1.探偵の場合 (ここで、助かったな………) 新一は近くにあったソファに崩れ落ちるように転がった。 ぎゅっと左胸、心臓を押さえて苦しげに眉を寄せる。 「ん………っ………く」 苦悶の掠れた声と小さな吐息。 突然やってくる発作。 それは、いつ、どんな場所で、どんなタイミングでやってくか、さっぱり検討も付かない。 それでも、一人こうして家の中なら、一番いいタイミングだ。 外で発作を起こすと、人目に付いて間違って救急車を呼ばれてしまう。 意識がなくなれば、どうなるかわかったものではない。安易に診断されて薬でも使われたら、命の保証はない。 新一を看れるのは隣家に住む小さな主治医だけだった。 優秀な、世界一新一の身体を知っている医者。 どんな名医も彼女には適わない。 そう、新一は知っていた。 どんな時間であろうと、どんな場所であろうと発作を起こしたら呼べと言われている。持ち歩く携帯の短縮1番に繋がる彼女の携帯電話。 それでも新一は電話を取ろうとはしなかった。 比較的発作が軽かったせいだ。 こうして静かにじっとしていれば、そのうち治まるような気がする。 ただでさえ責任を感じているのに、これ以上灰原に罪悪感罪をもってほしくなかった。 発作として現れる前段階で動悸が起こる。 動悸は1日何度も起こるが、それだけで済むこともある。そこから発作を起こしてしまうことだってあるが、それでも長時間続く時もあれば、短くて済む時もある。 本当のところ、自分の身体であるのに新一には全く読めなかった。 心臓発作や眩暈、身体に力が入らなくなったり症状は複数を極め容易に楽にはならない。ほんの僅かな風邪・睡眠不足でさえ発作を酷くする原因になる。免疫力の低下は容易く病魔を引き寄せる。 「ふっ………、くぅ」 息をするのが、苦しい。 身体が酸素を求めているが、深呼吸ができない。大きく息を吸うと襲ってくる苦痛。 力の入らない身体を丸くして、小さく、小さく息をしながら、心臓を圧迫するような痛みに絶える。 シャツが皺になるほど両手で心臓の上を押さえて、目を硬く閉じて唇を噛みしめる。 絶えている痛みから、生理的な涙が新一の白い頬に流れてソファにシミを作った。 こういう時、一人で良かったと思う。 発作に苦しむ姿を誰にも見せたくない。 灰原は「ちゃんと言ってちょうだい」と心配そうに小言を漏らすけれど、どうにもならないことなら、心配をかけたくなかった。 誰かに側にいてもらっても相手はどうすることもできない。 それでも側にいさせて、と懇願する灰原に、自分は何も言ってやれない。人が側にいると思うと、心配をかけていると思うせいか全く治まらないのだ。 このまま一人で死んでいくのもいいかもしれないと思う瞬間がある。 動物が死期が近付くと誰にもいない場所で一人で死んでいく気持がわかるような気がする。 みっともない姿を晒したくない。 死に様など、人に見せるものではない。 探偵を志し、組織と関わり、幼児化して元に戻って………そんな経験をしたからなのか、誰かに看取られて死ぬなんて考えられない。 死ぬ気はなかったけれど、死は覚悟して望んだ組織との対決。それでも壊滅さえることは無理だろう。誰かに命を狙われるかもしれない。あれ以来、誰よりも死が隣にあるような気がする。決して怖いものではないが………。 なぜなら、生と死は皆平等に訪れるものだから。 一人で生まれて一人で死んでいく、そこにあるのは事実だけだ。 誰も悲しませることはしたくない。 誰の悲しい顔なんて見たくない。自分のせいで顔を曇らせるなんて、許せない。 もう、誰も近寄らせないつもりだったのに………。 期待なんてさせてやれない。 いつ消えるかもしれないのに、そんな不安誰にも味あわせたくない。 なのに、あいつはいいと言った。 消えてもいいと。