大切な人(エドワード・エルリック)

 
「質問です。貴方にとって大切な人は誰ですか?」
「は?そんなの決まってるじゃん。アル」

 エドワードはきっぱりと迷うことなく断言した。
 それ以外などありえないと言わんばかりである。

「では、貴方にとって大切な物は何ですか?」
「物?物質ではない。強いて言えば、文献?賢者の石を探すために。賢者の石は必用な物で大切な物じゃないし」
「帰る家さえ燃やした俺達だ。それに、トランクに入るだけしか物は持たない」
「邪魔だろ?根無し草なんだから」

 にこりエドワードは笑う。
 
「貴方の好きな食べ物は何ですか?」
「ドーナツとか、焼き菓子とか、甘いもの。それからシチューとかも好き」
 
「貴方の尊敬する人は誰ですか?」
「師匠。尊敬っていうか、絶対に敵わない人。それに怖い人。でも、愛情を向けてくれる暖かい人なんだ」
 
「それでは、好きな人は?」
「好き?……う〜ん、皆好きだけど?」
「皆とは?」
「アルやリゼンブールにいるウィンリィ、ピナコばっちゃん、師匠にシグさん。東方司令部の人たちも。出逢った人とか皆だぜ?」
 
「では、感謝している人は?」
「え、師匠。一応機械鎧作くってくれてるウィンリィ。……女手一つで俺達兄弟を育ててくれた母さん。だから病気になっちまったけどな」
「女性ばかりですね?」
「そういえば、そうだな。……なんでだ?」
「……」

(基本的に女性には弱いからでは?と言いたくても言えない‥‥)

「男性ではいませんか?」
「感謝している男?」

 エドワードは腕を組んで首をひねる。

「……大佐?感謝って言われるとすっごく抵抗があるけど。一応は、サンキュとは思ってる」

 複雑そうに、エドワードは眉を寄せる。

「それは、なぜですか?」
「性格が悪いから」

 きっぱり即答。

「性格ですか。そんなに悪いんですか?とても女性にもてると聞いていますが」
「人をからかって遊びやがる。読めない顔で笑いやがる。……もてるって聞いてるけど、わかんねえな。だって普段イーストシティにそんなに長くいないから。ハボック少尉が、ぼやいてたから、そうなんじゃねえ?俺にはわかんねえけど」
「賢者の石を探すための情報や文献を手に入れるために協力してくれるから、そこだけはありがたいって思ってる。一応なりとも俺の後見人だしな」

 にやりと口の端を上げてエドワードは笑った。
 
「最後に、シャンプーは何を使っていますか?その綺麗な金髪のお手入れを教えて下さい」
「は?……なんで最後に髪?それも力説して。……別に何もしてない。ホテルにあるやつ使ってるし。
あ、でもこの間ホークアイ中尉がくれたシャンプーは良かったな〜」
「ホークアイ中尉に頂いたんですか?」
「うん。なんか、くれた。旅先から買っていったお菓子のお礼だって。中尉優しいから」
「そのメーカーを是非教えて下さい」
「もうないから、わかんねえ。中尉に聞いてみれば?」
「そうします。ありがとうございました」

 

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 大切な人 (ロイ・マスタング)

 
「質問です。貴方にとって大切な人は誰ですか?」
「部下だよ。優秀な人材は宝だと思っている」

 にこりと笑うロイは付け入る隙がない、非の打ち所のない笑みを浮かべている。
 本当のところは、とは突っ込めない威圧が感じられる。
 
「では、貴方にとって大切な物は何ですか?」
「物はないな。……唯一あるとすれば、代えの効かない研究手帳くらいか。これでも錬金術師だからね」

 やはり、本心を明かしているとは思えない答えだ。

(軍の大佐ともなると、のらりくらりはぐらかすのはお手の物なのか?)
 
「貴方の好きな食べ物は何ですか?」
「好き嫌いはないから、何でも美味しく頂けるよ。戦地では食べ物があるだけ幸せだからね」

「貴方の尊敬する人は誰ですか?」
「尊敬ね。……少し意味合いが違うけれど、鋼のだね」
「鋼の錬金術師ですか。……どういった所が?」
「彼は外見も年齢も子供に間違いないし、ちびだし、子供っぽい部分も多分にあり短気で怒りっぽい。けれど、錬金術の腕は天才的だ。恐らく国家錬金術師の最年少記録は破られることはないだろう。彼はアンバランスな存在だね。……私が尊敬に値すると思う部分は、信念の強さだ。絶対にやり遂げるのだという強固な意志と目標に向かう真摯な姿勢だ。大人でもここまでの精神を持つ者は少ない。……彼には内緒だよ?」

(やっと真面目に答えてもらえたような気がする。目が真っ直ぐだ……)
 
