眠りの季節。。。

 

 

ぬけるようなあお空のある秋の日、、、ぴゅ〜と冷たい風にのって”このはのせい”はひょっこりあらわれました。

 

赤・オレンジ・黄色の色あざやかな帽子とマントをはおった”このはのせい”は、ホウキにのって自由自在にくるくるとうごきまわります。そして、お目あての樹を見つけると、器用にホウキの上に立ちながら、マントの大きなポケットからパレットと絵の具、そして長めな筆をとりだし、筆にたっぷりの絵の具をふくませ、一枚一枚ていねいに木の葉にお化粧をしていきます。

 

”このはのせい”は葉から葉、枝から枝、そして樹から樹へとくるくると移動します。そして、”このはのせい”が通り過ぎた後には、見事なまでに色鮮やかにお化粧された樹々たちが楽しそうにおしゃべりしながら並んでいます。

 

あたりの樹々たちがすっかりお化粧を終え、”このはのせい”は”ほっ”とひと息ついてあお空をあおいぎました。

 

その時、ひときわ冷たい北風がびゅう〜と吹きました。すると、空から純白の衣装につつまれた”ゆきのせい”がふんわりとおりてきました。

 

”このはのせい”と”ゆきのせい”は、ニッコリと笑ってみつめあいました。そして、

 

「やぁ、元気にしてたかい?そろそろバトンタッチの時間だよ!」

 

まるでそんな会話をしているかのように、お互いめくばせしました。

 

ほんの少しの間、”このはのせい”と”ゆきのせい”は並んで、赤・オレンジ・黄色に染まった樹々たちを仲良く並んで座って眺めていました。このときだけが1年のうちに2人が一緒に過ごせるわずかな時間、、、会えない間にあった出来事をコソコソっと、時にはクスクスと笑いながら報告しあっているようでした。そして、

 

「じゃ、そろそろいくね!」

 

”このはのせい”は立ち上がり、あいさつがわりにかぶっていた色鮮やかな秋色の帽子を投げ上げました。すると帽子はみごとに色づいた木の葉に変わり、ゆらりゆらりと宙を舞っています。その中を”このはのせい”はくるくると踊っていたかと思うと、いつの間にかすぅっと消えていました。

 

ひとりその場に残った”ゆきのせい”は、少しさみしそうな表情をうかべ、木の葉の舞う様子を見守っていました。”このはのせい”がいなくなった景色は、さっきまでの見事なまでの色鮮やかさをほんの少し失ってしまったかのように見えました。

 

「さて、ぼくもがんばらなきゃ!」

 

”ゆきのせい”はスクっと立ち上がり、両手をひらきました。するとその手のひらにはふんわりとした雪の結晶がのっています。”ゆきのせい”はそれをふわっふわっと次々に宙に浮かべます。赤・オレンジ・黄色に染まっていた樹々たちは真っ白な雪の結晶につつまれてゆき、、、あたりは少しずつ少しずつ白い世界へと変わっていきます。

 

「真っ白な毛布のしたで、ゆっくりおやすみするんだよ。。。」

 

”ゆきのせい”は、そんな風に大地に語りかけるかのように、ひとひらひとひら大切そうに雪の結晶を宙に浮かべていきます。そして、あたり一面が真っ白に染まると、”ゆきのせい”は雪の中に小さくジャンプし、雪の結晶たちにぱふっと包まれました。

 

「”おはなのせい”たち、、、春になったらちゃんとぼくを起こしてね。」

 

”ゆきのせい”はそう小さくつぶやくと、目を閉じて息をひそめました。

 

 

”ゆきのせい”の寝顔はとってもおだやかで気持ちよさそうで、、、それはあたりにも静かで心地よい眠りを運びました。

 

 

白のやさしくおだやかな静寂につつまれたみんな、、、眠りからさめる日までゆっくりおやすみなさい。。。

 

2006.11.19 written by kanon