「魔法使いの弟子」



 「聞いてねえ―よ!」
 「こら、じっとしててよ。耳切っちゃうよ?」

 工藤邸の庭先で、新一は快斗に髪をカットしてもらっていた。
 午後の日差しは、すでに秋の気配。少し短くなった襟足を微風が優しく吹きすぎていく。
 髪が伸びたから、切りに行こうかと思っていたら、快斗が「俺が切ってやるよ」と言い出した。

 「俺って、マジシャンだから、手先器用だしvv」

 庭先に椅子を持ち出し、どこから持ってきたのか、美容室で使うようなちゃんとしたハサミと、ピンク色のカバーも出してきた。

 「俺時々、母さんの髪切ってやってたんだぜ?お客様、お手をお通しください。」

 どっからそんなもんを?と思いながらも新一は快斗の言うままにカバーに腕を通し、いすに腰掛ける。
 そうして、カットハサミを器用に操り、新一の髪を切り出した。

   これもキッドに必要な要素なのか?まあ、美容師に化けるってこともあるかもな
   でも、ここまでやれるか?普通・・・?こいつわかんねえ・・・

 「なあ?お前ってそんなに器用ならさ、あれ出来ねえ?」
 「ん?何?」
 「切り絵っていうんだっけ?トンボとか蝶とか、ハサミ一本で切り出すやつ。俺、ちいせえ頃どっかのテーマパークで、横顔の形を切ってもらったことあるぜ?子供心にすげぇって思った。」
 「出来ないこともないけど・・・このハサミじゃ、紙きっちゃうと、髪の毛が切れなくなっちゃうんだよね。ちょっと待ってて。」

 何か思ったのか、快斗は新一をそのままに家の奥に戻っていくと、しばらくして別のはさみと何回か折りたたんだ紙を持って戻ってきた。

 チョキチョキチョキ・・・・・・

 「はい!出来上がり。」

 ?

 「おー!!」

 パチパチパチ!思わず新一は、拍手をした。
 快斗が切り抜いたのは、ジンジャーマン。ずらっと手をつないで可愛らしい。外国ではよく子供のパーティーに見かける定番の飾り。

 「やっぱ、お前って、子供だな。」
 「なんだよ〜新一だって喜んでたじゃない。」
 「あ、ん、まあな///早く切ってくれよ。動けねえんだからさ、こっちは。」

 快斗は、又カットハサミに持ち替えると、また、新一の黒いさらさらな髪をカットしていく。

 「さっきの、明日のショーでやろうかな?ちょっとした余興に♪そんでもって、会場に来てる子供に新一が手渡すんだ。」
 「何で、そこに俺が出てくるんだ?」
 「何でって?明日の俺のマジックショーのアシスタントやってくれるって言ったじゃな〜い。」

 たっぷり30秒。冒頭に戻る。(笑)

 「聞いてねえ!」
 「こら、じっとしててよ。耳切っちゃうよ?」

 立ち上がりかけた新一の肩を押さえて椅子に座らせる。

 「ちゃんと言ったって。夕べ新ちゃんも返事したよ?」
 「何時何分!?」

   オイオイ、子供だな〜新一

 「え〜〜っと、10時23分頃かな?」
 「・・・・・・オイ、お前わざとだろ!その時間つったら、ちょうど推理ショーが始まる時間だろうが!!俺が推理ドラマに夢中になってるのをいいことに変なこと持ち出しやがって!そんなのは無効だ!」

 新一は、快斗を瞳だけで見上げる。

 「でも、ちゃんと『分かった。日曜の昼からだな。任せとけ。』って、返事したんだよ?」

 言われてみれば、その言葉に思い当たる。

   そういや、耳元でうるさいから、適当に返事したな・・・

 快斗は明日、若手マジシャンの合同マジックショーが開かれるのに、アシスタントとして新一に出て欲しいといっているのだ。
 新一は、髪を切ってもらってさえいなければ、蹴りを入れてやるところだ。ニコニコと笑う目の前の男をキッと睨みつけた。 
 このくらいの睨みには耐えられる。快斗は笑いながら、新一の前に回りこんだ。

