「せっかくだから、着替えないか?金蝉」 観世音はにやりと笑って言う。 「誰がだって?」 金蝉は嫌そうに眉を寄せる。 「酒は美人の酌で飲みたいじゃねえか。格別旨い!」 「嫌だ」 ふんと横を向く。 金蝉の執務室にいるのはこの部屋の主である金蝉と悟空。顔を出した天蓬と捲簾に観世音。お茶の支度と給仕をしている女官の連翹であった。 観世音はこの面子を夕餉に誘ったのだ。 嫌がる金蝉を無視し勝手に決めてしまった。 そこへ、いつもながらの気まぐれで観世音は金蝉にお召し替えを「お願い」(強制ともいう)したのだ。 当然ながら金蝉がうんと言う訳がない。 「何だよ、着替えって?」 さっぱりわからないのは捲簾だけだ。 そう、捲簾は未だ金蝉のお着替え、着飾った姿を見たことがなかったのだ。 「ああ・・・そうか、お前は知らないんだよな」 楽しそうに観世音は言う。 「捲簾だって、どうせなら極上美人の酌で飲みたいだろう?なあ!」 「極上美人?それと着替えがどう繋がるんだ?」 「お前、金蝉は美人だと思わないか?」 「思う」 即答である。 隣にいる天蓬はどことなく憮然としている。 言われた金蝉はうんざり、という顔だ。 「そうだろう。それが綺麗な着物を着て、着飾って、楚々と酌なんてしてくれたらいいと思わないか?男だったら思うだろう?」 金蝉が楚々と酌をするかどうかは思いっきり疑問だが、着飾ったらさぞかし極上の麗人が出来上がることだろう。 想像に難くない。 捲簾は納得した。 けれど、隣にいる親友が怖いと思う捲簾だった。 ここで、賛成していいものだろうか? 笑顔ではいるが、天蓬がいる右側から冷気を感じる捲簾である。 観世音はその反応を面白がっているようだ。 本気で言っているのか、からかっているだけなのか、さっぱり区別はつかない。 「おい、勝手に話を進めるな。俺はやらないからな!!!」 金蝉は言い放つ。 黙っていては、話は進むばかりだ。 金蝉は断固として、否定してみせるつもりである。 「大体、何で俺がそんなことをしないとならない?まして、捲簾まで見せるなんて!!!」 これ以上恥をさらしてなるものか、と思う。 「捲簾に見せるのが嫌なのか?」 観世音が聞く。 「お前らは、もう散々見てるだろう」 そう。観世音は言うに及ばず、天蓬だってかなり昔から見ている。悟空だって最近宴に招待された時にしっかり見たのだ。 「それでは、捲簾がいなかったら着替えてくれるんですか?」 さっきから黙っていた天蓬が聞いた。 「は?そうゆう問題じゃんねえ!」 金蝉は天蓬をじろりと見て怒る。 一方、「いなければ」と言われた捲簾は我が親友の甲斐のなさを噛みしめてした・・・。恋愛が絡めば、こうも変わるものなのか、と。 それ以外では読めない部分はあっても大変頼りになる副官、元帥であるというのに! 「僕も、見たくなってしまいましたね。ほら、先日作らせた桜色の薄物があったでしょう?あれなんていいと思うんですけど」 天蓬はあくまでにっこりと微笑みながら言う。 けれど、目が据わっていると感じるのは決して気のせいではないだろう。 「ああ。あれか、いいなあ。それにしろ、金蝉!」 観世音は完璧に状況を楽しんでいる。 「だから、嫌だって言ってるだろう!」 「金蝉、俺見たい!!!」 黙って聞いていた悟空が口を挟む。 そして、瞳をきらきらさせて言い募る。 「絶対、綺麗だって!」 子供は正直に思いを告げる。 「・・・悟空」 金蝉も困る。 所詮親は子供にせがまれると、嫌と言えないのだから。 「金蝉、いいじゃないですか。見せて下さいよ。僕が選んだ生地で仕立てた着物♪」 僕、に力を込めて天蓬は言った。 「・・・」 「・・・」 「よし、決まりだな。連翹、支度だ!!!」 観世音は言い渡した。 「やった〜」 悟空は単純に喜んでいる。 元帥の嫉妬とはどのような物なのか? 捲簾は思う。やはり、関わり合いたくないかもしれない、と。 金蝉に抵抗できる術は残っていなかった。 「後書き」 「天金同盟」入会記念の作品です。 続きは?と言われたので、続きを書きました。ということで、投稿の作品となりました。 |