姿を隠してもいいと。約束しなくていいって。 探し出すからって笑う、馬鹿な奴だ。 変人で、物好き、意外にお人好しで、無駄に頭が良くて、お調子者。 指先が器用で、優雅に魔法を使ってみせる。 そして、とても優しい。 知ってる、その腕が暖かいこと。安心するほど大きいことも。 いいんだよ、って眼差しが雄弁に語ってる。 「どこにもいかないで………」 「傍にいさせて………」 そんな願いがあることも、知っている。 一時でもいいから、それを与えてやれたらいいのにと思う。 何も自分はもっていないから、少しでも返せたら。 あいつの前で倒れるなんて絶対嫌だ。 心配くらいさせろ、と怒られるけれど………。 できるなら、笑っていて欲しい。 あいつが来る前に平気になって、普通の顔で「よう」って言いたい。 それが一番いい。 普通に笑って、珈琲飲んで、馬鹿なこと言って。 どこまで続くかわからない夢みたいな時間だから、大切にしたい。 たった一つ。 願ってもいいのだろうか? なあ、快斗。 2.女医の場合 唯一無二の存在。 それに出逢うことは奇跡に近い。 特に冷めた目で世間を見ることが多く、人付き合いも億劫で研究ばかりしていた自分にとって唯一の家族以外はたいした価値も見いだせなかった。その家族が死んでから、自分の中はからっぽだった。 でも、今の自分には己より大切な「他人」がいる。 自分を娘のように愛してくれる家族がいる。 そして、自分の命より何より大切で、なくせない人がいる。 その人は自分の光。 目映いばかりの光でできた枷である。 この世界に自分を繋ぎ止めている、奇跡みたいな優しくて強力な威力を持つ、光の枷。 彼の名は工藤新一。 名探偵と誉れ高い、頭脳明晰、眉目秀麗などという言葉が、逃げ出していくくらいの真実を見極める至宝の瞳と、頭脳と、行動力・観察力・洞察力を極めた探偵という能力を有し、またそれをまとう器は極上の美貌………。 そんな彼には人には言えない過去がある。 ある薬で幼児化して「江戸川コナン」と名乗っていたことだ。 それに絡む組織を壊滅させるために暗躍したことは決して誉められたことではないかもしれない。それでもやらねばならなかった。彼がこれから生きていくために。 元の姿に戻ったからといって、全てが戻る訳ではなかった。 彼の身体は危機的だった。 そんな身体にしたのは自分………。 彼が飲まされた毒薬のような薬を開発したのは、自分。 組織の一員として、決して表の世界で生きていけることなどなかったはずなのに。 とうに死んでいるはずの自分が生きているのは全て彼のおかげである。 そして、元に戻れる解毒剤を開発したのも自分である。が、それは必ずしも安全なものではなかった。元々毒薬を作るつもりではなかった新薬。その突然変異で幼児化という稀な存在となった身体を再び元に戻すなど、細胞に与える影響が大きすぎた。 ぼろぼろで当然なのだ。 免疫力の低下・貧血・・眩暈・心臓発作・体力の低下・身体機能の全ての低下。上げたら切りがないほどだ。 それでも彼は元に戻ることを選び、生きている。 そんな身体にした張本人の哀に恨みなど言ったこともない。 罪悪感など持つな、お前も新しい人生を歩むんだ、と言ってくれる。 哀が新一の面倒を見る度に、すまないと詫びるのだ。 それぐらい、させて欲しい。 罪滅ぼしでもなんでもないのだ。ただ、自分が側にいたいだけ。 生きていて欲しい。それ以外望まないから。 発作を起こしても、軽いと呼ばない、彼。 どうして?と聞く度に迷惑をかけたくないからと苦笑する。 軽かろうが、何だろうが、自分で勝手に判断しては駄目だと口を酸っぱくして言っても聞いてもらえない。ほんの少しの事ですぐに体調を崩すのに。 何があるか、わからないのに………。 彼のために生きている。 