 「前髪切るから、ちょっと目閉じてて。」

 ふん!と不本意だと言う顔をしながらも快斗の言うままに目を閉じる。快斗の指が前髪を掬う。

 「なあ?普通アシスタントって言えば女の子じゃねえの?中森さんとかに頼めば?」
 「神奈山さんがOKするわけねえよ。普通バニーちゃんだぜ?蘭ちゃんでもいいんだけどね。蘭ちゃんスタイル抜群にいいしvv」
 「蘭はだめだ!園子にしようぜ?」
 「あっ、うっ、えと・・・園子ちゃんだけは勘弁。舞台でネタばらししそうで怖い・・・」
 「あいつならやりかねない・・・そ、それじゃ灰原・・・」
 「新一が頼んでよ。」
 「・・・出来ねえ・・・」

 大学の誰かに頼んでもいいのだが、多分、快斗の頼みなら、急な頼みごとでも、先約があってもドタキャンしてでもやるという女の子はたくさんいるだろう。でも、その後が想像できる。お礼に食事に付き合うとか、映画とか、合コンとか言い出すのは目に見えているのだ。快斗ならそんな願いもそつなくクリアして、営業スマイルにっこりで帰って来るのだろうが、新一としては楽しくない。だから出来るだけ、新一の許せる範囲の女性を上げたのだ。新一は、結構、嫉妬深い。快斗はそんな新一が可愛くて仕方ないのだけれど。快斗だって、新一以外とデートなどしたくはないし。

 顔が崩れてんぞ、と、平次がいれば突込みが来るだろう。隣の科学者なら、このバカップルと、冷たく言い放つだろう。

 「だから、新一が一番いいんだよ。ね?お願いvv」
 「俺にバニーの衣装着せるって言うんじゃねえだろうな?!」

 新一は恐る恐る聞いた。

   こいつなら、やりかねない・・・

 「あっvvvvいいねえ―――!vv サイズは測らなくても判ってるもんね〜♪新一にぴったりのバニーちゃん作ってあげるぅ〜〜〜〜vv」

   か、考えてなかったのか――?!墓穴かよ・・・

 「そんなことしたら舞台で魚ばらまくぞ!」
 「普通の衣装を用意します。」

   新一のバニーちゃん見たかったよ――――――っ!
   寝てる隙に着せちゃおっかなあv・・・うーん、確実に冬越すまで追い出されるか・・・
   んじゃ、気づくまでにカメラに収めてビデオ撮影して・・・

 なんとなく快斗の態度に心の中が読めるようで背中が寒くなる。

   ぜってーろくでもねえ事考えてやがる
   気を失っている間に着替えさせられるかも・・・暫く油断できねーな

 すっかり快斗思考に毒されていることに自分では気がついていない名探偵は、快斗に関して結局盲目なのだ。
 暫く、髪を切る音が聞こえていたが、

 「はい、出来上がり。」

 と言う快斗の声が耳元で聞こえたかと思うと、唇が塞がれた。

 「っ!」
 「今のは、カット代ね。」

 綺麗に微笑む顔が目の前にあって、思わず顔が赤くなる。

   しゃあねえなー

 カバーをはずしてもらうと、新一は快斗に向かってニコッと笑った。

 「明日の件、しゃあねえ。やってやるよ。その代わり、今夜は寝かせろ!」
 「エー!?_そんなあ〜〜〜!!」
 「あったりまえだ。そのくらい我慢しろ。毎回加減しろっつっても聞かないだろが!」

  いや、かなり、手加減して抱いてんだけど・・・

 約束♪と、ひどく上機嫌の新一を快斗は複雑な気持ちで抱きしめて、ベッドの中、何度目かの溜息を吐く。
 快斗の腕の中で安心しきって眠る新一に快斗は深く深く後悔した。

   俺のほうが寝不足になりそう。く〜〜!明日の夜は手加減なしだからな!!

 「ば〜か。眠れなくて明日の舞台に穴開ける気かよ。眠れよ、俺が抱き枕なんだぜ?よく眠れるだろうが?」

 片目を開けて、快斗を見つめると、軽くキスをして、快斗の背中に腕を回した。

 「起きてたの?」
 「おめえのため息で起きたんだよ。」
 「ごめん。」

 謝りながらも、実に嬉しそうに新一の胸に顔を押し当てる。

 「子守唄歌ってやろうか?」
 「そ、それは遠慮する・・・お休みのキスだけでいいよ。」

 新一はちょっと意地悪そうに、それでも楽しそうに快斗の頬にもう一度キスをした。

 「早く寝ろ」

   ったく・・・こんなときに俺って快斗が好きだって理由もなく思っちまうんだよな
   新一ったら、時にこんな風に俺をなんなく幸せな気分にしてくれる。気がついちゃいないだろうけど・・・
    参っちまう・・・好きで好きでたまらない 
   約束がなきゃ、思う存分啼かせちゃうんだけど・・・♪
   あの笑顔と、新一からのキスと、今の言葉で今夜は満足しとこvv

