「愛鳥週間 その後」


巣箱からお持ち帰りしてきた「その後の鳥さんと飼い主」です。
巣箱オーナーだけの特権です。
その懐きっぷりは、KIDとしてどうなんですか?と突っ込みを入れてみたいような
気がしないでもないんですが、まあいいでしょう。
ラブラブだから・・・。(笑)
それにしても、新一さん、甘やかし過ぎ?

水無月あきひさま、素晴らしいものを本当にありがとうございます。
私、罠に嵌りっぱなしです。今度は、是非、罠に嵌めたいと思います。
覚悟してね・・・?(笑)


ということで、以下は妄想。

 
                                 春流



 釣った魚に餌はやらないというが、懐いた鳥に餌はいるんだろうか?
 別に魚に餌がいらないとも新一は思わない。飼うのなら面倒を見なければならないと思う。もっとも、その言葉が池で飼う魚のことではない事くらいわかるが、人間でも何でもやはりアフターケアは必用だろうと思う。が、新一は魚を釣ったことはないので、あくまで想像の範疇である。
 が、残念ながら鳥に懐かれた。
 飼ったこともなかったし、飼うつもりもなかったのだが、どうしたものだろうか。
 自分は生き物を飼った事がない。
 普通鳥を飼うなら、鳥小屋の掃除や餌や世話をしなければならないが、新一が懐かれた鳥は一切そうした手間がかからない。餌がいらない訳ではないが、餌代はいらない。なぜなら、新一自身が餌であるらしいからだ………。
 


 
 「こんばんは、めいたんてー」

 (………ひらがなに聞こえるなあ)

 新一は自室の窓からひょっこり顔を出した白い鳥の声に眉をひそめながら振り向いた。

 「しんいち、今日も来たよ〜」

 にこにこしながら笑う鳥の姿を確かめて、新一は思う。
 どう聞いてもひらがな読みなのだ、自分を呼ぶ声が。
 今でも現場で逢えばKIDらしい時には慇懃無礼な程丁寧な言葉使いで相対するくせに、工藤邸に現れる時は、そんな猫を脱ぎ捨てている。
 別に丁寧な方がいいとかの問題ではない。
 人間なのだし、KID自体が演じている部分があるだろうとは思っていた。砕けた物言いは、普通だろう。新一はKIDに特別理想など持っていなかったから内面を知って理想が崩れるなんてこともない。
 が、態度が違い過ぎやしないか?と新一は思うのだ。

 「………いい加減、そんなとこから入って来るな」
 「でもさあ」
 「でも、じゃない………」
 「だって、ちょうどいいだろ?どうせしんいちこの時間なら自室なんだし」

 手間なくて、いいじゃんと笑う鳥に新一は頭痛を覚える。
 白い鳥、KIDが入ってくるのは毎回窓だ。誰かに見られたらどうするんだと自分の方が心配してやるのが馬鹿馬鹿しくなる。
 
 (いくら鳥だとはいえ、玄関から入ってこい………!)

 何度も思うが、喉まででかかった言葉を飲み込んでいる。
 KIDが玄関から入ってきたら、それはそれで問題なような気がする。全うな神経をしていたら、見たくない。
 KIDなら窓でも、ありだろう。似合わないこともない。
 白いマントを翻して飛んでいる様は、闇夜に浮かび上がって格好良いような気がしなくもないはない………。

 「俺は今読書中だから構う暇ないぞ」

 新一はそれだけ言い置いた。
 待ちに待った新刊を読んでいる身としては、KIDに構っている時間はなかった。

 「いいよ、どうぞどうぞ」

 しかしKIDは全く気にしなかった。
 まるで自室のような気軽さで鼻歌なんぞ歌いながらちゃっかり上がり込んで靴を脱いで揃え、長いマントを取り外し椅子に掛け、シルクハットを脱いで片眼鏡を外しその中に入れた。シルクハットごと机の上に置いて、上着も脱いでマントの上に無造作に被せた。
 凝ったな、と首を回しながらネクタイを緩めていそいそと新一の側まで寄って、ギシリとスプリングを鳴らしてベットに乗り上がった。
 そして、ベットの上で本に視線を落としている新一の腰に手を回した。
 新一はぎゅっと抱きついてくるKIDをいつものことと特別抵抗もなく受け入れてついでに髪も梳いてやる。柔らかい髪質で癖毛のKIDはその部分から言えば可愛い鳥として合格だった。根本に指を差し込んで毛先まで梳くことを繰り返すと、機嫌良くすり寄って来る。
 これで喉まで鳴らしたら鳥じゃなくて猫だよな、なんて思いながら視線は本に向けつつKIDを構う。

 そんな時間は実は新一は嫌いではなかった。
 なんとなく穏やかな優しい気持ちになるのだ。
 これがひょっとして動物を飼うと癒されるって事なんだろうかと、真面目に思う新一はある意味情緒が欠けていた。口元に笑みを浮かべて優しい目でKIDを見ている自覚がない。その無自覚さが、幼なじみに鈍感と言われている由縁である。
 
 
 


 実は押しに弱かったのか、というのがKIDの率直な気持ちだった。
 ほんの少しだけ休息の場所を与えてもらったつもりだったのだが、あまりの心地よさについつい通ってしまっていた。
 なぜなら、名探偵は嫌がらないから。
 口では何を言っても、仕方ないなと笑って許してくれる。
 優しく髪を梳いてくれるのが気持ちいい。時々くしゃくしゃに掻き回して、変なのと笑う顔が好き。
 癖毛だから困るんだよと言うと、俺は直毛だからわからないなと自身の髪を引っ張りながら首を傾げる。そんな何気ない仕草や細い指や抱きしめるといい匂いのする新一が好き。
 大好きだ。
 結局、犯罪者の自分も突き放せない優しい人間なのだ、彼は。
 彼の厳しさも、強さも、時折見せる弱さも、捨てきれない甘さも全てが愛おしい。
 こうして懐いている自分を包むように抱きしめていてくれる存在は、彼だけだ。彼だけしかいない、できない。彼以外に自分が甘えられる訳がない。
 だから、今しばらくこのままで。
 
 いつ果てる時が来ても、何を失っても、罪に問われても。
 信念を果たすまで、止められない自分。それを忘れている訳ではない。
 ただ、願うだけなのだ。
 
 「しんいちー」
 「何だ?」
 「もっと栄養補給していい?」
 「………餌か?」
 「………餌でも何でも呼び方はいいけど、駄目?」
 「いいけど?」

 ほら、と新一は手を差し出した。その気負いのない態度にKIDは内心苦笑しながら正面から新一を抱きしめて唇にちゅんと触れるだけの口付けをする。まるで鳥がくちばしでつつくような感触でそれを新一は受ける。
 それを餌だと思っている新一はやはり鈍感以外何者でもないのだろう。

 KIDはそれをいいことに、何度か餌を頂いた。
 


 鳥と飼い主の関係が変わるにはまだまだ時間が必用な二人だった。
 
 


                                               おわり。




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