「End of the fate 〜運命の果て〜 」1




 ガーン、ゴーン、ガーン、ゴーン。


 鈍い鐘の音が鳴り響いた。
 閑静な住宅街が広がる東都の一等地として有名な地域に小中高大学が揃った、レベルも高ければ設備費、授業料も高額と有名な学院があった。
 校舎の外観は年代を感じさせるが、中は先端の設備が揃えられた十分な環境があり、歴史も人気も有り余る学校である。もちろん誰もが行く場所ではない。
 家柄や資金がある財閥、政界、日本が誇る芸術のお家元、文化人などの子供がここには通っている。
 一般の学校とひと味違う顕著な例は、上流階級の子弟が通う学院には迎え専用の駐車場があることだろう。
 なぜなら誘拐など日常的に起こりえる、護衛が必用な者が多かったからだ。
 鐘の音が授業終了を知らせる頃には、毎日駐車場に高級車がずらりと並ぶのが常だった。駐車場のロータリーへ、順々に生徒がやってきて車に乗り込むと去っていく。迎えの車が多いため駐車場も学年毎に分けられている。


 黒塗りの高級車に少年が近寄った。ドアを開けて優雅に後部座席に滑り込むと運転席から少年を確かめるように男が振り向いた。

 「お帰りなさいませ、玲二様」
 「ああ、今日はおじい様の方へやってくれ」
 「畏まりました」
 「これから、週に2、3度はあっちだから」
 「さようでございますか………」

 男は安全運転を心がけながら、ゆるやかに車をスタートさせた。
 少年は車窓からゆるやかに流れていく景色を見ながら、差し込む日差しに美しい蒼い瞳を細めた。


 少年の名前は工藤玲二。資産家である工藤家の次男坊、年は10歳。
 年の離れた……18歳違いである……長男の新一が現在家から離れて暮らしているため、まるで一人っ子のように育っているし、詳しく知らない人間は彼が一人っ子だと誤解していた。
 兄によく似た容姿は誰をも惹き付ける美貌をもっていた。
 絹糸のような漆黒の髪、雪のような白い肌。兄より若干薄い綺麗な蒼い瞳。小さな桜色の唇が笑めば、花がこぼれるようだった。加えて頭脳明晰。若干10歳にして、その頭脳は折り紙付きの素晴らしさだった。知能を計る機会もあったが、測定不能という結果であり研究機関から是非にという要請もあったが断った。それ以来そういう所から目を付けられるのが面倒であるのか、公に記録に残るものは避けるようになった。
 様々な要因から10歳の子供であるが、目下のところ、工藤家の跡取りとして見られている。
 そして、運転している男は玲二の護衛を兼ねている峰山聡司である。玲二の護衛に付く前は兄の新一の護衛に付いていた。新一の護衛を解任されてしばらく研修していたが、次男の玲二が生まれてから彼に付くようになった。
 

 30分程走っただろうか、やがて車は大きな邸宅に到着する。高い塀に囲まれた広大な敷地、立派な正門は通常閉まっていて、門前でインターホン(カメラ付き)で来訪を告げなければならない上、誰でも屋敷に入れる訳でもない。しかし、黒塗りの車が正門に近付くと自動的に門は開いた。
 もちろん事前に訪れることが告げてあるからだ。
 長方形をした敷地の中央に洋館がある。内部の一部分が昔の鹿鳴館を模した形になっているが、それ以外は近代的な洋館である。しかしどんなに広い立派な洋館でも住んでいる主人はたった一人では活気がなく、どこか寂しげだ。
 
 ここは、本山邸である。唯一の主人は財界政界のドンとして有名な本山庄一郎という眼光鋭い老人だ。彼に取り入ろうとする人間は多いが、彼が気に入る人間は殊の外少なかった。表面は隠居していると語っているが、実のところ影の世界では猛然と力を振るっていると言われている。
 そんな彼でも目に入れても痛くないほど可愛がっている少年がいた。