 幸せの結晶をお互いの腕の中に、二人は夢へと落ちて行った。





 全部席で埋まれば、1500人程入る会場で快斗を含めた5人の若手マジシャンがリハーサルを兼ねた準備を行なっていた。
 それぞれに工夫を凝らしたマジックで、着々とリハーサルは進んでいく。

   でも、ネタがばれてんだよなあ
   この俺にネタバレさせないのは快斗ぐらいかな?
   まあ、あいつは世界中を相手にマジックショーをやらかす奴だからな
   恋人の欲目を差し引いても快斗はマジックでもNo.1かもな

 「何笑ってんの?次、リハーサル入るよ?」

 ステージの袖でじっと他の4人のネタをすっかり見破り、少々ご満悦の名探偵は快斗に促されてリハーサルを始めた。

   快斗が最後ってことはやっぱ、認められているってことだよな?
   俺  嬉しいかも
   警察でも、組織の奴らでも、他のコソドロ相手なんかよりもこうして陽のあたる場所で皆に幸せな時間を与える
   快斗がいるってのに
   俺・・・すげー幸せを感じる・・・
   あーそうだな こいつにはこんな笑顔が似合うよな 
   キレーな指
   こいつのカードマジックっていつ見てもわかんねえ
   ほんとに魔法使いじゃねえーの?
   んじゃ、今の俺はさしずめ魔法使いの弟子ってとこか?
   くっくっくっ・・・魔法の杖の呪文間違えないようにしないとな・・・

 快斗を見つめる新一の顔は、それはそれは幸せに輝いて、リハーサルにいたスタッフ全員がポーッと見惚れていた。
 快斗がアシスタントとして連れてきたのが、「東の名探偵」と名を馳せる工藤新一だったことにまず、驚いた。
 そして、その美貌に、全員が釘付け。
 ただでさえ若手No.1の呼び声も高い黒羽快斗のファンは多い。
 それが、今日は、アシスタントが、あの工藤新一。
 これがもっと早く分かっていたら、チケットは販売短時間でソールドアウト間違いなし!プレミアつきで、最後はいくらで取引されただろうか・・・
 皆が見惚れるのはしょうがないというもの。

    あ〜又だ。
    又、皆が新一に見惚れてるよ。困った奴ら。その気持ち分かるけどvvでも、新一は俺の・・・・・・

 パサ、パサ、パサッ・・・・・・
 自分の意志で動いていたかのようなカードが快斗の手の平からこぼれ落ちる。

 「快斗?」

 突然困ったように動きを止めてしまった快斗に新一が駆け寄る。それすらもスタッフのため息を誘う。

 「どうした?指、怪我したのか?」

 新一の表情はさっきとはガラッと変わり、心配そうに顔を歪めている。そして、快斗の手を取った、と思った瞬間。
 快斗が新一の腕の中に倒れこむように抱きついてきた。
 そして耳元で低くつぶやいた。

 「ごめん、新一。俺我慢できねえ。」
 「は?」
 「ちょっと、気分が悪くて。すみません。外の空気吸ってきます。一時間位休みもらっていいですか?先に舞台の方組み立ててもらっていいですから。」

 快斗は少し荒い息をしてスタッフにそう告げた。
 スタッフも出演者も、さっきまでの幸せな気分が一気にはじけて、心配そうに様子を伺っている。

 「大丈夫、少し休めば・・・じゃ。」

 そう言うと、新一の手を引いて、病人とは思えないすばやさで会場の外に出た。





 「オイ!快斗。気分悪いんだろ?そんなに早く歩くなよ、目まわすぞ?」

 繋がれた手が強く握られる。

 「気分悪いよ・・・新一のバカ!隣であんな表情(かお)されて、俺がじっとしてられると思ってんの?!」
 「あんな表情(かお)って言われても・・・」

 確かに、快斗のマジックに見惚れて、多少顔が緩んでいたかもしれない。

   でも怒鳴られたり、気分を害されたりすることか?
   それってリハーサルを途中で止めるほどのことか?

