彼は街を歩いている。 一人で、特別何を見るわけでも、目的があるでもなく。 ただ真っ直ぐに、歩いている。 そこに道があり、彼が行きたい方向に続いているからであるかの如く。 休日警部に呼ばれて現場に赴き、早々に事件を解決させた。送るよという好意をなんとなく歩きたいのでと断り、彼は休みのせいかいつもより多い人混みの中をぼんやりと歩いていた。 空は先ほどまでは晴れ渡っていたのに今は灰色の雲が出てきている。僅かな隙間から陽光が漏れている。明日は雨かもしれないな………。そんなどうでもいい事を考えながら彼は交差点まで来た。信号は赤で目の前を車が排気ガスをまき散らしながら走っていく。 それを目を細めながら見つめて、目を伏せる。 彼が立っているだけでその場は輝いていた。 彼が例え誰であるのか知らなくても、その身に纏う空気と美貌が否が応でも人目を惹き付けた。一度見てしまえば離すことなどできない。 白い顔にある蒼い瞳が、差し込む光に輝いていて、この世のものではないようだ。 その瞳が微笑めば、きっと我を忘れて見つめ続けるだろう。 人々の賞賛と羨望と欲のこもった視線に晒されていても、彼は全くそんなものなど知らぬげにただ、佇んでいる。 ふと、彼が顔を上げて前を向いた。 信号が変わったのだ。 彼はふわりと歩き出した。 スクランブル交差点は一斉に歩き出した人で、混雑していた。一定方向でなく、左右にも行き交う人々。 ふと、何かに心ひかれたような気がして彼は視線を向けた。 そこには、誰がいるともなくて。知っている顔もない。 歩いていく人の中に同じような高校生の顔。 その隣は会社員らしき人。その隣は中学生くらい。そして、親子にカップル………。 なぜ、気になったのか、もうわからない。 なんとなく、そうなんとなくだ。 高校生くらいの男と目があったような………。向こうも自分を見たような………。 それは自分が見たからだろうか? 思わず目があって困ることが、こういう時はある。 彼は流れていく人々を見送って、一つ吐息を付いた。 そして、もう興味を失ったように、彼は視線を戻して前を向くとそのまま歩いていった。 後ろには、雑踏があるだけだ。 (おわり) といことで、「Voice」のもう一つのエンディングです。 映画だったら、絶対こう!と密やかに思っていました。テーマ曲とかが流れていてそれ以外に音はなくて。交差点の向こうとこっちから二人が歩いてくる。ふと何かに惹かれるように顔を上げて視線があう。でも、当然ながら全くわからなくて。そのまま視線を外して、背を向けて去っていく………。そして、エンドの文字!これぞ、映画だ〜!と煩悩。 小説だと、今一盛り上がりに欠ける上、難しいので、あえなく却下しました。 そう、「映画みたいな恋したい!」これが隠れたテーマでした。←嘘です。ただ、「目指せ、映画みたいな展開!」だったんです。 |