 「おじい様、こんにちは」
 「おお、玲二。よく来たな」

 にっこりと微笑んだ玲二に本山は相好を崩す。

 「お元気そうですね?先日は風邪を召されたと聞きましたけれど、いいのですか?」
 「大丈夫だ。まだまだ、くたばってなどいられんからな」
 「おじい様なら100まで生きますよ」

 玲二は保証する。精神も身体もまだまだ若い者には負けないと、鋭角的な瞳が告げていた。実際、彼の息子であっても本山の裏の地位を後を次いでいない。任せられない、というのが本音である。易々と告げる地位ではないのだ。権力が、金が欲しいだけでは勤まらない。カリスマも統率する頭脳も行動力も見極める能力も全てが必用なその地位。
 本山はその地位を託すの人間を一人しか見つけられなかった。
 それは、自分とは桁外れに幼い人間。若干10歳の目の前の少年である。
 もちろんそれは外見の話であり、中身はコンピュータ並の優秀な頭脳と聡明な思考を併せ持ったこれ以上ない人材であった。
 本山が玲二を可愛がる理由はそれだけではない。素晴らしい人材の上、少年は彼の「運命」を兄に持つ、兄によく似た美貌を誇る魅力的な子供だったのだ。
 できるなら幸せになって欲しいと思っている。それが嘘偽りない本山の本音だ。

 「100までか………。そこまで生きたら、お前の子供の顔も見られるかもしれんな?」

 本山は玲二の息子や娘なら美人だろうなあ、と想像して顔をほころばせる。

 「………そうですね。見られるんじゃないですか?まあ、おじい様のためにも早めに結婚しておきますか」

 玲二はしょうがないなという表情を浮かべ苦笑する。

 

 これから長い年月をかけて玲二は本山の教育を受けることになる。
 時代の影のトップを受け継ぐ教育はいくら玲二が優秀でも、簡単なものではない。
 教育を受けてもそれを受け継いで行く実践的な過程が必要不可欠なのだ。
 それは、これからおよそ7年ほどかけられるのだが、正確な月日はこの時まだ誰も知らなかった。





 控え室で待っている聡司の前に玲二が現れた。

 「もう、よろしいのですか?」
 「ああ。今日はもう済んだ………」
 「そうですか。それでは、帰宅されますね?」

 玲二は、ああと頷く。そして、自分より随分高い位置にある聡司の瞳を見つめた。大人と子供の差は歴然とあるが、玲二は聡司のただ一人仕える主人だった。だから、何かいいたそうな玲二に腰を落とし目の前に膝付いた。

 「どうされました?玲二様………」
 「もうすぐだな?」

 伺うような聡司に楽しそうに目を細めて玲二は微笑する。

 「何がですか?玲二様」
 「俺の誕生日」

 玲二の誕生日はおよそ3週間後だ。
 間近に迫った玲二の誕生日は毎年家族で祝うことになっている。館内で両親と執事と使用人と玲二を愛する人々が「生まれてきて、おめでとう」と言って祝う行事だ。

 「そうですね。皆さん楽しみにされていますよ。それが?」
 「兄さんが来る………」

 遠い海外にいる兄。滅多に日本に帰って来ない。
 けれど、玲二の誕生日には欠かさず帰国して逢いに来る。それは玲二が生まれてから毎年続けられている。

 「………そうですね」

 聡司は静かに頷く。

 「嬉しくないのか?聡司」

 玲二は柳眉を上げてからかい気味に聞き返す。
 嬉しくないはずはないと知っている。それどころか、聡司が玲二の兄、新一の姿を見て元気なことを確認することができる、玲二の誕生日を心待ちにしているとわかり過ぎる程知っていた。

 「滅多にお目にかかることもございませんから、お懐かしいですよ」
 「………素直じゃないな、聡司」

 玲二は苦笑する。
 聡司はなかなか感情を表に出さない。それは訓練されたものであるし鉄壁の理性の賜物でもある。どれほど、焦がれようとも、彼は本心を明かさないだろう。
 けれど、そんな表面だけのものを玲二は必用としていなかった。
 彼が欲しいものは本心だけだ。

