「落ち葉拾い」




「これは……」

「今日のお茶受けだ!」
 天蓬は大皿の上に乗っている代物を指差しながら正しい回答を口に出した。
「……焼いも……ですよね?」
「そうだ。今も焼けている。たくさん食べろ」
 金蝉は断言する。
「あの、どうしてか聞いていいですか?」

 天蓬は金蝉と焼きいもがあまりにあわなさ過ぎて、内心激しく動揺していた。

(金蝉と焼いも……。金蝉と焼いも……。金蝉と焼いも〜〜〜???)

 心の中は絶叫である。今までこんなに驚愕したことがあるだろうか。
 天蓬は自分の中の価値観が、がらがらと崩れている音を聞いた……。

「悟空が、落ち葉を拾い集めて焼きいもがしたいっていうから。さっきから、焼いている……。今も楽しそうに火の番をしているぞ?」
「一緒に落ち葉拾ったんですか?」
「悟空一人にやらせる訳にはいかないだろう?」
「……ちゃんと暖かくしてましたか?冷えなかったでしょうね?」
 天蓬は金蝉を観察する。風邪なんて引き込んでいないだろうか?と。
「上着、着てた。心配しすぎだ、天蓬」
 やれやれと金蝉は肩をすくめて苦笑する。
「心配し過ぎに越したことはありませんからね。貴方、すぐ熱出しますから」
「……」

 悟空がやりたいと言えば、親代わりである金蝉がいろいろ付き合うことを知っている。それなら納得できるというものだ。が、その姿が見たいかどうかは別の問題である。
 金蝉が落ち葉を拾うまでなら、いい。いもを焼く姿は見たくないなあ、というのが天蓬の切実な願いかもしれない。その役は悟空がやっているということだから、良しとしよう。
 金蝉は天蓬の言い分に言い返すこともできなかったので、お茶の用意をする。湯飲みを出して、茶器から注ぐ。

「焼きいものお茶は何にしようか迷ったんだが、烏龍茶にしてみた。焼いもが熱いなら、冷たい烏龍茶でもいいぞ?」
「じゃあ、冷たいのでもらえますか?」
「ああ」
 金蝉は氷をたくさん入れたグラスに暖かい烏龍茶を注いでマドラーでかき混ぜる。氷の溶ける音がかすかに響いて、琥珀色がグラスから覗く。
「ほら」
「ありがとうございます」
 天蓬は受け取って一口飲み、皿に乗った焼いもを掴むと思い切りよく半分に割る。すると金色のいもが姿を現し湯気を立てる。ふーふーと冷ましながら頬張る。
 熱々の焼いもは確かに美味しいと思う。
 これこそ、秋だろう。

 でも、これを頬張る金蝉はあまり見たくないなと天蓬は思っていた。
 その願いが通じたのか、金蝉は焼いもを食べることはしなかった。
 天蓬の精神衛生上、喜ばしいことであった。
 
 なぜだろう?と思っていると、その数時間後スイートポテトがおやつで焼きあがってきた。金蝉は同時にこのお菓子を作っていたらしい……。

 天蓬はつくづく金蝉って素晴らしい、と思ったとか。(笑)




                                         END



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