ピストル型の小さな木製のグリップと、口径7.62ミリの弾丸を30連発繰り出せる、独特のバナナ形をした差し込み式弾倉を持つ、この最初のソビエトモデルが世に出たのは1947年のことだった。たった6つの可動式パーツしか持たない、このAK47自動小銃は、現代の工業製品の傑作の一つである。軽く、耐久性にすぐれ、その上、メンテナンスも簡単で、発砲しやすい。ミハイル・カラシニコフによって設計された、この年代ものの自動式ライフル銃は、50年以上たった今でも、おそらく世界で一番人気の高い襲撃用ライフルであろう。ブルガリアから北朝鮮やイラクなどといった国々のローテク兵器工場から、このカラシニコフは7000万挺以上も大量生産され、独裁者や都市のテロリストから麻薬の密輸業者、部族の将校にいたるまで全世界中の殺りく者の、飽くことのない需要に応えてきた。

世界中で紛争を激化させ、犯罪を助長している武器がどういった種類のものなのかを、このAK47に象徴的に見ることができる。ピストル、小型マシンガン、ライフル、その上、対空ロケット砲すら含むこういった恐ろしい携帯兵器が、今までに悪党どもの手に渡った数は、数千万にも上り、その過程で、それを取り引きする者の懐を潤してきた。1990年から1995年までの全世界の携帯兵器の取引高は220億ドルにのぼると、援助機関オクスファム(オクスフォード飢餓救済委員会)は推計している。

条約や査察規定による従来の軍備制限策は、コストのかかる、隠しにくい戦車や核ミサイルなどには、ある程度効力を持つ。だが、軽火器は金がかからず持ち運びでき、しかも隠しやすい。どこに行っても通用する高い貨幣価値を持ち、その上、かさばらないため、こういった武器は、密輸業者にとって理想的なのだ。また、じょうぶで使いやすく、しかも簡単に修理や再生使用できるため、買う側もそれを好む。このような武器を使うのは多くの場合、国家に資金援助を受けたテロリスト達や組織犯罪網、そして反乱ゲリラなどである。この携帯兵器には国際的な登録制度もないため、追跡調査はほとんど不可能である。また、その登録制度と追跡調査のどちらに対しても、それを押し進めようとする政治的な動きはあまり見られない。

「軽火器は、冷戦後の広範囲に及ぶ現象です」こう語るのは、ロンドン大学防衛研究センターの南北防衛安全保障プログラム所長、クリス・スミス氏。「これは、我々が考えているより新しく、大きな問題です。軍備削減というのが、我々の時代にあって、専門的知識を要する大きな課題の一つであったように、次の世代では、軽火器の問題がそうなってゆくでしょう。」

1989年以降、超大国間では和解が進んだが、その一方、内乱や地域紛争が、こういった携帯兵器やそれの生み出す利益に助長される形で、激化している。

■スリランカでは、分離独立を求めるタミル人の反乱戦争のため、対空ミサイル、爆薬、砲弾などの取り引きが非常に活発になっている。その多くは政府軍から奪い取ったものだ。タミルのトラ(反政府ゲリラ)に詳しい専門家、ローアン・グーネラトナ氏は、その年間軍事予算は5千万ドルにもなると推定している。

■アルバニアでは去年、市民が内乱を起こし、国は無政府状態に陥った。それが、莫大な数の武器を、犯罪集団の手に解き放つことになってしまった。百万挺ものカラシニコフが武器庫から姿を消し、たった15ドルという値で闇取り引きされた。密輸業者はそれを買い漁り、近くのユーゴスラビア・コソボ自治州で分離独立を求めて戦闘しているコソボ解放軍に流して、素早い利益をあげる。彼らが、そこで売った値は150ドルであった。

■南アフリカは、モザンピークの内戦が終結し、そこから溢れ出た武器に悩まされている。昨年、両国の国境沿いで、警察が合同一斉検挙を行った際には、5600挺の襲撃ライフルと300万発の弾丸が発見された。そして150万挺のAK47の行方がいまだに分かっていない。「携帯兵器の拡散はアフリカでは、一地方、国家、地域全体のあらゆるレベルにおいて、政治的かつ安全保障上の大きな問題となっています。」ケープタウン大学紛争解決センターのピーター.バチェラー氏はこう言う。米国務長官マドレーン・オルブライトは、昨年の国連安保理の特別会議において、アフリカの「紛争地帯」での武器売却の自発的な凍結を要求し、その流れを監視するため情報センターを設立するという考えを支持した。