    あ〜あ、これだから新一は―――自分の価値を知らなすぎる。いつも言ってるのに

 「もういいよ。こっち!」

 快斗は会場の裏に新一を連れてくるときつく抱きしめた。

 「オイ!ちょっと、待・・・!」

 抗議する新一の声は、快斗の口付けに消され、それはすぐに深くなり、新一は一人で立っていられなくなる。

 「やめ・・・」

 息が苦しくなり、飲み込めない雫が首筋を伝っていっても快斗は新一を離さない。
 胸をたたいて、苦しさを訴える新一をようやく離すと新一の濡れた首筋を舐め上げていく。

 「あ・・ん・・・かい・・・誰か・・・くる・・・・て・・・・・・」

 新一の非難の声も今は快斗を煽っていくだけ。

 「大丈夫だよ。今は大道具の組み立てやってるから誰も来ないって。」
 「昨日のお預けの分、俺今すぐ新一が欲しい・・・」
 「はん・・・え?!ここで・・・?!何・・・で・・・」

    新一が快斗を見つめていた顔に見惚れたなんて、そしてそれがどんなに綺麗で、色っぽかったかなんて、
    新一はまるっきり無自覚なんだろうなあ
    あんな顔向けるのは俺だけにだってわかってるし、新一にあんな顔させられるなんて俺ってば、何て幸せ者vv
    なんだろうけど
    俺の理性吹っ飛ばすのなんて、一秒もかかんね−よー

 新一のシャツをたくし上げさっきまでカードに魔法を掛けていたしなやかな指が背中をツツーッと上がってくる。

 「やめろ!!」

 新一はようやく意識を保ち、快斗の頭に拳骨を落とした。

 「痛〜っ!何すんだよ!?新一。」

 新一は頭を押さえる快斗に蹴りを見舞った。

 「バーロー!!こんなとこで何考えてやがる!こんなことでリハーサル止めやがって!」
 「ごめん・・・だって新一があんまり綺麗に微笑むから・・・俺堪えられなくなっちゃった。」
 「そんなの理由になるか!こんなとこで盛るな!それにお前が一時間で済むわけがねえ!!」
 「んじゃ、一時間で済ませられるのならいいの?」
 「そんなわけねえだろが!ば快斗!!」

 本日2回目の蹴りが炸裂。

 「新一〜〜〜〜〜〜」
 「まだやるってんのなら、俺帰るぞ。」
 「ん〜それならしょうがない。白馬でも呼ぶかな〜」

 ギン!!

    うわ〜新ちゃん恐〜〜〜その視線で人殺せそう―――って、これってやきもちだよね?vv

 「新一、もう一回キスしよう?」
 「へ?何言ってんの、お前?さっきので頭おかしくなったか?」

 でも、その口は優しい快斗のKISSにふさがれる。

 「ね?新一変装しようよ?ううん、女装じゃないよ。メガネ掛けて?コナンのとき絶対正体がばれない魔法のメガネ掛けてたでしょ?本番で絶対誰にも新一だと分からない魔法のメガネ・・・ハイ!」

 パチンと指を鳴らすと、銀の細いフレームのメガネがそっと、新一の目の前に差し出される。

 「なんで?」
 「好きだよ、新一・・・」

 素顔を、その優しい瞳を俺以外の奴らの好奇な目に晒したくない。

    こんなのただの気休めだって分かってるけど

 訳は分からないけれど、なんとなく快斗の気持ちが分かるような気がして新一はメガネを受け取った。

   俺がこいつの笑顔を向けられる観客に嫉妬するのと一緒なんだろうな
   俺のほうがこいつに仮面を着けたいくらいだって、言ったらこいつ・・・止まんなくなりそうだからやめとこ///

 くすっと笑う新一に快斗は 何? と問いかけるが新一は、

 「やきもち焼き。」

 と、綺麗に微笑むだけだった。
 新一の機嫌も直り、優しく口づける快斗に、新一は止めることもせず、二人は暫くそのままそこで座っていた。

 「おい、そろそろ戻ろうぜ?皆さんにちゃんと謝れよ?」
 「ん、じゃあもう一回だけKISSさせてね?」
 
 快斗の優しい唇が、髪に額に頬に、そしてそっと唇に触れる。

 「今日、最高のショー見せてくれよ?」
 「誰に言ってるのかな?誰よりも名探偵に今日のショーを捧げますよ?」
 「あのなあ・・・俺の言ってるのは『黒羽快斗』のショー!キッドはお呼びじゃないんだよ!」

