「なにを、にやけている?珍しいこともあるもんだ」 数少ない友人の臨也の顔がおかしくて、新羅はつっこんだ。 岸谷新羅、折原臨也とは悪友というか腐れ縁だ。 臨也は今携帯片手に、なにやら見ている。その顔が常日頃お目にかかれないくらいの笑みが浮かんでいて、たいそう気持ち悪い。たくらんだような顔なら見慣れているが。 「ふん。……まあ、新羅だからいいか」 ちらりと視線を向けて臨也は鼻をならす。 「ほら」 臨也は携帯の画面を新羅にひょいと見せる。そこにある画像は母子が映っていた。 「うわー、かわいいね」 「そうだろ、そうだろ。もっと誉めてくれていいよ。いや、誉めろ」 やはり臨也はおかしい。いつもおかしいが、一段とおかしい。 「えー、誰?」 画面には、まだ若く可愛い母親と母親に似た愛らしい子供が、笑顔で映っている。間違いなく写した人間に信頼を置いている。見るものを微笑ましい気持ちにさせる、極上の微笑みだ。 思わず臨也との関係性が気になる。 「姉とその子供」 簡潔な答えが自慢げだ。 「臨也にお姉さんいたんだ。そっか、甥っ子かー。高校生で叔父さんかー」 揶揄するように新羅が笑うが、臨也は無反応だった。そして、さらっと無視した。 「携帯を買ったから、時々メールくれるんだ。ほら、こんな感じ」 臨也は手早く操作して、一つのメールを呼び出す。 『臨兄へ。今日は母さんと一緒に散らし寿司を作りました。僕も手伝って錦糸卵を作ったの。上手にできたと思うんだけど。どうかな?いつか上手にできたら臨兄に食べてもらいたいな 帝人』 メールの下方には作ったらしい散らし寿司の画像が張り付けてあった。 なかなか美味しそうな散らし寿司である。料理上手なのだろう。画像からもそれが伺えた。 「なに、これ。臨兄だって?」 「可愛いだろ?でも、やらないから」 臨也のおかしい言動に、新羅の気持ち悪さが増す。 「……いや、僕にはセルティがいるから」 「わかってるさ。いつも新羅ののろけを聞かされるんだからたまには俺の話を聞いても罰は当たらないだろ?」 臨也が大事な二人の画像を見せたり帝人からのメールを見せたのは、ひとえに新羅にはずっと片思いしている相手がいるからだ。そののろけを適当につきあって聞いてやっているから新羅には聞く義務があると臨也は思っている。それに新羅は余計なことはいわないから大事な存在がほかに漏れることはない。 「のろけ……」 「のろけだろ?だから、俺の話をもっと聞け!」 「いやいや、臨也。落ち付けって。誰も聞かないなんて言っていない」 「よし、聞け。すっごく可愛いんだよ、見ればわかると思うんだけど。姉に似てその子供は可愛い上に性格も素直で愛らしくて、俺を慕っていて、大好きなんだよ。すごいだろ?二人していろいろ作ってくるし!これが美味しくて。ああ、やらないからな。もったいない」 臨也がハイテンションで語る。 「うわー、臨也ののろけを聞くことになるなんて、天変地異の前触れじゃないの?」 黙って聞いていた新羅は、思わず心配してしまった。 変とか変じゃないとかの次元じゃない。あり得なさすぎて、気持ち悪いを通り越して吐きそうだ。 「じゃあ、死ねば」 「冷たいなー」 「新羅に優しくする方が気持ち悪い」 「……確かに」 そこで納得するのが、友達付き合いできる秘訣かもしれない。 まあ、どっちもどっちとも言う。 性格がゆがんでいて、人に寄らない。いい意味でも悪い意味でも、マイペース。 「まあいい。臨也ののろけを聞けるのは僕くらいなものだし。お互い様ってことだね」 互いののろけなど、他に誰が聞いてくれるというのか。ついでに他言無用で、詮索無用だ。 「ふん。そーいうことにしておいてやる」 臨也は一見興味なさそうに、それでも頷いた。 商談成立である。 臨也が毎日大事な人間のことを話すとは思えないな。 僕も気が向いたら、のろけることにしよう。 |