「明日咲く月」帝人君は、白猫じゃない?





 

「やっぱり臨也君は黒猫ちゃんよね」
「……」
 その沙耶香の台詞を聞いた瞬間臨也は走馬燈のように過去の出来事がよみがえった。
「ますますハンサムさんになって。将来楽しみだわ〜」
 沙耶香に誉められるのは嬉しいが、今回ばかりは少しだけ遠慮したい。
 その先にあるものが予想できて、すごく困った。
「うちの帝人はなにかしらね?」
 沙耶香は我が子を見やる。無邪気に笑っている帝人は可愛い。
「顔立ちは違うけど、系列としては臨也君と一緒よね。なら帝人も黒猫かしら?」
「いや!帝人君は黒猫じゃないよ。どっちかっていうと白猫じゃない?こう、ふわふわしてて」
 母親が妖精なのだから、分けるなら白属性だ。うちは黒属性だが。魔女や吸血鬼に黒猫だ。
「そう?白猫?」
「そうだよ!」
 沙耶香の意見は今後を左右する。
 もし、またハロウィンをやろうと言い出したら仮装が待っている。さすがに、帝人に自分と同じ格好をさせるのは忍びない。お揃いも捨てがたいが、帝人には白だ。うん。
「あら、帝人君は白猫なの?可愛いわねー。うん」
 千歳が朗らかに話へ参加してきた。
「真っ白の服で、白い耳に尻尾。可愛いわ!ふうふわしたヤツがいい。うちの可愛いお嬢ちゃんはなにかな?」
「九瑠璃ちゃんと舞流ちゃん?なにがいいかな?」
「……小悪魔でしょ?二人は」
 臨也にとって妹たちは、日々小悪魔である。
「小悪魔?」
「小悪魔ねえ。確かに可愛い衣装もあるな。尖った尻尾とか小さな黒い翼とか、ひらっとしたマントとか可愛いかもね!」
「そうね。想像すると、可愛いわね。お揃いで」
 沙耶香も千歳も臨也の意見に賛同した。
「決まりね!なら、衣装作らないと!今から楽しみだわ〜」
 ハロウィンまでまだ一ヶ月もある。これは相当力が入ることは間違いない。
 
 
 
 ハロウィンである。とうとう、やってきた。
 今回の仮装もすごいものだった。
 自分が黒猫。前回よりは、多少はましだ。ネコミミと尻尾で済んでいる。白いシャツに黒いズボンに黒いベスト。
 母親は変わらず魔女だ。紺色のロンドレスにマントに帽子。ステッキをもっている。
 父親も吸血鬼。黒の燕尾服と口元に牙。
 九瑠璃と舞流は小悪魔。漆黒のひらひらしたワンピースに背中に黒い翼でお尻から先が尖った尻尾がくるんと出ている。髪もくるくると巻かれて髪飾りで留められた力作だ。
 帝人君が白猫。白いネコミミと尻尾に白いシャツに半ズボンにソックスに靴。全部が白色で、服はふわふわした素材だ。鈴が付いた首輪も白くて、かなり可愛かった。
 沙耶香さんが妖精。今回は純白のスリップドレスだ。上に編んだ素材のショールを巻いている。小さい薄い羽を背中に付けて、頭には金色の輪をはめて指には大きな指輪と細いステッキ。
 夫の竜也が透明人間。身体に包帯をぐるぐる巻いている。目の周りだけ見えるように上手に外してあるし、実は上下が分かれている代物だ。脱ぎ着ができる作りで次回も使えるだろう。ああ、次回があるのだろうか。
 晩餐が始まった。
 
 前回同様、ごちそうだが変だった。
 遊び心あるといえばいいのか謎だが、初めての経験である帝人君も九瑠璃と舞流も楽しそうだ。蝋燭の光で過ごすことも通常ないことだ。テレビからは滅多にお目にかかれない昔のホラー映画がかかっている。BGMにはもってこいだ。おどろおどろいい音楽が聞こえる。
 
 用意されたご馳走を味わって食べる。大人は赤いワインで子供は葡萄ジュースだ。
 フライドチキンの持ち手が骸骨の形だとか、ミモザサラダが赤く染まってるとか、パンをくるくる巻いた中が内蔵みたいだとか(本当は、サンドのようなものだ)、クッキーがいろんな形をしているとか。また、南瓜のポタージュには猫の形のクルトン浮かべられている。
 
「イザにい。かわいい、くろねこ!」
 帝人が臨也のそばに寄ってきた。今まで帝人は両親の間に座っていた。その間、皆に構われ倒して、やっと臨也のところまでやってきたのだ。最初から隣にいないのは、もちろん千歳の配慮だ。どうせ独占するんだから、我慢してろと捨てぜりふを吐いていた。
「帝人君も、とっても可愛いよ。真っ白の猫だね」
「ふわふわなの。ほら」
 臨也の前で帝人が尻尾を振って見せた。今回の帝人の白猫のコンセプトはふわふわ、やわらかい子猫らしい。素材が肌触りのいい柔らかなものを使ったようで、帝人のネコミミも尻尾もふわふわしている。
「うん。やわらかい」
 臨也も誘われるがまま、尻尾をなでる。帝人も真似して臨也の黒い尻尾を小さな手で撫でた。
 臨也は気をよくして帝人の頭をよしよしと撫でつつ小さな身体も抱きしめる。腕に収まる小さな身体は、暖かくて柔らかくて本当に子猫のようだった。
 帝人が首を傾げて微笑むと首輪に付いた鈴が涼やかに鳴る。
 思わず写真!と臨也は心中で思った。記念に撮っておかないとダメだろう。一番最初に全員で記念撮影はしたのだが、やはり必要だと思う。うん。
 視線をあげると母である千歳とばちりとあう。千歳は意味ありげに笑ってカメラを振った。臨也は本能に負けて千歳を拝むように頷く。すると千歳は立ち上がり、二人の方までやってきた。
「帝人君。可愛いわねー。臨也と一緒に写真撮りましょ?」
「しゃしん?イザにいと?とって!」
 嬉しそうに千歳にせがむ帝人は可愛かった。人の悪い笑みを臨也だけに向けて、千歳は指示を出す。
「なら、二人並んで。うん、もっとくっついていいよ?」
 帝人が臨也の腕にぎゅうと捕まって、身体を寄せる。臨也も同じように帝人の肩を抱き寄せて、笑った。
 カシャン、カシャンとカメラの撮影音がする。
「もう、一枚!」
 臨也はぎゅうと帝人を自分の前で抱え込み、ポーズを決める。帝人もきゃらきゃらと笑っている。
「OK。可愛いのが撮れたわ!今度焼き回しするね」
「うん!」
 いい子の返事を帝人がするが、臨也は笑うだけだった。当然、もらうつもりである。そのために、母親を拝んだのだ。不遜に笑む息子を、千歳は仕方なそうに片眉をあげて許し、戻っていった。
「帝人君、何か飲む?もう、お腹いっぱい?」
「たべられるよ!まだ、ママのパイがあるもん!」
「ああ。沙耶香さんのパンプキンパイがあるね。なら、それまで僕と一緒にお話していよう」
「うん!イザにいといっしょ」
 臨也は幸せを噛みしめながら、帝人と二人話していた。









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