た武器達が新しい人民解放軍の住人だ。中国は、こういった国すべてに大きなお得意先だと思われている。

軍のこの近代化を資金面で支えるせいもあり、人民解放軍の予算は伸びている。去年は13パーセント増え、109億ドルに膨れ上がった。軍の指導部は全軍の再編成を積極的に推し進めている。人民解放軍は兵力を50万人削減して250万人に縮小し、多くが1950年代製である戦闘器材をより近代的な兵器体系に置き換えようとしている。これまでに中国はロシアから、キロ級636攻撃型潜水艦を3隻、SS-N-22対艦ミサイルを装備したソブレメンヌイ級駆逐艦を2隻、そして50機のSu-27(スホイ27)戦闘機を購入した。また、新たな「東風(ドンファン)31」大陸間弾道弾を20機開発中で、これは8000キロの射程距離を持ち、核弾頭をアメリカ本土まで飛ばすことのできるものだ。また同時に、アメリカのコンピュータを無力化するサイバーウォーや、通信衛星や偵察衛星を叩く衛星攻撃ミサイルなどにも中国は食指を動かしている。

こういった技術には多大な資金と、そして新たな戦闘理論が必要となる。その戦闘理論の方は、中国の指導者層といえども、買うことも盗むこともできない。だが彼らには、そうする必要もないのだ。アメリカやロシアの将校達との、陸海空合同の軍事交流が、中国に新しい戦略思想を垣間見させてきた。中国は今でも、「積極防衛策」に沿った大規模な軍事演習を行っている。それは、ソビエトの脅威を叫んでいた古き時代の遺物だ。だが北京の軍指導者層が今までになく重要視しているのが、夜間訓練や赤外線暗視装置、そして陸海空の三軍が連携し合い一体となって攻撃することを狙いとした、いわゆる合同軍事訓練である。こういった作戦の多くを明確にするシナリオがある。台湾への攻撃だ。だが新しい戦闘技術は、人民解放軍の下士官兵には浸透していない。そのため、「北京が購入してきた数々のしゃれた軍事機器」を彼らが使いこなし、「それが軍事的に確かな脅威となる」かどうかは今のところ未知数である、とブルッキングス研究所の専門家ベイツ・ギルは言う。

確かに、中国の軍隊が真に超大国の地位を確立するまでには、まだ数十年が必要だろう。人民解放軍はアメリカに30年は遅れているかもしれない、と示唆するアメリカの分析家もいる。これは、どうあがいても追いつけないギャップである。中国がサイバーウォーや衛星攻撃兵器の開発を計画していると言えば、それは恐ろしいことのように聞こえるかもしれないが、だが実用化にはまだまだほど遠いものだ。中国の核兵器は、平時には核弾頭がミサイルに装着さえされていず、単に報復戦力として作られているにすぎない。開発中の「東風(ドンファン)31」が戦力に加わったとしても、北京の戦略ミサイルの規模は、ワシントンの18分の1でしかない。そういった限界が意味するところは、北京は、中国本土の防衛戦争では確かな戦闘力を示せるかもしれないが、それでも何千マイルも離れた場所に、大きな軍事力で「睨みをきかせる」ことは出来ないということだ。そんなことが出来るのは唯一アメリカなのである。

だが少なくとも、中国の新たな軍事兵器はアジアのパワーバランスを変えてしまうだろう。ホノルルの「戦略国際研究のための太平洋フォーラムセンター」所長ラルフ・コスサはこう説明する。「中国はサンフランシスコ湾にまで睨みをきかせようとはしていません。南シナ海にそれをしようとしているのです。」中国の指導者層は自分たちの国を、アジアの一大勢力としてのかつての中華帝国の地位にまで引き戻したがっているのかもしれない。だが、そうだとしても、太平洋に展開している強大な米軍と向かい合わざるを得ない。それは必ずしも戦争を意味しないだろうが、緊張が高まるのは確実だ。「中国は、最終的には我々に狙いを定めた軍事力を築こうとしているのでしょうか?」CIAアジア部門元情報士官ケント・ハリントンはこう問いかける。「今日、そのような結論を導きだせるとは思いません。だが、今後そのような事が起こらないようにするためにも、今彼らと話し合っておくことが必要です。」そうしている間にも、スパイはアメリカに潜り込み続けている。