「眠り姫の起こし方」


綾瀬 紫 さまから、強奪、いや、おねだりした絵です。
他にもいろいろあるのですが、それは私の心の中で堪能することにして、この絵だけ公開させて頂くとになりました。
このために、ちょぴりアレンジ加えてもらって。
なんて、甘くてラブラブな二人なんでしょう。あてられますよ?
私はすっごく、幸せです。
ああ、ナンパした甲斐があったというものです。かなり強引にナンパ、勧誘してすみません。でも、欲望にはかなわなくて。

おまけ小話を付けさせて頂きます!
また、よろしくお願いしますと密かに言ってみる。←密かじゃない。(笑)

*えっと、ステキに甘い話なので「吐息」の二人です。ええ。

                                 はるる


 
 
 快斗は朝から出掛けていた。
 どうしても出向かねばならない用事だったのだ。デパートで行うマジックショーに快斗も出演するように誘われていて、断る気もないので受けた。
 どんな小さな会場でもマジックを披露する場所を与えられることは嬉しい。まだ駆け出しの、プロでもない学生だ。父親がどんなに著名なマジシャンだったとしても息子もそうだという保証などない。積み重ねていって初めて、評価とは付いてくる。
 快斗には父親がマジシャンだったおかげで同業者に知人がいて、その人たちが快斗の腕前を昔から知っていたため呼んでもらえる機会が多い。
 そうでなくて、いくら小規模でも学生に普通声はかけない。
 ボランティアは学生にも向いているけれど、デパートや公民館、ホールなどで行うものは出演料がわずかでも出るものだ。他に呼んで欲しいプロのマジシャンやセミプロの社会人はいる。
 だから感謝しているのだ。
 こうして機会を与えてもらえて。マジックは己を形作るアイデンティティの核になる一つだから。
 
「ただいま」
 同居している工藤邸に帰ってきた。玄関から声をかけるが返事がない。
 快斗はそのままリビングまで進み、ソファで横になっているこの家の主を見つけた。
 どうやら読書している間に眠ってしまったようだ。ソファに仰向けになり胸に開いた本を預け、すやすや寝入っている。
 健やかな寝息が聞こえる。
「……新一?」
 そっと名前を呼ぶが、起きる気配はない。
 今は瞼に隠されているが意志の強い蒼い瞳に早く自分を映して欲しいと思う反面、このままそっと眠りを守りたいとも思う。
 だが、出かけたついでに新一も好物であるレモンパイを買ってきた。人気のケーキ屋は手間暇を惜しまず美味しく美しいケーキを作るため、一定以上は出来なくて売り切り御免だ。その中でもなかなか買えないレモンパイである。
 お茶をいれて、三時のティタイムにしたいところだ。
「新一?起きて?」
「……ん」
 顔を覗き込んで呼んでも、まだ目覚める気配はない。
「新一?こんなところで寝てると、風邪引くよ」
 シャツにジーンズという軽装で窓から風が吹き抜けているため、いささか肌寒い。清々しいとは思うが、眠るには冷たい。
 滑らかな頬に手を伸ばすと、ひんやりと冷えていた。
 これは本格的に起こした方がいいだろう。うたた寝は気持ちいいけれど、風邪を引かせる訳にもいかない。
「新一?起きないと、ちゅーしちゃうよ?」
 耳元で甘く快斗は囁く。眠り姫はキスで目覚めるというし。
「ん……うん?」
 白い瞼がわずかに動き、陰を落とした長い睫がふるえる。ゆっくりと開かれる瞼の奥から蒼い瞳が現れた。数度瞬きして、やがて快斗に気付く。
「……かい、と。……いつ?」
 寝起きのせいで、声が少しかすれている。快斗は新一の顔に上から自分の顔を寄せて、笑った。
「さっき、帰ってきた」
「そっ、か。……おかえり」
 新一はにっこりと無防備に笑うと、快斗の首に手を回し引き寄せた。抵抗する間もなくとうか、抵抗する気は皆無であるが……新一の細い腕にされるがまま顔を寄せると、唇が重なった。
 触れる唇も少し冷たい。
 快斗は自分からもついばむように口付けて、唇を暖める。
「……ん、……ふん、ん」
 目を閉じて口づけに酔う新一は、ぎゅうと快斗の首にすがった。やがて、快斗がそっと離れると、新一は荒い息を吐く。
「……かいと?あれ?」
 目を瞬いて新一は驚いた表情を浮かべた。
 もしかしたら、夢うつつだったのだろうか。先ほどまでの会話は覚えていない?
「ただいま、新一」
 試しに、快斗は笑顔で帰宅の挨拶をしてみた。
「おかえり、快斗」
 にこり。今度は確かに覚醒している声だ。瞳も意志が宿っている。
 新一が寝ぼけていたと判明したが、快斗は口をつぐむことにした。夢うつつでも、自分からお帰りといってキスしてくれたことは本当だ。快斗の眠り姫は、自分からキスして目覚める。さすが、探偵である。平成のホームズ、警視庁の救世主は伊達じゃない。そんなことを言えば、なにが探偵だ?どこにそんな根拠が?と新一は首を傾げるだろう。
 まあ、キスするのは、恋人だからに他ならないから理由も根拠も必要はない。
「新一。お帰りのちゅーして?」
 快斗はウインクして強請ってみた。快斗の願いを大抵新一は聞いてくれる。
「……」
 快斗を無言で見てから新一は、小さく笑って頷くと腕を伸ばして抱きついた。頬に触れる暖かな感触。そっと離れて次に唇にちゅっと可愛い音を立てて触れていった。
「ありがと」
 快斗は新一を両腕で抱きしめて、お礼を言った。
 

 新一は眠り姫ではなく恋人だから。
 いつでもどこでも互いに好きな時、キスできるのだ。
 
 
 



                                               おわり。




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