携帯兵器は非常に人の手を経やすいため、一つの紛争が解決すると、一度使われた武器が他の場所に姿を現し、そこで起こっている暴力や抗争を助長する場合が多い。「ほとんど何も技術を持たない元戦闘員にとって、武器は一種の貨幣の役割をするのです」ロンドンの兵器制限推進団体「セイファーワールド」のアンドリュー・マクリーン氏はこう言う。アンゴラ内戦では1991年に和平協定が結ばれたにもかかわらず、国連平和維持活動の武装解除があまり効果をあげなかった。そのためアンゴラは、南アフリカやザンビアなどの兵士、犯罪者にとって、武器の大きな供給源になってしまった。内戦が1992年に終結したエルサルバドルでは、それ以降、殺人件数が36%もはね上がっている。南アフリカでは、犯罪が急増するなか、銃撃による負傷が激増している。

地域の安定が危機にさらされているのだ。もしアフガニスタンの内戦が終結し、各派の首領が軍備を削減すれば、武器の多くはインド・パキスタン国境を渡り、中央アジアの他の紛争を激化させると、安全保障の専門家は懸念する。「アフガニスタンは、この地域の一大武器倉庫なのです。平和が戻れば、そこから近隣の諸国に流れ出る軽火器類の量は、どちらかと言えば、増えることになるでしょう。」ニューデリーにある防衛問題研究分析所(ISDA)のタラ・カルサ氏は言う。このISDAの推計によれば、20年もの内戦を続けた結果、アフガニスタンに集積した多大な軍需物資は、貨幣価値にして現在60億ドルから80億ドルにもなるという。

ふつう、軍備削減のためにとられる方法は、武器の買い戻し計画と恩赦であるが、ここでもまたご多分にもれず、うまくはかどっていない。紛争している地域は、社会全体が不安定な状態におかれているからだ。一番最初に買い戻し計画が試されたアフガニスタンにおいては、その計画はおおむね失敗に終わった。CIAは、肩にかついで発射できる小型対空ミサイル砲スティンガーを買い戻すため、数百万ドルも費やした。それは、80年代にソビエト傀儡政権と戦う反政府ゲリラに与えたものだ。CIAは、そのスティンガー一台に10万ドルもの値を提示し、将校や麻薬王、あるいは他の悪党どもに混じって、入札戦争を繰り広げることになる。「国家が暴力を抑えることが出来なくなってしまえば、人は自分の持っている武器を引き渡したりなどしません」スミス氏はこう言う。「考えてもみて下さい。ありとあらゆる武器が、車の中やベッドの下にしまい込まれた状態を。」軍備削減と紛争の和解を結び付けようとした希有な試みもある。マリ共和国では1996年に、内戦時の元兵士達が銃を積み上げ焼き払うという式典を行い、紛争の終結を象徴させた。

ダイアナ妃が援助しカナダが促進した地雷禁止運動が、世間の注目を大きく集めたことにより、携帯兵器の移転規制の問題も、同様に指示を広く集める名高い運動になっていくのではと、移転規制論者は希望を抱いた。だが、その楽観論は早計かもしれない。地雷というものは、その使用も管理も主に正規軍によって行われている。それに対して、こういった携帯兵器の場合、売るのは金に目がくらんだり金に困った将校達、盗むのは盗賊、そして政府に資金援助を受けているテロリストがそれを国外に持ち出したり、犯罪組織が密輸したり、という有り様である。古くから小規模な市民による義勇軍が基礎となり、国土を守ってきたアルバニアなどのような場所では、銃文化が深く根をおろし社会を支配している。「カナダは、軽火器に対して、地雷の場合のように事を運ぶことは出来ないでしょう」スミス氏は嘆く。「だって、地雷文化なんて聞いたこともないでしょう?」

