「冷たいキス」





 ふと、何気ない時。
 したいなあ、って思う時。
 おはようの、おやすみの。
 ありがとう、とごめんねの。
 そんな日常の挨拶や気持を伝える時にするキス。


 ふわりと羽根みたいな軽いキスもあれば、深い気持を伝えたくて吐息が漏れるくらいの激しいキスもある。
 でも、いつでもそれは二人の大切な触れあい。
 欠かせない日常。





「あ………冷たい」
 唇が離れて新一はふと呟いた。
「冷たかった?ごめん」
 快斗は唇に手を当てて、謝る。
 夏は冷たい飲み物を口にする機会が多くて、当然ながら先ほどアイスティを飲んだばかりだった。ちょうど新一がソファで本を読んでいて、キッチンで冷たいものでも入れようと用意してリビングに戻ってきた。当然新一の隣に座って、一心地、とアイスティを飲んだ後。
 目があった瞬間。
 自然に顔を寄せて、唇を重ねる。
 そんな些細なきっかけで、キスをする。
「ううん、気持ちいい」
 新一はそういって首をふると、再びキスを強請る。
 快斗は言うがまま、もう一度唇を重ねた。

(……気持ちいい。唇の冷たい感触が暑い夏にはちょうどいい……)

 新一はうっとりと目を伏せてキスに酔う。しっとりと重ねた唇を離すと、目を開いて新一は快斗ににっこりと笑う。
「どうしたの?」
「冷たいキスって気持ちいい」
「そう?」
 新一はこくりと頷く。
「暑いから、キスが冷たくて、いい感じ。2倍、美味しい、っていうのかな?」
「美味しい……?」
「そう。冷たいお菓子みたい。甘いの苦手な俺でも、堪能できる」
 くすくす笑う新一に快斗が目を丸くする。次いで、にっこりと楽しそうに微笑んだ。
「だったら、冷たくて甘〜いキスたくさんあげようか?」
「うん。でも、ずっとキスしてたら、ぬるくなったりするのかな?」
 新一は心底謎だと顔に書いて悩む。
「さあ?試してみる?それに、熱いキスは嫌い?」
「……それも、好き」
 艶やかに微笑む新一に快斗が誘われるように手を伸ばす。頬に手を添えて、うっとりと目を閉じる新一に薄く笑いながら唇を落とす。
 


 これも、甘い日常。







                                                      END



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