 新一は、蹴りを出そうかという格好をする。

 「ちょ、ちょっと冗談だよ。素敵な魔法を観客に見せてやるよ。さ、そのメガネを掛けて、行こう。」

 そして、今夜ベッドの中でも、最高の魔法掛けてあげるね?
  立ち上がり際に、新一の耳元でつぶやく。

  「バーロー!」

 新一は、耳を赤くしながら立ち上がる。でも、そんな言葉が嫌じゃない自分に気がついてさらに赤くなる。


 「すみません、ご迷惑をおかけしました。」
 「すみません。」

 戻ってきた二人に視線が集中する。と、いうよりも新一に。
 快斗の差し出したメガネは、殊の外新一に似合って、似合いすぎて、ますます視線を集めてしまう結果となった。

   あ〜あ・・・大失敗・・・

 「もう大丈夫ですか?リハーサルのほうはどうします?会場時間まではまだ時間がありますが、全部はちょっと出来ないと・・・」
 「大丈夫です。さっき外でやってきましたから。」

 にっこりと微笑む快斗に、話しかけたスタッフが、顔を赤らめる。

    むっ!

 自分への視線には疎い新一も、快斗に向けられる視線には、大変聡い。
 そんな新一に気づいた快斗は、

 「さっきと反対じゃん。又外に出る?」

 と、からかう様に、すばやく頬にキスをした。

 「バ!こんなとこで何やってんだ!?」
 「大丈夫。内緒話くらいにしか見えないって。ま、見られても俺はちっともかまわないんだけど?」

 ますます、快斗は楽しそうに掌からコインを差し出してクルクルと回し始めた。
 回りのスタッフも、一瞬ぎょっとしたが、快斗の次の行動に、マジックの打ち合わせのための耳打ちなのだろうと、納得してそれぞれの持ち場に離れて行った。

 ね?と言うように、快斗がウィンクをする。

   まったく・・・このバカに振り回されてばかりだ 口惜しいけど嫌いじゃないから手に負えない

  ハーッと新一は、自分がとことん恋人に甘いことを思い知る。





 会場は、満席。それぞれに、一番の技を披露して、マジックショーは続く。
 それもあと一人。快斗の舞台のみ。
 客の半数以上が快斗目当てといっても、過言ではなかった。それ程、快斗のマジックは見る人を魅了する。
 そして、それに一番魅了されているのは、自分ではないかと、新一は思う。

 「行くよ、新一?」

 快斗の声に、新一はうなずく。
 新一のタキシードのネクタイを快斗は直しながら言った。新一の為に用意したブルーの蝶ネクタイ。

 「今日はほんと、ありがとvv」
 「まだ、始まってもいないのにありがとうもねえだろ?」
 「ほんとはこんなことキライでしょ?だから、付き合ってくれて、ありがと。ねえ?新一の側でやるのが正直一番緊張するって知ってた?」

 新一は快斗の指をそっと?むと、口に持っていき、新一の好きな優しい綺麗な指にキスをする。
 快斗は、はっとして目を細める。なんて素敵な魔法だろう・・・新一でなければ掛けられない魔法・・・

 「お前は最高のマジシャンだよ。俺を一番酔わせてくれる・・・・・時間だな。」
 「ひと時の夢を新一と・・・」
 「ああ」

   「Ladies and Gentlemen! it’s a show time!!」

 快斗の涼やかな声が、会場いっぱいに響き渡る。誰をもとりこにする笑顔。誰もが感嘆するその立ち姿。しかし・・・
 会場から、聞こえる溜息は、舞台の主役、快斗だけのものではないらしい。
 アシスタントとしてでてきた、天下の名探偵、工藤新一に良く似たメガネの美青年に視線が注がれる。
 それを良しとするのか、いささか複雑ではあるが、快斗は華やかにマジックを繰り広げた。
 快斗のマジックに、観客は我を忘れたように、酔いしれる。
 最後に紅い薔薇が会場に振りそそぐ中、新一の手を取ると、その甲にキスをした。

 げっ!

 あっけに取られる新一に優しく微笑むと、客席に向かって優雅にお辞儀をした。
 会場中が、その洗練された仕草に、その絵のような二人にボーっとなっていたのは一瞬。
 この日一番の割れんばかりの拍手がいつまでも鳴り止まなかった。

 「打ち上げどうしますか?」

 舞台の片付けもあらかた終わりかけた頃、スタッフの一人が声を掛けてきた。

 「そうですね・・・少し顔を出したら、帰ります。新一疲れてるみたいだから。」
 「無理しなくていいですよ?」

 心配そうに後ろに立つ新一を見やる。

 「大丈夫ですよ。こういうのに慣れないだけで、楽しいですから。」

 新一は、まだメガネを掛けていたが、その奥の綺麗な瞳は、眩しいほどで、声を掛けたスタッフは赤面する。

   大きな猫被り!
   へん!お互い様!
   帰ったら、容赦しないよ?
   やれるもんならやってみろ!