「それでは、好きな人は?」
「美しい女性は皆、好きだよ」

 魅惑的に微笑む顔は、女性受けするものだ。

「大佐は女性におもてになりますものね」
「さあ、どうかな」
「イーストシティで大佐を知らない女性はいないと伺っていますけれど?」
「それは、どこから出たデマだろうね」
「大佐に彼女を取られたという証言があります。街を歩けば子供から老人まで女性であれば年齢に関係なく声をかけられるとも。それに大佐がにこやかにお答えになっているとも。違うのですか?」
「私は節度はあるつもりだから、人のものは取らない主義だよ。それに、街で声をかけられれば、誰であろうとも挨拶はするよ。これでも東方司令部の大佐だからね。街の安全を日々確認しながら歩いている。声をかけてくれるのは平和な証拠だ」

 どんな質問にも、全くロイは動じない。

(やっぱり、大佐は口八丁手八丁である事に間違いない!)
 
「では、感謝している人は?」
「これも部下だよ。私は部下に恵まれているからね。いつもいつも感謝しているよ」
「……よく、中尉に書類をためて怒られていると伺っていますが」
「中尉はよくできた人だよ。有能だ。私は、大変助かっている」
「それで、書類をためているのは、本当なんですよね?」
「そういう時もあるよ。事件続きだとろくに執務室にいられないからね。書類が滞る。まあ、事件が解決すれば必然的にまた書類が増えるんだけどね。仕方ないかな」

 吐息を付く姿も様になっていて、どう見ても女性にもてもてだ。
 
「最後に、大佐の好みのタイプを教えて下さい。抽象的なものは止めて下さいね。是非、詳細にお願いします!」
「……詳細ね。例えば?」
「容姿や性格とか。恋人に求めるものでもいいですよ?」
「月並みだけれど、瞳が綺麗な人かな。瞳に現れるからね、人間性が。性格は良くても悪くても、どちらでもいいよ。それも持ち味だと思うから」
「さすがに、言いますね。性格は良くても悪くてもいいんですか?それともご自分が変えるから問題ないとか思われるんですか?」
「いやいや。性格はいいとか悪いとかじゃないと思うよ。跳ねっ返りだろうが、じゃじゃ馬だろうが、企みがあろうが、
大した問題ではないと思うからね」
「……実は大佐趣味が悪いんですか?」
「さあ。自分では理想は高いと思っているけれど、どうなのかな」
「瞳が綺麗以外ないんですか?条件は。髪が長い方がいいとか、金髪がいいとか、黒髪がいいとか、スタイルがいいとか、あるでしょ?趣味とかも。料理が上手いとかはどうですか?」
「髪ねえ。長い方が好ましいかな。色は拘りがないと思うよ。本当に外見に理想はないんだ。中身の方が問題だね。普通そうだろう?共に話していて楽しめて、無言でいても心地良い。私の趣味は実益を兼ねて錬金術だから、それに話があう人はなかなかいないのが現実だよ。そういった人は稀で貴重だと思うけれど、あえてそれを求めるのはどうかと思うしね。こんなんでいいかな?」
「結局、好みってあるんだかないんだか、わかりませんね。好きになったらその人が理想って事でしょうか?」
「そうだね」
「長々と、ありがとうございました」

(……やっぱり、本命がいるって本当なのかしら?)

 

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 大切な人 (アルフォンス・エルリック)


「質問です。貴方にとって大切な人は誰ですか?」
「兄さんです」

 即答である。
 
「では、貴方にとって大切な物は何ですか?」
「大切な物ですか?物というか、僕の中に描かれている兄さんの血で描かれた錬成陣です。僕の魂とこの鎧を定着させているという意味で大変重要でなくせないものですが、兄が僕を望んでくれた証でもありますから。大事です」
「これが消えると、僕この世界にいられませんから」
 
(さらっと、すごい事言いますねえ)
 
「貴方の好きな食べ物は何ですか?」
「今はこの身体ですから、食べる事はできませんが。以前は母さんが作ってくれるものが好きでした。料理が上手だったと思います」
 
「貴方の尊敬する人は誰ですか?」
「兄さんです」

「それでは、好きな人は?」
「兄さんです」

「では、感謝している人は?」
「兄さんです」
「……お兄さん以外の答えはないのですか?」
「ありません。僕が今、ここにいるのは兄のおかげですから。兄以上の人なんていません」

 断言するアルフォンス。

「お兄さんのエドワードさんが貴方にとっていかに大切かわかりました。それでは最後に、貴方だけが知っている
エドワードさんの秘密を教えて下さい」
「内緒です」
「え?そんな……」
「秘密だから、秘密なんです。僕と兄さんだけの秘密ですから、誰にも言いませんよ」

 にっこり。表情などわからないはずであるに、清々しい程に笑っているのが理解できる。

「……あ、ありがとうございました。お兄さんによろしく」
 
 
(……ブ、ブラコンも極まれり?……でも、ある意味、すっごく怖いんだけど)
 



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