差し込む光は午後の色。 窓からそよぐ風は、優しい感触で廊下を通り抜けて行く。 長く続く廊下は静粛に満ちている。 静かな廊下を連翹が歩いていると、その先から天蓬がやってきた。 手には大きめの花瓶を持っている。渋い色の陶器で大ぶりの花やたくさん生けるための花瓶だ。 「天蓬元帥、どうされました?」 連翹は首を傾げて、聞いた。 「ああ、こんにちは連翹。ちょっと水を頂きますよ」 「はい。どうぞ」 連翹が来た場所は、お茶を入れたり準備したりする所である。 ここには食器や茶器が種類豊富に置いてある。 もちろん簡単な炊事場もあり、普段は女官が主人や来客のために使う場所だ。 「花瓶を準備されるということはお花でもあるのですか?」 素朴な疑問だ。 なぜ、天蓬が用意しているのか。 普段であったなら、それは連翹達女官の仕事だというのに・・・。 「ええ、あるんです。そのうち花が花を持って現れますよ」 天蓬はにっこりと微笑んだ。 「花が・・・?」 連翹が戸惑っていると、主人の声がした。 「天蓬!!」 当然現れたのは金蝉だった。 金に輝く長い髪を揺らして、紫の瞳を煌かせている。 いつ見ても、麗しい神。 神が抱えているのは白い牡丹・・・! 高貴で艶やかな花王は金蝉が持つのに相応しい。 幾重にも広がる花弁から、わずかに香りが漂う。 金蝉という高貴な花が百花の王を持って歩いて来た・・・。 連翹は天蓬の物言いに顔をほころばせた。 我が主人は花より美しく、麗しいですからね、と誇らしく思わずにはいられない。 「金蝉様。後でお茶をお持ち致します」 連翹は本当なら自分が牡丹と花瓶を引き取った方がいいことは心得ていたが、二人の邪魔をするのを憚った。 お二人で仲良く生けるのも楽しいでしょうと思いながら、手を拭く布と花切り鋏を台に置いた。 「それでは、後程」 連翹は一礼すると軽い足取りでその場を後にした。 後ろに聞こえる二人の声に微笑みながら・・・。 END 以前掲示板で突発的に書いたおまけの小話。少し改定しました。 |