 快斗の瞳がキラリと光るのを見て、まずい!と思ったが後の祭り。
 打ち上げ会場に10分といただろうか(笑)
 快斗は、すばやく新一を連れ出した。こんな時の快斗の行動はキッドのそれを充分に思い起こさせる。
 あっという間に、工藤邸の前に戻ってきていた。





 玄関の戸を開けるのさえ、もどかしげに新一の体を引き寄せ、唇を重ねる。

 「ちょ、ここまだ外・・・」
 「待ったなし。」

 後ろ手に玄関の鍵を下ろすと、快斗は新一のシャツに手を入れ、新一の欲望を引き出すかのように体中に指を走らせる。
 その間も、舌は新一の口内を這うように犯し続ける。

 「あ・・・かぃ・・・と・・・てめ・・・やめ・・・・・・ここじゃ・・・・・・や・・・」

 抵抗するが、快斗の指も動きも、求める舌の動きも激しさを増すばかり。
 そのまま流されて、煽られて、煽られて気づいたときは、シャツのボタンは全て外され、ベルトも床に落ちていた。
 触れられた中心は、自分でもどうしようもなく熱を持っている。快斗の与える快感に溢れる液(おもい)。
 しわになるほど、きつくきつく快斗のシャツを握り締める。
 そのまま、イカサレテ、快斗の指は、否応なく一番感じる部分に伸ばされてあっという間に快楽に落とされる。落ちていく・・・

 「ごめんね新一・・・・・・ほんとに待ったなし・・・」

 快斗は、新一を玄関の壁に押し当てると後ろから一気に攻め上げた。

 「あああ―――!」

 快斗は吐息さえも漏らさせないと言うかのように、唇を塞ぎ、喘ぎ声を全て飲み込む。

 「ん・・・・ぐっ・・・・ア――――ッ!」

 新一は、体を支える快斗の腕がなければ倒れてしまいそうだった。




 「ば快斗!」

 玄関先で無理矢理体を開かされ、声も上げられないほど攻められた。
 汗と欲と涙にまみれた体に新一は不快感を露わにする。

 「だって〜〜〜夕べの分もあったし〜、昼間も途中だったし〜、帰ったら手加減なしだっていっただろ?」

 そんな新一を膝に抱いたまま悪びれもなくウィンクする快斗に、脱力し、腕の中で、つぶやいた。

 「シャワー浴びたい。連れてけ!」

 けれどもそれは、言葉ほど険しくはなくて、快斗にとっては甘い声。

 「続きはそこで?」
 「知らねえ。」

 決して否定しない恋人に快斗は満足げに微笑みかけ、抱きかかえると、まずは浴室に向かった。

 「夜は、長いからねvv」




快:ね?ね?いいもの見せてあげようか?
桜:あー?新一のメガネ姿・・・麗しい///
快:でしょ?でしょ?新一ってば、何しても様になるよね〜〜
桜:じゃあ、例のバニーちゃんは・・・?
快:あ?あれ〜?うふふふ・・・
桜:うわ!何?!その顔。もしかして着せちゃったの?写真あるの?
新:あるわけないだろが!!!快斗!帰るぞ!!
快:待ってvvじゃあ、まったね〜〜〜〜vv
桜:真実は闇の中か・・・哀ちゃんにこそっと話して見つけてもらうか(脅してもらうとも言う)

1500のキリ番を踏んでいただいた 小川春流様に捧げます。
桜:春流様、気に入ってくださるかなあ・・・
快:新一のメガネ姿の写真付きでどう?
桜:私が欲しい・・・
新:人を「おまけ」みたいな扱いするな!!



 東明 桜さま、ありがとうございます。
 リクエストである「些細なことで、お互いを好きだと再認識する快斗×新一。最後はラブラブ甘〜い展開」という
 わがままを叶えて頂きました。
 いい男は髪まで切れるのですよね・・・。快斗素敵。
 そして、カット代にキスをもらっていくシーンがとてもお気に入り♪(←やっぱ、さりげなくがポイント)
 新一さんのメガネ姿の写真は是非下さい。バニーちゃんも見たいです。
 いつまでも、待ってますから。(笑)                  
                                           小川春流。



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