 「俺に嘘なんていらないぞ。必要ない」

 きっぱりと断言する。

 「玲二様………」
 「俺は別に2番目でも構わないと言っているんだ。そうだろう?聡司」
 「………」

 聡司は瞳に一瞬動揺を覗かせるが、すぐにそれを制して無言を守る。

 「最初から、心得ている。聡司は俺を主人として護衛してくれている。それを疑ったことはない。命をかけて守ってくれるだろう?」
 「もちろんです」

 聡司は真摯に言い切る。

 「だから、構わないんだ。どんなに俺に尽くしてもそれは聡司の仕事だからだ。そんなことは当たり前だ。誇りをもって仕事をしていることを知っている。だから、聡司を否定している訳じゃない」
 「はい………」
 「でも、心は別ものだ。そうじゃないのか?」
 「………」
 「心は一人に捧げている。違うか?」
 「玲二様。私は………」

 玲二はにやりと笑う。子供らしくないどこか達観したような大人びた表情を浮かべる。

 「俺も同じだからいいんだよ。大切な者が一緒、同一人物なんだから。聡司と同じで願うことは一つだ」

 玲二の言葉を聡司は聞き漏らすことなく理解する。
 本心を告げてくる玲二に、聡司も本心で対さねばならなかった。

 「あの方が、お幸せでいて下されば何も望みません」

 決して誰にも言うつもりのなかった心からの言葉。聡司はそう、一言でいい表す。
 一番端的な言葉であるかもしれない。
 幸せを望むだけ。自分が傍にいることも望まない。自分が幸せを与えることなど望むことでもない。ただ、彼の人の幸せを祈っている………。

 「うん。何も知らなくてもいいから。笑って元気でいてくれればいい。そうだろう?」

 玲二は優しい笑顔で首を傾げながら聡司に聞く。

 「はい」
 「それでも、お前の方が辛いだろうけど?『護衛』としての『聡司』の場所はないから」
 「わかっております」

 もう、その苦い思いも大分消化して来たと聡司は思う。
 ずっと護衛をしていくと思っていた。けれど、自分の役目は終わりを告げた。
 もう、彼が必用とする『護衛』としての自分の位置はないけれど、それでも構わない。

 「俺を守ることは間接的に兄さんを守ることになる。だから、それくらいで手を打っておけ」

 玲二は共犯者のような微笑みで聡司に笑いかける。
 その小悪魔的な笑みを玲二は目を見開いて呆然と見つめた。そして、何かを振り切るように一度目を伏せると次は真っ直ぐに玲二を見つめた。

 「………手を打つなど、勿体ない言葉です。私の主人はこれからも玲二様たった一人ですから。お仕えさせて頂きますよ」

 そういって聡司は玲二に頭を垂れた。
 彼の主人は一人だけ。心は別のところにあったとしても。






 パソコンの画面から照らされる人工的な光を浴びつつ、画面に映し出される一覧をスクロールしながらチェックする。長時間細かい文字を見つめていたせいか、目が霞む。
 玲二はふう、と吐息を付いて椅子の背もたれにもたれかかった。そして、こめかみを押さえて、霞む目を閉じると瞼の上から軽く押す。
 深夜、決して小学生の子供が起きている時刻ではない。カーテンに遮られているが外は暗闇と静寂が広がっている。
 
 ふと、部屋の室温が僅かに下がり、人の気配が漂う。
 玲二の前に突如として、魔女が現れる。ぼんやりと影を作ったと思うとその存在ははっきりした形を作る。

 「玲二………」
 「紅子………。どうした?」

 魔女は玲二のことを「玲二」と名前で呼ぶ。
 玲二は魔女を彼女の名前で呼ぶ。けれど、彼女の名前は例え長年の付き合いである本山であろうとも知らない。
 魔女は自分からその名を玲二に与えた。
 玲二が魔女に初めて出逢ったのは、彼が5歳くらいの頃である。兄である新一の存在に子供心に、自分の運命と命運を知り己の価値を悟った時、魔女は彼の前に姿を現した。その後も度々玲二の前に魔女は姿を見せることになるのだが、それは事の外珍しかった。父である優作など片手で数えられる程しか逢ったことがないのだ。