そんな自覚は最初からある。でも、そう告げたことはない。 言ったら彼が余計に苦しむから、死んでも言わない。 お前は、元に戻らないのか?と聞かれたことがある。 完全でないものを二人で飲むことは好ましくなく、自分が死んだら誰が貴方の身体を診るのよ?と答えた。それに、新しい人生も悪くないわよ?阿笠博士も探偵団のメンバーもいるわと笑ったら、そうかと頷いてくれた。 でも、本当は違う。 それは、彼より先に死ねないからだ。 1秒でも彼より長く生きなければならないから。 どうなるかわからない身体を診る主治医としての哀はずっと彼の側にいられる。 そして、彼を少しでも望むように健康にしたい。 探偵として生きられるように………。 だったら、彼より健康で、彼より長生きしなくては駄目だ。 だから、薬を飲まなかった。 どちらでもいいのだ、本当は。 もし、宮野志保としての肉体が新一のために必用だったら、明日にでも薬を飲んでも構わない。それで彼助かるなら、何でもする。 貴方がこの世界に生きていてくれるだけでいい。 側にいられたら、それ以上望まない。 だから、どうか、お願いだから、彼を連れていかないで………。 神など信じたこともない。 でも、もし、そんな存在がいるのなら、彼を助けて。 そのために代償なら何でも自分は払うだろう。 この命など軽いものだ。 きっと彼以外の命は自分にとってささいなものとしか思えない。 彼のおかげでこの光の世界にいられるけれど、闇に染まることは彼が悲しむからしたくないけれど、それでも………。 もしもの時は躊躇いなく、自分は手を下すだろう。 彼を守るためなら手段は選ばない。彼を害するものがいたら、この世から抹殺してしまうだろう。 自分は地獄に堕ちていい。 今までの罪を思えば地獄に堕ちるだろうと決まっているけれど、そこに躊躇などある訳がない。彼を守るためなら、迷うことなく手を汚す。 たった一つ。 願いがある。 生きていてほしいの。 どんな形でも、どんな姿でも。 それは彼が望まないかもしれない。 ただの自分のエゴでしかないとわかっていても。 どれほど罵倒されても、嫌われても、顔も見てくれなくても。 それでも、自分は彼を生かすのだろう。 3.怪盗の場合 白い衣装を纏うようになって、嘘を付くことが上手くなった。 いつもポーカーフェイスを忘れるな、と父の言いつけ通り、マジシャンを目指していた自分はその仮面の下に素顔を隠す術を覚えていた。それでも、確かに自分がいたのに………。 偽りの姿を纏うようになってから、誰とも距離を置くようになった。 自分の側は危険だ。 そして、知られてはならない裏の姿。 本心を晒してはいけない。 自分の中に入れてはいけない。 それはKIDになった時点で覚悟しておかねばならないことだった。 きっと初代KIDである父も孤独と戦っていたのだろう。 家族に知らせることもなく………。 それでも母親は知っていたようだし、付き人であった寺井ちゃんは協力者であったから、全くの孤独でなかったのかもしれない。 今の自分は、同じように寺井ちゃんに協力してもらいながら仕事をする。 母親は気付いているだろうが、何も言わないで見守ってくれている。 父から譲り受けた様々なことがある。 それはマジシャンとしての血や誇りやプライド。 その心意気のような信念。 怪盗KIDとしての姿とパンドラを探すという目的。 父の敵を討つこと。 父がもっていた隠れ家や人脈、資金。 全ては父の遺産。 マジシャンとしての夢もKIDとしての信念も、それを取り巻く環境も。 家族である母や寺井ちゃんも。 そこから溢れる愛情も。 自分で築いたものは、実はないのかもしれなかった………。 けれど、たった一つ。 怪盗KIDとして、黒羽快斗として手に入れたものがある。 