「Tea for you, Tea for me」


開かれたままの扉から中を覗くと、金蝉は仕事の真っ最中だった。
軽くドアをノックして存在を知らせると、顔を上げてはっとした表情で時計を見る。

「もうそんな時間か……」

うん、と軽く伸びをして、金蝉が立ちあがりドアの方まで歩み寄ってくる。

「今日は何がいい?」

優しく尋ねられて、少し頬を染めながら紅茶の名前を告げる。

「わかった。少し待ってろ」

執務室の隣の部屋には、いつもお茶の一式がそろっている。
仕事に疲れた金蝉がいつでもくつろげるようにとの配慮からだ。
普通なら女官がしそうなことだが、金蝉は意外にも自分でお茶を入れるのが得意なのだ。
金蝉がサイドボードの中のカップをしばし眺め、耐熱ガラスの透明なポットとそろいのカップとソーサーをとりだす。
すでに沸かしておいたお湯の入ったケトルを示すと、金蝉が少し目元を緩めて礼を言う。
お茶を入れるのは金蝉の役目で、これ以上のことはいつもさせてもらえない。
ソファに座って待っていると、すぐに金蝉がポットとカップ、シュガーポットとミルクピッチャーをテーブルに置いてくれる。
そして自分も向かいに腰を下ろし、ガラスのポットの中で上下に動く紅茶の葉を静かに眺める。
クラシカルな砂時計が落ちきるまでの時間は4分。
この静かな時間が、過ぎ去ってしまうのが惜しいくらい。
後少しで砂が全部落ちそうなその時、部屋の中に新たな客が現われる。

「金蝉〜vv」

砂時計が落ちきる。
金蝉はポットを手に取り、カップに慎重にお茶を注ぎ分け始める。

「お茶の時間でしたか。じゃ、いいタイミングでしたね♪」

入ってきたのは天蓬で、にこりとこちらに微笑みかけてから空いているソファに腰を下ろす。
金蝉はちょっと不機嫌そうにポットを置いた。

「うるせぇ。それより、アレは用意してあるんだろうな」
「もちろん。今日は木苺のタルトを焼いたんですよ……捲簾が♪」

お茶菓子も確保して、金蝉が(最初から用意してあった)天蓬の分のカップを無造作に押し出す。

「砂糖とミルクは…?」

金蝉に尋ねられるまま答えると、その通りにカップに加えてくれる。
礼を言ってお茶を一口飲むと、いつも通りのとてもおいしいお茶で。
嬉しくなって微笑むと、ほっとしたように金蝉も自分の分を口に運ぶ。
ほほえましくそれを見守っていた天蓬は、持参したタルトを切り分けお皿の上に乗せる。

「はい、どうぞ」

綺麗なタルトはとれたて木苺が甘酸っぱくてとてもおいしい。
おいしいお茶とお菓子を楽しんでいると、ぱたぱたと足音が響いて悟空が戻ってきた。

「あー!! ズルい! 金蝉たちだけイイもの食べてるー!!」
「やかましい! 時間通りに戻ってこねぇヤツが何言ってんだ!」
「俺もほしー!! 欲しいったら欲しいー!!」

騒ぐ悟空に額に青筋を浮かべる金蝉。天蓬はにこやかにその様子を見ている。
ちょうど一口分フォークにさしていたのでそれを悟空に差し出す。

「え、くれるのっ? サンキュ♪」

悟空はソファの後ろから肩に手をかけ、フォークを持ったままの手を引き寄せはむっと口に入れる。

「おいしーv」
「こらっ行儀悪いことすんな!」

躾に厳しい金蝉らしい叱り方に天蓬がにこにこ笑いながら残っていたタルトを切り分けはじめた。

「ほらほら、ちゃんと悟空の分もありますから」
「わーい、天ちゃんありがとーv」

結局残ったタルトはすべて悟空が食べてしまい、楽しい午後の一時はあっという間に過ぎ去ってしまう。
仕事に戻る金蝉は、扉まで見送ってくれた。

「また明日な?」

うん、とうなずくと金蝉は少しだけ微笑んだ。
見るものを虜にするような微笑にどうしても慣れなくて、一瞬硬直する。

「さあ、行きますか」

天蓬がぽんと肩を叩いてくれて硬直から解ける。
そのまま一緒に金蝉の部屋を出て、戻る途中にある天蓬の部屋の前で立ち止まる。

「え? 捲簾にお礼ですか? ああ、そんなのいいんですよ」

でも、と言いかけると天蓬もまたにこりと微笑む。

「おいしかったって言ってあげれば、それがお礼になりますから」

そう言って天蓬が自室の扉を開くと、ドサドサと何かが崩れ落ちる音が中から響いた。

「じゃ、また明日♪」

どうやって中に入ったのかかなり疑問に思いながら、天蓬の部屋の前をあとにする。
明日のお茶の時間が、とても楽しみだ。






夜叉夫人様から頂きました。
私が何気なく、こぼした言葉を受け取って「天金に接待される」お話を書いて下さいました。
本当に、ありがとうございます。
だから、接待されている人は私です♪(←勝手に思い込んでます)
金蝉様と天蓬とお茶。うっとり〜。
しかし、倦簾は木苺のタルトを焼けるほど器用なのですね!いい男だわ。
悟空にケーキを食べさせてあげられるし、私って幸せ♪♪♪




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