 玲二と魔女の関係が始まったきっかけは、玲二の一言だった。

 黒いケープをまとい、髑髏の首飾りと赤い宝石を身につけた美しい、そして畏怖する姿の魔女を初めて見た子供の玲二は素直に聞いた。

 「貴方の名前は何というの?」「僕は玲二。貴方は?」と。

  その問いに魔女は目を細める。

 「私を呼ぶ者などいないわ。だって私は魔女ですもの」
 「なぜ?だって名前があるんでしょう?僕は貴方を何と呼べばいいの?」
 「名前を呼んでどうするの?」
 「………?名前は呼ぶためにあるんでしょう?」

 玲二は可愛らしく首を傾げ不思議そうに魔女を見上げる。魔女は目を見開いて珍しげに少年を見つめた。

 「魔女の名前を呼ぶのは怖くないの?呪われるわよ………?」
 「呪うために使う名前なんてないよ。僕は玲二って呼ばれると嬉しいもの。貴方は嬉しくないの?僕はちゃんと相手の名前を呼びたいと思う」

 (子供だからなのか、この天真爛漫さは何だろう?)

 魔女は内心瞠目する。このような言葉で名前を聞いてきた者なの過去にいなかった。名前を呼ぶことが怖いのかそんな命知らずなことを実行に移した人間はいない。ただ、魔女の力を手に入れようと、名前を探っていた者なら存在したが………。

 「私が怖くないの?」

 (どんな者であっても自分を畏怖し敬うというのに………)
 
 魔女は少年に聞く。
 この少年の瞳に自分はどんな風に映っているのだろうか?不思議に思う。

 「………怖くなんてないよ。一番怖いのは自分だ………」

 その瞬間、魔女はぞくりと戦慄した。
 この少年は………、決して見かけの人間ではない。
 こんなにも光に溢れているというのに。光の魔人と似通っているというのに、闇がある。
 光の魔人は魔女には眩しすぎて近づけなかった。その証拠に彼の前に姿を現したことなど一度もない。
 けれど、目の前の少年は………。

 「………紅子。私は『紅子』よ。『white rose』」

 魔女は、紅子という真実の名前を告げた。そして、少年の存在であり魂である名前を呼ぶ。

 「紅子?綺麗な名前だね。あのね、僕も名前で呼んで欲しいな。玲二って立派な名前があるんだから。ね?」
 「そうね。それもいいかもね。玲二………」

 にっこりと微笑む玲二に紅子も穏やかに笑み返した。
 
 
 そんな出会いをして今に至る。
 
 「玲二の気が弱まっているような気がしたのよ………」

 普段は表情の乏しい紅子だが、玲二にはそれでも豊かな顔を見せる。今でさえ心配げに見つめている。

 「………まあな。ちょっと根を詰めてるかも」

 玲二は苦笑する。紅子にはばればれである。嘘など付ける訳がなかった。

 「もうすぐ、11度目の誕生日が来るわね?」
 「ああ。まだたったの11年だ。子供の立場は辛いな………身動きが取りにくい」
 「そう、急ぐものではないわ」
 「そうか?遅すぎだ………」
 「………今年も光の魔人がやってくるでしょう?ゆっくりでいいのではなくて?」
 「今年も来るよ、連絡があったから。………ゆっくり?どうゆっくりしろというんだ?俺はまだこんなにも無力なのに」
 「玲二」
 「………あいつは可哀想だろ?俺の誕生日は年に一度だけ兄さんに逢える機会だけれど、心は辛いままだ。俺は兄さんが幸せならどこにいても、何をしていても、誰を好きでも構わないけれど、聡司はそうもいかない。もう平気だって顔してるけれど、な。だったら、俺は俺のできる最前を尽くさなければならない」
 「………お優しいことね」
 「生涯唯一の人なんだよ、聡司には………」
 「それでも、よく貴方に付いてるわよね?」
 「主人として認めてくれてるからな。命賭けて守ってくれると思う。でも、心は別モノだろう?心だけは偽れない。どんなに側にいたくても、いられないんじゃなあ………」

