三大如来は城内の館に住んではいない。 三方の山々にある険しい霊峰。雲に届く高さの一つの山頂に一人の如来が住んでいる。 住んでいる、と言っていいのかも限りなくあやしい。 自分の管轄の世界を統べているため、絶えずそこにいるわけにはいかないようだ。 険しい霊峰は、自力で登ることは困難で接触を拒んでいる。 それでは、どうしたら如来に逢えるのか? 嶺の脇に小さな宮がある。 そこで、如来に目通りを祈るのだ。 聞き届けられると、目の前にぼんやりと姿を現す時もあれば、山頂にあり宮殿に招かれることもある、と聞く。 もちろん、観世音のような最上級神であり、親交のある者は当然宮殿まで招かれた。 一瞬にして、地上の宮から山頂まで飛ぶ。 少しの揺らぎもなく、宮殿の広間に降り立っているのだ。 不思議な感覚だ。 時空の回廊を通って下界に行く時とは違う感覚。 「お久しぶりですね、観世音」 目の前には釈迦如来は立っていた。 「如来こそ、ご機嫌麗しそうで・・・」 観世音が敬意を表す数少ない神の一人である。 天帝さえ、敬意などない。 三大如来は観世音が認める神達だ。 観世音がここに来たのは、この釈迦如来は三大如来を統べる存在だからだ。 常であったなら、観世音が向かう先は阿弥陀如来でなくてはならない。 観世音は阿弥陀如来の下方に位置するのだから。 けれど、事は急を要していた。 だから、阿弥陀如来、薬師如来を統べる釈迦如来の所に来たのだ。 「貴方がここに来た理由には心当たりがありますよ・・・」 なぜか、如来は何事をお見通しである。 けれど、それには干渉しないのが常だ。 観世音は真摯に如来を見つめた。 「如来、お願いします」 如来はふわりと微笑んだ。 「わかっています。こちらから、話を通しておきましょう」 「ありがとうございます」 観世音は頭を下げた。 「大丈夫ですよ、観世音。だって、あの薬師如来でさえ金蝉には甘いのですから。皆も賛同してくれるでしょう。三大如来、六菩薩の直談判では誰も否とは言えませんよ・・・。それに、私が怒ればどうにかなるでしょう、おほほほほ。普段怒らないから、こういう時役に立ちますね」 にっこりと微笑む、釈迦如来であった。 直談判とは聞こえがいいが、それは脅しである・・・。 釈迦如来とその脇侍、普賢菩薩と文殊菩薩。 阿弥陀如来とその脇侍、観世音菩薩と勢至菩薩。 薬師如来とその脇侍、日光菩薩と月光菩薩。 実はこのゆゆしき神様達は金蝉を見知っていた。 それも幼き頃から。 観世音が、まだ幼子の金蝉を連れて久方ぶりに揃う如来や菩薩の集いに出席したことから始まる。 幼子の威力は滅多に笑わないと言われていた薬師如来さえも微笑ませた。 それ以来、金蝉は彼らの寵愛を受けている。 今では逢う機会もないが、彼らにとって金蝉はいつまでもいつまでも子供のままなのだ。 見守って、幸せを願って、見届けようと決めている存在。 おかげで、希に全員集う時は金蝉の話で盛り上がる。 まるで、自分たちの子供の世間話をするように・・・。 「私も名付け子が可愛いですからね」 そう言う如来の微笑みは慈愛に満ちていた。 天蓬は知らなかった。 本当の保護者を。 保護者は一人ではなかったのだ。 三大如来に六菩薩。全てが金蝉の保護者兼、親代わり。なんて恐ろしいのだろう。 そして、観世音は天蓬のことも報告していた。 金蝉も恋をしたんだぜ、と。 それを楽しげに聞いていた神々。 一度見たいですね、などと会話がなされていたとは、天蓬も思うまい・・・。 END |
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