とは言っても、この軽火器規制の問題は、かなり重要な国際的協議事項になっており、アメリカで非常に強い力を持っている銃規制反対の圧力団体、全米ライフル協会(NRA)などは、その動向に注意を払い、活動の照準を合わせている。NRAは国連指定のNGO団体(非政府民間協力団体)として地位を確保し、昨年、国連や欧州連合(EU)などの組織に働きかけるため、「スポーツ射撃の未来を考えるワールドフォーラム」を開いた。また、この団体は、1997年の武器に関する国連研究部会において、はっきりと意義を唱えた。「銃規制の問題は、国際的に討議すべき問題ではない」NRAのトーマス・メイスンはこう述べ、銃を国際的に規制、登録、監視しようとする動きを激しく批判した。

だが、このように、銃規制推進派にとって世界的な規制は遠い夢のように思えるが、国際的な規約作りの青写真ともなりうる地域協定がいくつか出てきている。NRAは、これに対して何らかの対抗策を取らなければならないだろう。1997年に米州機構が、携帯兵器の流れを突き止めやすくすることを狙いとした地域協定を結んだのだ。その30ヶ国は、武器を輸出する際、受け入れ国の明示的な許可がなければ輸出許可証を発行しないことで一致した。米国務省副次官補「国際犯罪、麻薬および法執行担当」ジョナサン・ワイナーは、この取決めを画期的なことだと考えている。「銃の所在を突き止める唯一の方法は、許可した銃の流れをじゅうぶん監視していくことしかありません」彼は言う。「どこまでが許可されたもので、どこから違法なのか、その境目がはっきりと分かれば良いのです。」

また、今年6月には、反体制派を抑圧するために一国の政府によって使用される「明白な危険性」がある場合には、武器の輸出を認可しないという協定が、EU各国で結ばれた。だがこれは、その曖昧な規定のため、あまり成果は上がりそうにない。4月には国連においても加盟国46ヶ国から、携帯兵器の違法な製造と取り引きに対抗するため、国際的な協定を求める声が上がった。しかし規制推進論者は、こういった策には懐疑的である。実際的な効力を持ち得ないためだ。実行したいという気持ちは十分にあっても、「ほとんどの国において、米州機構の協定を実行に移せるだけの社会基盤は整備されていないし、またそのような経済的な余裕もないのが実情です」こう述べるのは、ワシントンとロンドンに事務所を持つ武器規制推進団体、英米安全保障情報会議のアナリスト、ジェラルディン・オーキャラーガン氏。

武器に登録ナンバーをつけ、警察の体制を整え、武器移転の追跡システムをコンピューターに導入する、こういう事はすべて金がかかる。協定を結んだところで、その歌い文句がどれほど大胆なものであろうと、その費用まで提供されるわけではない。各国政府は、武器が最終的に誰の手に渡るのかを確定するため、一般使用者証明書に依存しているが、それは簡単に偽造できるものだ。問題となるのは買収だ。また、同時に規制推進派が主張しているのは、少なくとも各国政府は自国で禁止している武器に輸出許可を出さないようにすべきだ、ということである。たとえばイギリスでは拳銃は禁止されているが、それを海外で売る輸出業者がいる。

そうこうしている間にも、カラシニコフ自動小銃は銀行強盗やハイジャックを助長し続けている。ロシアの国営武器輸出会社ロスボオルジェニエは、カラシニコフに匹敵するものは今後何年も出ないと自負している。だが、携帯兵器の拡散は、ギャングやゲリラを相手にする時にのみ問題となるのではない。従来の兵器や、最新の武器すら持つテロリスト達は、我々全員の脅威となっているのだ。考えてもみるがよい。その昔アフガンゲリラにCIAが与えたスティンガー対空ミサイルの射程範囲を避けるために、英国航空のイスラマバード発ロンドン行きの便が、大きく西寄りに迂回しなければならないとしたら。スミス氏は言う。「ノロノロと飛ぶボーイング747など、格好のえじきです。」


問題の解答

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8 ×  9 ×  10 ×  11 ×  12 ○  13 ○  14 ×