「愛鳥週間」

リンクのお礼で頂きました、水無月あきひ様、本当にありがとうございます。
そして、K新です。嬉しいですね〜。
新一さんって愛鳥家だったんですね、白い鳥限定の!
いいなあ、なんて妄想が膨らみました。
だって、とっても綺麗で雰囲気があるんですもの。
互いの優しい視線が溜まりませんね。

ということで、以下は妄想。

 
                                 春流


 「ほら………」

 その差し延べられた手に縋ってもいいのだろうか。
 白くて細い指の先が己に向けて広げられている。
 綺麗な顔は口元に微笑を浮かべて自分を見つめ優しげに瞳を和らげる。

 「新一」

 どんな時でもこの身に白い衣装を纏っている時は誰にも弱みなど見せないで来た。受け継いだ名前を汚さないように、紳士的な振る舞いでいつでも自身ありげに笑みを浮かべて何事にも動じない。慇懃無礼で気障で純白の衣装で夜空を翔る。
 鮮やかな手際は魔法使い『月下の奇術師』怪盗KID。

 でも。
 名前をよばれて、その自分のために与えられた手を取った。
 浚うように抱きしめて。
 その細くてしなやか身体を抱き込んだまま勢いに任せて持ち上げると背後にあるフェンスに座らせるようにして、その腰に腕を回して胸元に顔を寄せた。

 「KID………」

 新一はただ名前を呼んだだけで、そのまま身を任せる。
 KIDのシルクハットを取って、少し癖毛の髪を優しく梳く。
 何度も何度もゆっくりと。
 新一の腰に腕をぎゅっと回して離さないように縋っている何時にないKIDを包み込むように髪を梳いている手を子供をあやすように撫でる。少しでも癒されるようにと思いながら………。

 「………」

 何も言わないKIDに新一は理由を聞かなかった。
 降り立ったビルの屋上はビル風が吹き込みKIDのマントをはためかせると同時に、夜景を背後に佇む探偵の髪や上着を揺らしていた。その姿を見た瞬間、KIDは己の心中に潜めて押し隠している痛みを感じた。
 いつもは鉄壁のポーカーフェイスで誰にも気付かせないのに。

 今日は、駄目だった。
 今日という日だけは、自分の仮面が剥がれ落ちる。
 KIDであり続ける事が痛みを伴って己を襲う瞬間。決して許さないと心に決めた信念。自分を構成する要素の大部分に影響を受けた尊敬する人が消えた日。どんなに年月が経っても色あせることのない思い出。脳裏に蘇る笑顔と声と指から生まれる奇跡。
 大好きだった日々。
 
 今の自分は、彼から見たらどうなのだろう?
 彼の目的は何だったのか。
 どれだけ探しても見つからない真実。
 それでも自分は止められない。
 いつ果てる時が来ても、何を失っても、罪に問われても。
 
 しかし、今は暖かい腕に包まれている。優しい指が己を癒す。触れている部分から綺麗で輝く生気が伝わって来るようだ。清浄で高潔な魂はその器から光を溢れさせている。
 KIDには見えるような気がした。
 新一を取り巻く光が闇の中に浮かび上がる様が。

 「新一………」
 「何だ?」

 小首を傾げてKIDに視線をあわせる新一が溜まらなく愛おしい。
 理由など聞かないで傍らにいてくれる心優しき名探偵。

 「ありがとう」

 心から。
 ありがとう。

 「………偶にはな」

 新一は目を細めてくすりと笑う。穏やかで和やかな顔。
 
 許しを与える神のようだ………。

 貴方がいるから、戦える。
 初めて信じていない神に感謝したいと思った。
 この、出会いに。
 
 KIDは先ほどまでの痛みを浄化させると瞳をゆるめて間近にある新一を見つめ微笑み返した。
 そして、もう一度存在を刻むように抱きしめた。
 もう少しだけ、こうしていたい。
 


 それは、再び立ち上がるまでの僅かな休息。
 


                                               おわり。




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