「ミカちゃんの恋人」1




 

「うーん、大丈夫かな」
 狩沢絵里華は思案顔でワゴン車にもたれている。
「そんなに心配か?従兄弟といっても男なんだろ?」
 自分たちのリーダーである門田が不思議そうに聞くと、狩沢は途端ムキになった。
「だって、ドタチン!こっちに出てくるの初めてなんだよ。男の子でも、まだ中学生だし、小さいし」
「ドタチン言うな。……それだと池袋はわかりにくいんじゃねえのか?」
 待ち合わせに池袋は向かないだろう。人は多いし駅も混雑している。地上への出口や入り口も入り組んでいる。
「一応、なにかあったら電話してっていってあるけど。まずかったかな」
 狩沢が不安に陥ってきた頃、待ち人は現れた。
 
「ミカちゃん!」
「絵里華ちゃん!」
 笑顔で駆け寄ってきた少年に狩沢も走り出して、抱きしめた。
 抱き合う二人はとても微笑ましい。
「無事にあえてよかった!迷わなかった?」
「うん。ちゃんと調べておいたし。どうにか大丈夫だったよ!」
 姉のように心配する狩沢に少年も微笑んで応える。本当に、姉弟のようである。
 
「ああ、ミカちゃん。皆を紹介するね」
 そういって狩沢はいつものメンバー、門田、遊馬崎、渡草を紹介する。門田をドタチンと言って、やめろというのはすでにご愛敬だ。
「初めまして、竜ヶ峰帝人です」
 少年は、微笑みを浮かべてぺこりと頭を下げた。
 まだ中学生というだけあって、小柄で幼い顔立ちをしていて可愛かった。ぱっちとした大きな瞳に小さいが整った鼻梁、薄い桜色の唇。色は白く、前髪を短くしている黒髪はさらさらだ。
 黄色のシャツに細身のブラックジーンズに白いスニーカー。上に透ける素材の白いコートをはおっている。
 細身に身体にとても似合っていて愛らしかった。
「ああ、よろしく」
「よろしくっす!」
「こっちもな」
 三人とも帝人を大手をもって歓迎した。子供には皆優しいのだ。
 それを見て取って、狩沢が今回の池袋まで出てきた理由を説明する。
「ミカちゃん、来年、高校をこっちにしようかって下見に来たんだよ」
「そうなのか?」
「はい。今まで田舎から出たことがないので、今回はちゃんと着けるかどきどきしました。すごい人だし」
 門田の問いかけに帝人は素直に答えた。
「池袋、人多いもん。夜だって物騒なんだから。ミカちゃんうちにおいでよ」
 帝人の両手を掴んでぎゅうと握り、狩沢はご機嫌に誘った。
「そういう訳にはいかないでしょ?絵里華ちゃんとこに迷惑になるんだから」
「うちは大歓迎!むしろ、来て?ってお願いしたいくらい。ウエルカムよ!」
「絵里華ちゃんたら」
「ほんとーよ。可愛いミカちゃんと一緒なんて嬉し過ぎるってものよ!」
 狩沢は証明するのかのように、小さな帝人を抱きしめた。
「すごいっすね」
「当たり前でしょ、ゆまっち。ミカちゃんはうちの親族から愛されているんだから」
 遊馬崎のつっこみに対して、首だけ向けて狩沢は付け加えた。
「もう。絵里華ちゃんがそんなんだから、おばさん達心配してこの際僕に絵里華ちゃんの婿においでって言われるんだよ?」
 仕方がなさそうに帝人が吐息を吐くと、狩沢は小さく笑った。
「うわー、手段選んでないわね。でも、ミカちゃんが婿?いや、嫁ならいいかな」
「絵里華ちゃん、好きな人いないの?」
「いないもん。私は筋金入りのオタクだもん。二次元大好きだもん」
「そんな事いって!うーん、絵里華ちゃん、うちの親族の顔が好みじゃないんだよ?つまり、門田さんみたいなタイプが好きなの?」
 帝人の突拍子もない切り返しに、狩沢は心外だとばかりに、大きく叫んだ。
「はーーー?なんでドタチン?」
「だって絵里華ちゃん、うち系のタイプあんまり好みじゃないでしょ?」
「そうね。綺麗とか格好いいとは思うけど、見ている分には構わないけど、私は細面はまるっとタイプじゃないもん」
「だから!がっしりした兄貴タイプの門田さん!うん、おばさんに言っておくよ。安心していいって。絵里華ちゃんは恥ずかしいから紹介できないんですって!」
 にっこり悪気など欠片もなく笑う帝人に、絵里華はとんでもない事態に顔がひきつった。
 帝人が、親切にそんなことをいえれば事実となって親族中に伝わるだろう。
「違うから!ミカちゃん大誤解!私のタイプはドタチンじゃない!」
「なら、どんな人がいいの?」
「……」
 ここでアニメや漫画などの人物をタイプとして上げられたら多少はよかったのだろうが、狩沢はオタクとして大好きでも二次元でこんな男が好みということはなかった。主に腐女子であるからだ。
 見目のいい男は観察し、妄想するものなのだ。
「もう、ないの?」
「……今のところ、ないなー。だって興味ないし。オタクだからさ」
 細い腰に手をおいて、帝人が困ったように狩沢を見る。
「ミカちゃんだって知っているでしょ?」
「知ってるけど、おばさんたちてぐすね引いて待ってるよ?」
「放っておいてくれればいいのにー。私より年上いるじゃない。ねー?」
 狩沢より年上で結婚してないいとこ達はまだ、大勢いた。
「おばさん、あれでも心配しているんだよ」
「余計なお世話っていうんだもん。さてと、その話はもいいいよ。せっかく、ミカちゃん池袋に来たんだから、案内するよ?」
「ありがとう。絵里華ちゃん」
 帝人も話を変ることには否やはなく、すぐに話に乗った。
「池袋は皆詳しいからね。わからなかったら、聞いて?」
「うん!」
「じゃあ、レッツゴーすよ」
 遊馬崎がしめた。









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