「名月や、ああ名月や、名月や」




「今日は、中秋の名月ですね……」
「そうだな」

 いつものお昼休み。持参したお弁当を食べながら、ふと話題が出る。
 昼間だから月など見えないのだけれど、お弁当に入っていた卵焼きを見て八戒は思い出したらしい。知らない訳ではないのだが、ついつい言うことを忘れていたのだ。

「うちでは、ススキを飾りますよ。白い団子じゃなくて、おはぎを食べますけど。三蔵のおうちはどうですか?」
「おはぎか……。うちはススキも飾るけど、白い団子をたくさん作るぞ。道場の方で人が来てるから一緒に月見して、その後で団子を食べるんだ」
「……道場の方たちと一緒だと、にぎやかそうですね?」
「にぎやかだ。子供から大人まで皆で練習が終った後に月見が行事になっている。毎年のことだから、団子を食べることまで決まってて……。量が多いから父さんと俺で用意するんだ」
「道場の行事になっているんですね?それは大変です」
 その様子を想像して八戒は大仰に頷く。
「ま、楽しいけどな」
 三蔵はにっこりと微笑む。
「ちゃんと団子用に黄粉とか餡とか用意しておくんだぞ?一緒に食べるだけで美味しいけど」
「平素な味でも、黄粉や餡で食べれば、皆と一緒だとそれだけで食べ物は美味しく感じますからね。お弁当だって一緒です。作りたてが一番で冷めたご飯におかずだけれど、楽しく会話して食べるだけで事の外美味しく感じますから」
「……そうだな。美味しい」
「ええ」
 二人は互いに微笑みあう。
 一緒に食べれば、美味しい。そう瞳で言っていた。

「今日は晴れるといいですね」
「晴れるかな?雲が出るかもって言ってたぞ?」
「雲が出ても一興かもしれませんよ。棚引く雲と大きくて丸い月。ススキと団子で完璧です」
「完璧だな、確かに」
「でしょう?」
「ああ。楽しみだ」
 まだ空に月はかかっていないけれど、天高く澄み深い色に染めている青い空を二人は見上げた。


 明月を待ち望む。そんなある日のことだった。





                                         END


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