手に入れたというと語弊があるが、それほどのものを自分で見つけた、ということだ。 傍にいて欲しい。 どこにも行かないで欲しい。 離れたくない。 自分を見て欲しい。 全ての感情が彼に向いている。 その蒼い瞳に映る自分が好きだ。 彼の瞳に自分が映るほど近くにいられるなんて、夢のようだと思う。 探偵の彼にしたら、怪盗の自分は嫌われて当然なのに。 彼は最初からそんな偏見でものを見る人間ではなかった。 その真実を映し出す、希有なる宝石は何ものも見通し、決して反らされることはない。 たとえ、それが汚れていても、悲劇が待っていても、彼は臆することがない。 心の内側が全て晒け出されるような錯覚を覚えるほど、瞳は澄み渡り、ただ静かに見つめている。 そんな存在に出逢ってしまったら、惹かれない訳がない。 運命に振り回されないように生きている彼が溜まらなく愛おしい。 自分が感じていた孤独など、彼に出逢った瞬間消し飛んだ。 同じように戦っている彼を見たら、馬鹿馬鹿しくなる。 彼がいてくれたら、そんな影などに怯えることもないのだ。 自分が見つけた、蒼い瞳。 これだけは、父親とは関係がなかった。 尊敬し簡単に追い越せない父親だけれど、これほどの存在に出逢ったとは思えない。 きっと父に自慢できる唯一の名探偵。 だから、君が望むなら嘘も付こう。 気が付かないふりくらい、いくらでもするよ。 毎日やってくる工藤邸。 迎えてくれる主人は、「よう」と言って笑ってくれる。 それが嬉しくて、悲しい。 無理に笑わないで、と思う。 「体調が悪いなら寝ていて、自分に構わなくていいから」と喉まで出かかる言葉を押しとどめる。極力普通にしようとしている彼にあわせて、馬鹿馬鹿しい話や今日あったたわいもないことや世間のニュース、今日の珈琲は美味しいだとかで盛り上がる。 そうすると酷く安心するように微笑む。 時々、苦しそうに眉を潜めていることを知っている。 それでも自分の前では倒れない。弱みを見せないように、気丈に振る舞う。 気を許していないからではないと、ちゃんと知ってる。 対等でいたいと思ってることもわかってる。 いなくなってもいい。消えてもいい。 約束などいらない、そう言ったことがある。 それは今でも変わらない気持ちだ。 彼はそれを望んでいる………。 一人で立とうとする姿は痛々しい程美しく儚い。 今にも消えてしまいそうな雰囲気を漂わせている時があると、溜まらずその身体を捕まえたくなる。抱きしめて、離さないように。どこにも行かせたくない。 自分の中にある激情。 それは、告げられない。 でも、いつか告げてしまう日が来るかもしれない。 ただ、一つわかること。 見いだした蒼い瞳を自分はきっと手放せない。 その存在をなしになんてできない。 全ての感情も思考も一人の人間に向いている。 まるで狂気のようなその激しく深い感情の名前を、自分は知っている。 でも、もう少しだけ、蓋をしておこう。 彼のために………。 4.探偵と女医と怪盗の願い 「ああ………、美味しい鍋が食べたい」 「「………は?」」 いつもの午後のティタイムをしながら、突然新一の言葉に快斗も哀も固まった。 テーブルの上には快斗がいれた紅茶が繊細なカップに琥珀色を映し湯気を立てている。快斗の前には皆に取り分けようと、今まさにナイフを入れようとした甘くないくるみ入りショコラケーキ(新一好み)があった。以前作って美味しいと評価を得たので再び焼いた自慢の一品である。 快斗は動揺していたが、それでも無意識に手に取ったナイフを一旦テーブルに置く。哀は飲みかけたカップを下も見ずにソーサーに戻した。 (新一くん………、何でこのクソ暑いのに、鍋なのさ?どして?今までそんなこと言ったことないくせに) (食べ物に何ら執着も欲求もないから、食べたいなんて言うこと事態が珍しいし、望ましいけど………。