扉の向こう側には。。。

 

 

小さいころから、”ふっ”と思い出したように見る同じ夢がある。

 

現実では想像できない、ありえないような得体の知れない空間、、、壁・地面・天井は流動的で、まるでアメーバのような質感でぐにゃぐにゃとうごめいている。色はといえば、あやしげな赤紫色を基調として、その中にマーブル状にいくつか他の色が見え隠れしている。

 

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 夢の中で、、、”はっ”と気がつくと、ぼくはそんな場所にいる。不安定な足元、、、決して狭い空間ではないのだが、どちらを向いてもぐにゃぐにゃとした不定形な壁にかこまれている。その中で、ぼくは何を考えるでもなく、とにかく出口をさがしている。そして、壁沿いにらせん状に伸びている階段らしきものを見つけ、上へ上へと登りだす。登っている間、頭の中は真っ白だ。ただただ、何かのプログラムを組み込まれたようにひたすら登りつづける。疲れたとか休みたいとかそういう感覚もない。”どうしてこの上に立っていられるのだろう、、、”と疑問に思うような、アメーバ状のぐにゃぐにゃした不安定な階段を一歩一歩ふみしめながら、、、。

 

 しばらくして”ふっ”と顔をあげると、誰もいなかったはずの空間に、自分と同じように階段を登っている人が無数にいることに気づく。どの人にも見覚えはない。一様にうつろな目をして、同じようなペースでひたすら階段らしきものを登りつづけている。いつのまにか、ぼくはその人の列の一員になっている。誰も立ち止まったり、ペースをくずしたりしない。一人一人が単調に歩を進めるのだ。まるでベルトコンベアーで部品が運ばれているかのように。。。

 やがて階段らしきものがおわり、広場のような場所に出る。そこには、登ってきた人たちが座り込んだり、壁によりかかったりしている。さっきまでの一様なうつろな目がなんとなく苦悩・あきらめをうかがわせるものに変わっている。

 

”ここにいったい何があるのだろう、、、。”

 

そこにたどりついて、やっとぼくは考える。

 

”みんなここで何をするつもりなんだろう、、、。”

 

ぼくは、きょろきょろとあたりを見まわしす。たぶんそれは、その空間にきて初めて自分の意志からの行動だ。

 少し離れたところで遠目でうっすらと壁が明るくなっている場所があるのに気づき、そっちの方向に歩を進める。ぼくが側を通ると、座り込んでいる人々が一様に顔を上げて、物言いたげな視線をなげかけてくる。しかし、何を言いたいのかまでを読み取ることはできず、ましてや声を掛けられるような感じでもない。だいたい、その空間で声をだせるかどうかもわかりかねるのだが、、、。

 

”なんだろう、、、。”

 

人々の視線を感じ、疑問をかかえながらも、ぼくは歩きつづける。やがて、だんだんと明かるさが増し、まぶしくて目を開けているのがやっとなくらいにまでのまばゆい光のかたまりがぼくの目の前に現れる。目をこらしてみると、透明な何かがすごい速さで、、、しかし、音もなく動いてる。

 

”扉だ、、、。”

 

透明なガラスのようなものでできた扉が、”超高速な自動ドア”とでもいったように絶え間なく開き閉まりをしている。そして、その扉の向こう側は、、、光がまぶしすぎてどうなっているのかまったくわからない。

 

”いったい、、、あの扉の向こう側には何があるんだろう、、、あの光は何物なんだ、、、。”

 

ぼくは考える。だけどまったく検討もつかない。

 

”でも、ここまできたからには、あの扉の向こう側に行かなきゃいけないんじゃないか、、、”

 

ぼくは直感的に悟る。

 

”扉の向こうにある何かにひきよせられて、、、ぼくはくるべくしてここにやってきたんだ”

 

と。

ぼくが立ち止まって様子を伺っていると、親子らしき二人が扉の前に進み出る。まだ小学生くらいであろう少年と、その父親のようだ。少年は父親の手をひき、扉の向こう側に行こうと言っているようだが、父親のほうがしぶっている風だ。

ぼくは、しばらくその二人の様子を伺っている。すると、少年のほうが”ぼく先にいっちゃうよ!”っとでもいうかのように扉のほうにかけだし、足を踏み入れたかと思うと”すぅっ”と扉の向こう側に消え入った。それを見た父親があとを追おうとしたが、なにせ扉の開き閉まりの速さが普通ではない。もしはさまれようなら真っ二つにひきちぎられてしまうだろう、、、そんな速さなのだ。そして、何度も試みたものの、その父親は結局その扉の向こうへ行くことを断念してしまった。

 

”あの少年はどうなってしまったんだろう、、、無事に向こう側にたどりつけたのかな、、、。”

 

そうしているうちに、ぼくはとてつもない恐怖に襲われる。

 

”自分は果たしてちゃんと扉の向こう側にたどりつくことができるのだろうか?もしかして扉にはさまれて、、、”

 

と。そう考えると足ががたがた震え出す。ぼくは、その場を逃げ出したい衝動にかられ後ろを振り返る。すると、少し距離を置いて、ここに辿り着くまでに目にした人々が集まっている。みんな無言で静かに、、、でも、何か押しつぶされそうなほどの重圧を感じる。

 

”逃げるのかい?”

 

ぼくはそんな風に言われている気分に襲われる。相変わらず足は震えが止まらない。

 

そんな時、一人の老婆が一歩前に出る。頭から擦り切れたショールをかぶっていて、顔の表情がはっきりと見えたわけではないのだが、まわりの雰囲気とは対照的に、くちもとにはとてもおだやかな微笑みをうかべているようだ。

 

”大丈夫だから、、、さぁ”

 

そう言ってぼくを扉のほうへうながしてるのを感じる。そしてそのかすかな微笑みが、ぼく心に心地よい安心感をもたらす。

 

”そうだね、きっと大丈夫、、、。”

 

ぼくはその老婆に目配せし、扉の方に向きなおる。そして、、、大きく息を吸って思いっきり扉に向かってかけだす。まばゆい光がぼくの体を包んでいく、、、。

 

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 いつもそこで”はっ”と目が覚める。そして、決まったように”ガバッ”と起き上がるため、微妙に息が切れている。大きく深呼吸し、息を整えながらぼくが考える。

 

”あの扉の向こうにはいったい何があるのだろう、、、、そして、ぼくは無事にあの扉を通りぬけることができたのだろうか、、、。”

 

と。

 

でも、いくら考えてもその答えはわからない、、、。そして、また思い立ったように同じ夢をみる。

 

”いつの日か、この夢の続きがみれる時がくるのだろうか、、、。”

 

そんな疑問を抱えたまま、、、ぼくは、いつもの日常に戻ってゆくのだ。

 

2003.7.30  written by kanon