「ある日の金蝉さま 2.5」1

「せっかくだから、着替えないか?金蝉」
観世音はにやりと笑って言う。
「誰がだって?」
金蝉は嫌そうに眉を寄せる。
「酒は美人の酌で飲みたいじゃねえか。格別旨い!」
「嫌だ」
ふんと横を向く。
金蝉の執務室にいるのはこの部屋の主である金蝉と悟空。顔を出した天蓬と捲簾に観世音。お茶の支度と給仕をしている女官の連翹であった。
観世音はこの面子を夕餉に誘ったのだ。
嫌がる金蝉を無視し勝手に決めてしまった。
そこへ、いつもながらの気まぐれで観世音は金蝉にお召し替えを「お願い」(強制ともいう)したのだ。
当然ながら金蝉がうんと言う訳がない。
「何だよ、着替えって?」
さっぱりわからないのは捲簾だけだ。
そう、捲簾は未だ金蝉のお着替え、着飾った姿を見たことがなかったのだ。
「ああ・・・そうか、お前は知らないんだよな」
楽しそうに観世音は言う。
「捲簾だって、どうせなら極上美人の酌で飲みたいだろう?なあ!」
「極上美人?それと着替えがどう繋がるんだ?」
「お前、金蝉は美人だと思わないか?」
「思う」
即答である。
隣にいる天蓬はどことなく憮然としている。
言われた金蝉はうんざり、という顔だ。
「そうだろう。それが綺麗な着物を着て、着飾って、楚々と酌なんてしてくれたらいいと思わないか?男だったら思うだろう?」
金蝉が楚々と酌をするかどうかは思いっきり疑問だが、着飾ったらさぞかし極上の麗人が出来上がることだろう。
想像に難くない。
捲簾は納得した。
けれど、隣にいる親友が怖いと思う捲簾だった。
ここで、賛成していいものだろうか?
笑顔ではいるが、天蓬がいる右側から冷気を感じる捲簾である。
観世音はその反応を面白がっているようだ。
本気で言っているのか、からかっているだけなのか、さっぱり区別はつかない。
「おい、勝手に話を進めるな。俺はやらないからな!!!」
金蝉は言い放つ。
黙っていては、話は進むばかりだ。
金蝉は断固として、否定してみせるつもりである。
「大体、何で俺がそんなことをしないとならない?まして、捲簾まで見せるなんて!!!」
これ以上恥をさらしてなるものか、と思う。
「捲簾に見せるのが嫌なのか?」
観世音が聞く。
「お前らは、もう散々見てるだろう」
そう。観世音は言うに及ばず、天蓬だってかなり昔から見ている。悟空だって最近宴に招待された時にしっかり見たのだ。
「それでは、捲簾がいなかったら着替えてくれるんですか?」
さっきから黙っていた天蓬が聞いた。
「は?そうゆう問題じゃんねえ!」
金蝉は天蓬をじろりと見て怒る。
一方、「いなければ」と言われた捲簾は我が親友の甲斐のなさを噛みしめてした・・・。恋愛が絡めば、こうも変わるものなのか、と。
それ以外では読めない部分はあっても大変頼りになる副官、元帥であるというのに!
「僕も、見たくなってしまいましたね。ほら、先日作らせた桜色の薄物があったでしょう?あれなんていいと思うんですけど」
天蓬はあくまでにっこりと微笑みながら言う。
けれど、目が据わっていると感じるのは決して気のせいではないだろう。
「ああ。あれか、いいなあ。それにしろ、金蝉!」
観世音は完璧に状況を楽しんでいる。
「だから、嫌だって言ってるだろう!」
「金蝉、俺見たい!!!」
黙って聞いていた悟空が口を挟む。
そして、瞳をきらきらさせて言い募る。
「絶対、綺麗だって!」
子供は正直に思いを告げる。
「・・・悟空」
金蝉も困る。
所詮親は子供にせがまれると、嫌と言えないのだから。
「金蝉、いいじゃないですか。見せて下さいよ。僕が選んだ生地で仕立てた着物♪」
僕、に力を込めて天蓬は言った。
「・・・」
「・・・」
「よし、決まりだな。連翹、支度だ!!!」
観世音は言い渡した。
「やった〜」
悟空は単純に喜んでいる。

元帥の嫉妬とはどのような物なのか?
捲簾は思う。やはり、関わり合いたくないかもしれない、と。

金蝉に抵抗できる術は残っていなかった。


「後書き」

「天金同盟」入会記念の作品です。
続きは?と言われたので、続きを書きました。ということで、投稿の作品となりました。

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