「小さな新ちゃんと未来の白い魔法使い〜またはプロポーズ大作戦〜」

水無月あきひ様、またもや、ありがとうございます。
「パパとしんちゃん」の小さな新ちゃんと快斗です。
これを見た瞬間の私ときたら、顔の締りがなかったです!
「可愛い・・・!!!可愛いよう・・・(うっとり)」
あきひ様によると、「しんちゃんにプロポーズを受けてもらえるように、日々精進している快斗くんです(笑)」だそうです。
そうそう、弛まぬ努力が必要なんですよね、新ちゃんを手に入れるには!
などと親ばかなことを思いました。えへへ。


お礼を込めて、またまたちょっとしたお話をつけさせて頂きました。
 
                                 春流


 眩しい光が満ちあふれる、新緑の季節。
 一際眩しい太陽が頭上近くまで上りサンサンとした陽光を地上に降り注いでいる。暖かで穏やかな風が大木に茂る緑濃くなった葉を揺らしながら吹き抜けていく。

 奥の庭。

 正門から屋敷に続く道からは外れた細くて長い小道を右に左に茂る木々や草木や花々を横目に歩いた先に、表からは想像もできない庭がある。
 樹木に覆われ見えるのは青い空だけどいう、閑静な高級住宅街であることを忘れそうな空間。そんな奥庭にある一番大きな木の下は太陽の光を遮り長い影を作る。取り巻くように囲む木は色とりどりの花を咲かせ香りを放っていた。
 そんな自然の加護の中、この屋敷に住まう愛らしい子供が木の幹に背を預けて目を閉じていた。眠っている訳ではないのだが、ただその穏やかな空気に身を預けていた。
 ここには幼子の時間を乱すものは何も存在しない。
 あるものといえば、守護するような自然だけだった。
 


 「しんいち〜!」
 「かいと?」

 突然聞こえてきた耳に馴染んだ声に新一は目を開ける。
 声の主である快斗が手を振りながら新一の元まで走ってくるのが見えた。

 「おはよう。それとも、こんにちはかな?」

 朝と昼の中間。もうしばらくすれば午後といえるが、まだおはようと言っても差し支えない時刻だった。快斗は新一の側に膝を付いて新一を覗き込む。

 「おはよう、かいと」

 新一はそんな快斗にふわりと微笑んで朝の挨拶をした。こんにちはより、おはようの気分だったのだ。快斗は新一の可愛らしい笑顔に見惚れる。

 「きょうのしんいちも、かわいいね〜」

 そして新一をぎゅっと抱きしめた。
 初めて逢った時から大好きな新一。
 こうして休日には朝から新一に逢いに来ることが快斗の日課になっていた。もちろん挨拶のように抱きしめることも忘れない。毎回しているせいで、新一も当たり前にように受け入れてくれるため快斗はご機嫌だった。
 ひとまず抱きしめて自分の新一欠乏度を満足させると快斗は改めて新一を見つめる。

 「しんいちにみてもらおうとおもって、あたらしいマジックおぼえたんだ。みてくれる?」
 「うん!」

 快斗の申し出に新一は元気に頷く。
 自分のために見せてくれる快斗のマジックが新一は大好きだった。
 快斗は新一の期待の目を嬉しく受け止め、小さな手を滑らかに動かす。マジシャンは優雅にお辞儀してからマジックを始めるものだ。快斗は新一に最大限の礼を取り己のマジックを披露する。
 快斗の手から生まれる魔法を新一はきらきらした目で見つめた。
 
 快斗は父親からマジックを習っていた。
 新一に披露したい。格好いい姿を見せたい。何より今から努力していかねばならない。
 なぜなら快斗は新一が言う「白い魔法使い」を越えなくてはならないのだから。
 「白い魔法使い」よりすごい魔法を使えるようになるから結婚してと快斗はプロポーズした。それに新一はいいと答えた。すごい魔法を使えるようになったらいいと。
 快斗は新一が驚くくらいの魔法を使えるようになると約束した。
 だったらそれを守らねばならない。そして新一と結婚するのだ。
 実際白い魔法使いがどのくらいのレベルなのか快斗にはわかっていなかった。なんといっても比べる対象が秘密では、快斗もわかりようがない。しかし、ひとまずの目標値は父親だった。
 快斗は知らなかったが、それは大層正しい目標値だった。
 尊敬する父親よりもすごい魔法使いになって見せる。それは快斗のプライドだった。
 その結果、毎日父親の下で、練習に励むこととなった。
 元々マジックには興味があって、三つ子の魂百までといわれるようにマジックに囲まれていたため、素地は十分にあった。本当に簡単なものならすでにできていた。そこへ地面が水を吸い込むように、草木が生長するように英才教育が施されることになる。
 一つのことを習えば鍛錬して修得するまで何度も何度も続ける。器用な指先、話術、ポーカーフェイス。マジシャンの修行は果てしない。けれど快斗は努力を怠らない。

 「1・2・3!」
 「うわ〜〜〜」

 何もないはずの快斗の手から赤い花が現れた。
 大輪の薔薇が、花びらが新一に降り注ぐ。

 「きれい………」

 うっとりと見つめる新一に快斗は嬉しくなる。
 新一と結婚するためのマジックの修行だけれど、新一の笑顔が見られることが何より快斗を幸せにする。人を笑顔にできるのがマジックだよ、それが一番大切なんだよという父親の教えが身に染みて快斗にもわかる。

 そう、新一の笑顔のために。
 新一だけの魔法使いになる。

 「かいと、すごい!」

 新一が拍手しながら尊敬の眼差しで快斗を見上げてくるので、快斗はにっこりと満面の笑みを浮かべて一礼する。

 「おしまい。どうだった?たのしんでもらえた?」
 「うん。どこからでてきたのか、さっぱりわからない。かいとのまほうってきれいだよね」

 新一の手放しの誉め言葉に快斗は内心ガッツポーズを決めた。

 「しんいちにそういってもらえると、すっごくうれしい。またみてね?」
 「またみたい。みせてくれる?」
 「しんいちがおれのいちばんのかんきゃくだよ」

 快斗はそう新一に告げる。
 新一の小さな手をぎゅっと握って「これからもあたらしいマジックをいちばんにみてね」とお願いする。もちろん新一に否などあるはずもない。



 それは、二人の約束。
 これからの長い長い人生、ずっと守られる小さな約束。



                                      おわり

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