「2004’愛鳥週間」
今年も愛鳥週間の季節がやって来ました。 白い鳥と飼い主の麗しくてデリシャスにシリアスな溜息もののイラストが届きました。 そう、これは、巣箱オーナーの特権です! どうだ、羨ましだろう、と鼻高々になりたくなる程の代物です。 水無月あきひさま、毎回毎回素晴らしいものを本当に本当にありがとうございます。 感謝に耐えません。 ということで、今年も妄想は健在。 春流 |
生き物を飼うという事は飼い主に責任がある。 可愛いからといって飼ったはいいが、成長したり鳴き声が煩かったり手間が掛かる等の理由で捨てる飼い主が多い。 生き物を飼う場合、生態を学び正しい飼い方をしなければ病気になったり、人嫌いになったり、寿命も短くなる。 生き物は、都合のいい玩具でも、ぬいぐるみでも、人形でもない。 生命のある存在なのだ。 探偵は、白い鳥を飼っていた。 大きな鳥は夜行性で、時々探偵の部屋を訪れる。 常に世話を必用としない鳥は、鳥籠の掃除も予防接種も餌も躾もいらなかった。 けれど、ただ放っておけばいいかと聞かれたら探偵はノーと答えるだろう。飼い主には飼い主の義務と責任があるのだ。 鳥が安らかに健やかに過ごせるように、環境を整えることである。また、愛情も欠かせない。責任が取れないなら、生き物は飼ってはいけないのだ。 探偵の場合は自分が望んだのではなく、鳥の方から押し掛けて来たのだが、それはそれ、これはこれだ。自分はすでに立派な飼い主だった。 その日訪れた鳥は、どこか様子がおかしかった。 飼い主の勘だ。 探偵が見つめる鳥の瞳が陰って見える。紫暗の色が暗く濁っている。血の匂いはしないから、怪我をしているようではいが自分に向けた背中が寂しげだ。 今までに、白い鳥の生態を探偵は事細かに観察していた。 だから、僅かな変化でも気が付くことができるようになった。 瞳や指先、茶色い癖っ毛、体温、動作、匂い等から健康状態や精神状態まで推測する。その中で、白い鳥が見せる背中に漂う雰囲気が、彼がどんな気分か理解する一番の材料だった。 「KID」 新一は、白い鳥の名前を呼んだ。 「何?」 新一の部屋に入るとKIDはまず、シルクハットとマントを取り外す。今もそれらを手に抱えている状態で、手袋を外すために人差し指の部分を口にくわえて引っ張っているところだった。顔だけ新一がいる後ろを振り向く。 片眼鏡が、窓から差し込む月光に反射していて彼の表情を読ませ難くしている。 何も言わないけれど、新一には彼が落ち込んでいる事がわかった。 決して理由など口に出さない。 自分に弱さを晒さない。 高い自尊心を持っている彼だから、滅入っている姿さえ人に見せたくないだろう。 生き物は、弱っている時姿を隠す。敵の目から逃れるため。 それでも、こうして飼い主の元に帰って来るのだから、新一は満足だった。 何も言わずに、そっと背中越しに腕を回して彼を抱きしめる。暖かな体温が伝わって少しでも心を癒してくれればいいと思いながら。 自分にできるのは、そんな事くらい。 白い鳥は普段自由気ままに夜空を飛ぶのが相応しいのだから。 白い鳥であるKIDは、回された腕を見つめ背中から伝わる体温に驚く。僅かだけ逡巡してその手に自分の手を重ねた。ふわりとぬるま湯みたいな熱が己の体中に行き渡る。 凍えるように冷え切った身体と心が歓喜に沸き上がる。 何も聞かずに、新一は自分を暖めてくれる。欲しいモノをくれる。 きっと、手放せない。 この手を。 けれど、知っている。 いつ果てる時が来ても、何を失っても、罪に問われても。 信念を果たすまで、自分は止められないし、止まらない。 いつか、この手を離す時が来る。 それまで、この手に縋っていいのだろうか。女々しくて、諦め切れなくて、あまりに自分の弱さに嫌気が差す。 ああ、どうか。 今だけ自分を許して欲しい。 いつか来る別離をとっくの昔に覚悟しているから。 KIDは、己と重なる新一の指先に力を込めた。 好きだとも、言えないまま。 心で呟くのみに、まかせた。 だから、新一は知らない。 おわり。 |