そこで、どうして鍋なの?テレビで特集でもやっていたのかしら?) 二人とも表面は普通の顔で内心はぐるぐると考えを巡らせた。 「まあ、暑い時に鍋もの食べて汗を流すのはいいことだね」 「そうね、栄養もあるし。貴方にはちょうどいいかもしれないわね」 そして、にこやかに新一に同意する。 「ねえ、何鍋がいいの?」 「あまりこってりしてなくて、出汁が効いてて美味しいやつ。魚介類や貝類なんかいいなあ………」 新一はうっとりと語った。 その瞬間快斗はひきつる。 「………魚介類じゃなきゃ、だめ?」 「駄目って訳じゃないけど?美味しい出汁が取れそうだなあって。貝類も駄目か?快斗」 「………魚じゃなければ、どうにか。貝類なら大丈夫」 「私が魚の擂り身で団子を作ってあげるわよ?美味しいものねえ、あれ」 哀が、うふふと意味深に笑う。 アジでも海老でもどんな団子でも作ってあげるわ、と哀は請け負った。 最近料理は快斗にお任せになりつつある現状で、唯一快斗にできない分野である。哀が面白がっても不思議ではなかった。 「………哀ちゃん」 暗雲を背負って快斗が哀を見つめる。しかし哀は無視だ。 「それで工藤くん、味は何がいいの?鍋っていってもたくさん種類があるわよ?今回は違うけど、すき焼き・しゃぶしゃぶ・おでんだって鍋の内だし。キムチ鍋、北海道鍋、魚好き、湯豆腐、ちゃんこ鍋。ちゃんこ鍋なんて雑多に何でも入れるわ」 「………そうだな。出汁が醤油とか味噌とかじゃない、普通のさっぱり系の出汁がいいんだ。それだったら、どれがいい?」 「だったら、ちゃんこ鍋ね。出汁をベースにたくさん美味しい具を入れましょう」 「じゃあ、それがいい」 「任せて」 哀はにっこりと微笑んだ。ご満悦という感じである。 一方、魚が関わっている限り口を挟めなくなった快斗は心の中で涙を流していた。 最近やっと新一の食生活を管理できるようになったのに………。 そりゃ、魚も栄養があるしDHAは身体にも脳にもいいし、わかってはいるけれど、自分には駄目なのだ。あのぎょろっとした目に睨まれるだけで寒気がする。背筋が凍って思考が停止する。間違ったら心臓さえも止まるかもしれない………。それ以外だった肉だろうと野菜であると卵であるといかようにも美味しく新一好みに料理してみせるのに。 今回、なぜに鍋なのか………。それもさかな。 「今夜作ってあげましょうか?」 「いいのか?」 「いいわよ。食べたい時が一番よ」 哀はにこにこ新一に微笑んだ。それに新一も笑顔を返す。 「………俺、食後のデザートに何か作ろうか?」 ここで負けてはいけないと快斗が思ったのか、定かではないが起死回生を計った。 得意分野で勝負しようという意気込みは誉めてやりたくならないことも、ない。 「鍋は熱々だろうから、冷たいのがいいな」 新一はふと顎に細い指を当てながら思案する。 「冷たいデザート?杏仁豆腐とか?それともムース?アイスクリームは新一には甘いだろうから、シャーベット?」 次々に上げていく新一が好きそうな冷たいデザート。 「杏仁豆腐がいいな………」 「OK。それにしよう。フルーツとかも入れようね〜。じゃあ、お茶は烏龍茶にしよっと」 ご機嫌に戻った快斗は新一のカップにお代わりの紅茶を注ぐ。 立ち上がる香りに目を緩ませながら、ありがとう、と新一は快斗に微笑む。それに快斗はいいんだよ、とこれまた微笑み返す。 和やかで穏やかな雰囲気の午後。 彼らは、こうしてティタイムを過ごす。 たった一つ。 この時間がいつまでも続いたらいいのに、と思う三人の切望。 願って叶うなら、どれだけでも。 何と比べても、どれより大切でなくせない人。 たった一つ。 叶うのなら、どうか傍に。この世界に。その瞳に映して? END |