 魔女は黙って玲二の言葉を聞く。

 「俺は2番目でいいからって言ったら、表面は理解したふりしていたけど、自分を追いつめてる事は変わらないし」

 玲二は肩をすくめる。

 「中等部になったら、1年くらい語学留学でもするか?そうすれば、側にいられるもんな」
 「ミネヤマのために?」
 「それもあるけど………。たまに側にいられればストレスも堪らないだろう?けど、本当は俺のためだ。兄さんの側にいてみて、どれくらい近くにいれば効果があるか計ってみる」
 「『white rose』としての効果を?」

 魔女が首を傾げると長い髪が頬にかかる。白い肌に映える黒髪は魔女を美しく神秘的に彩った。

 「そう。いい手だろう?」
 「貴方がここに健やかに存在している事実だけでも十分だと思うけれど?」
 「でも、何かあった場合は側にいた方がいいんだろう?例えば命に関わるような………」
 「………ええ。宝石としての威力があるわ。お互いが宝石だから」
 「アメリカに行くことは反対か?」

 返事の思わしくない紅子に玲二は問う。

 「そうではないわ」
 「………アメリカでは逢いにこれない?」
 「これでも魔女よ。どこへでも行けるわ。けれど、さすがに光の魔人の側には寄れないわね………」
 「大丈夫だ。俺にもやることがある。定期的に日本に帰ってくる。なんだ、寂しいのか?」

 玲二はからかうように瞳を細める。

 「馬鹿なこと言わないで」
 「紅子も女性なんだよな。どうせなら、将来妻に来るか?」
 「………私に向かってそんな事をいう人間初めて見たわ」

 呆れ顔の紅子に玲二は真面目に返す。

 「世の中、見る目ない奴が多いんだな」
 「………時々、貴方がまだ10歳だって事を忘れそうになるわ」

 紅子は吐息を付きながら、肩をすくめた。

 「10歳だよ。紛れもなく。ただ、俺の中にはそれ以上のものがあるだけだ。どうなんだろう?覚醒とでも言えばいいのかな?生まれてすぐに兄さんに逢ったから?兄さんの弟として生まれてきたからか?どう思う、紅子?」
 「………そうね。『white rose』の存在が、光の魔人のすぐ近くに生まれてきたことは関係するんでしょうね。守護者でさえ、出会いは後々なのだし」
 「俺は好都合だけどな?」

 口角を上げながら、にやりと玲二は笑う。しかしそんな玲二に紅子は目を細める。

 「玲二。今から無理をしては駄目よ」
 「心配してくれんんだ?紅子」
 「これでも貴方よりずっとずっと長生きしているのよ。年寄りの言うことは聞きなさい」

 諭すように、言い聞かす。けれど玲二はふと疑問が口を付いた。

 「紅子っていくつ?」
 「女性に年齢を聞いてはいけないのよ?」
 「別にいいだろ。俺には関係ないんだから。紅子は年齢差があったら気にするのか?」
 「………年齢差って。さっきの本気だったの?」

 驚きに目を見開いて、紅子は問う。

 「本気だよ。その気になったらいつでも言ってくれ」

 はっきり、きっぱり。
 男に二言はないとばかり胸を叩く。

 「………」

 その玲二の至極真面目な態度と口調に紅子は肩から力が抜ける。そして、「貴方には負けたわ」と笑う。瞳を楽しげに瞬かせて玲二を見つめると、一歩後ろに下がった。

 「玲二………。またね」
 「ああ。またな」

 魔女はふわりと消えた。





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