Grand Father’s Day!


 ちょっとお久しぶりのハーレクインシリーズです。
 今回は短編。4回分です。
 母の日よりずっと地味ですが、せっかくの父の日なので、書いてみました。
 みなさまは父の日に何か贈りましたか?
 そう言いながら私は贈っていませんが・・・。
 母の日はしっかりカーネーション贈ったのに!紫色の変わったカーネーションでした。
 品名は「ミセス・パープル」
 う〜ん、素敵。
 名前に惹かれたのかもしれません。

(1)

「こんにちは!小島さん」
「お久しぶりです、有栖様」

 二人は微笑みながら挨拶をする。
 久しぶりに十条邸に有栖はやってきた。
 統一に逢いに来たくても、有栖も作家という仕事がある限り締め切りがあると外出するのもままならなくなる。
 火村とでさえ逢えない期間が1ヶ月ほどあるのだから、しょうがなかった。
 6月の第3日曜日は「父の日」である。
 有栖にとって統一は祖父にあたるが、「敬老の日」では嫌がりそうだ。それに、きっと「父の日」を祝うことを近年していないはずだ。近年どころか、父親が家を出てから家族はいないはずだから、何十年も・・・。
 だから有栖は「父の日」を一緒に過ごしたかった。
 締め切りもがんばって仕上げて晴れて自由の身だ。
 今日訪れる約束をした時に「是非、火村くんも」と言われたので、誘ったらどうしても外せない用事があるらしく遅れてやってくることになっていた。

「統一様が今か、今かとお待ちですよ」
 有栖は小島の言葉にくすりと笑う。
「じいちゃん、元気?」
「はい。最近は生活に張り合いがあるようで、体調もよろしいですよ。有栖様に逢えるとなると、とたんに元気ですし!」
 小島は統一の部屋まで一緒に歩く。
 そして、どうぞとドアを開けた。
「じいちゃん、こんにちは!」
 有栖の声にベットで起きあがっていた統一は振り向く。
「有栖!」
 そして、嬉しそうに相好を崩した。
 小島はその様子を見ると、「お茶を入れて参ります」と言ってドアを閉めた。
 有栖は小島に「お願いします」と返し、統一の傍に寄っていった。

「元気やった?じいちゃん」
「ああ。でも有栖の顔が見れないと元気がなくなる。毎日でも見たいのう」
「じいちゃん、そればっかり!」
 有栖はしょうがないと、苦笑する。
 実はこれは口癖になっていた。
 逢う度に統一は「一緒に暮らしたい」「顔が見たい」と繰り返す。
 最初は返事に困っていた有栖も、統一がせめて言いたいのだ、ということがわかったので最近は軽く返せるようになった。統一は無理をしたいわけではなくて、有栖に逢えて嬉しいという意志表示なのだ。

(2)

「じいちゃん、今日何の日か知ってる?」
「今日・・・?何かあったか?6月は祝日はないしなあ」
 統一ははて?と首をかしげながら、考える。しかし一向に思い浮かばない。
 その様子に有栖は、やっぱりなあと思った。そして、
「父の日なんやで!今日は」
 と宣言するように、告げる。
「父の日?」
「そうや!」
 統一はそれは予想外だな、というちょっと間抜けな顔をしていた。
 有栖は瞳を楽しそうに細めながら言う。
「はい。じいちゃんへ」
 綺麗にラッピングされた包みを統一に渡す。
 統一は更に驚き、それでも、
「ありがとう」と言いながら、包みを受け取った。
「開けてもいいか?有栖」
「うん」

 統一は有栖が楽しそうに見守る中、リボンをほどき、包装紙をはがす。
 中からは、フォトフレームが現れた。
 そこには、すでに写真が収まっていた・・・。
 有栖の父親、始と母親と有栖が写った写真。
 統一は大きく瞳を見開き、驚いた顔で有栖とフォトフレームを交互に見比べる。
 有栖はにっこりと微笑みながら、
「じいちゃんの家族や!」
 と言った。
「家族か・・・」
 統一の小さなつぶやき。
「そうや。だから、いつも一緒や。今度はじいちゃんも一緒に撮ろうな。そしたら、4人家族の写真になる」
 統一は「4人家族」と口の中で言いながら、笑っている写真を見つめた。
 そして、ぽろり、と涙がフレームに落ちた。
 統一は泣き笑いで有栖を見ると、
「有栖はワシを泣かせてばかりだ・・・」
 と言う。

「じいちゃん・・・」
 有栖は統一の頬に指を寄せて、涙をふき取る。
 二人は優しげに微笑みあった。
 「家族」なんだ、という有栖の気持ちを統一は嬉しくて、嬉しくてどう表現していいかわからなかった。だから、目を見て自分がどれだけ喜んでいるか、わかってもらえたら、と思ったのだ。もちろん、口べたな統一のことを理解している有栖は統一の瞳から、涙から確かに喜びの声を聞いた。
「お茶をお持ちしました!」

 そこへ、小島が入って来た。
 二人はえへへと笑い合い、「お茶にしようか?」と言い合った。
 今日は日本茶。
 お茶請けは有栖の持ってきた「水まんじゅう」である。
 美味しいと評判の夏のお菓子。
 つるるんとした、感触と小豆の甘さが絶妙で統一に食べさせたかったのだ。
 見た目も透明で小豆が透けて見える。
「美味しい」
 そう言って、家族でお茶をすることができる幸せをかみしめる二人だった。

(3)

 火村が十条邸に訪れたのは夕方になったからだった。
「お久しぶりです。十条さん」
「おお、待ってたよ、未来の婿よ!」
 冗談のような本気の言葉を吐きながら、統一は火村を迎えた。
 まさか、本気とは思っていない火村は婿という言葉を軽く流していた。
「火村くんも来たたことだから、夕食にしよう」

 そう言って統一には珍しく食堂で一緒に並んでご飯だ。
 通常は身体のこともあって、自分の部屋で取ることがほとんどなのだ。
 今日のメニューは小島の腕が存分にふるわれている。
 ポタージュスープ、魚介類のサラダ、温野菜添えのビーフステーキ、白身魚とホタテののグラタン。デザートはフルーツタルトに紅茶とコーヒー。
 統一は以前から火村に聞いてみたかった、フィールドワークについて質問していた。
「最近起こった事件を聞かせてくれんか?」
「そうですね・・・」

 火村はコンパクトに事件のあらましを語った。
 それは有栖も助手として一緒に付いていった事件だった。
 最近は少年犯罪が急増している。
ま さに、社会情勢を反映しているかのような、まだ少年と呼ばれる年齢の子供の犯行だった。その時もすっぱりと切るように真相を告げた火村・・・。

 有栖はその時の火村の顔を思い出す。
 毎回、毎回事件に相対する火村。
 厳しい姿勢で、鋭い目で、犯罪を見つめる。
 統一に面白く聞かせられるものでは本来ないのだ。
 有栖はそんなことを考えながら火村の声を聞く。

「火村くん泊まっていけるんじゃろ?」
 唐突に、統一は言った。
 有栖がぼんやりしている間に、話は終わったらしい・・・。
「はい。大丈夫ですよ」
 火村も穏やかに頷いている。
「火村くんの部屋を用意してもいいが、有栖と一緒の方がいいだろう?」
「もちろんです」
「じいちゃん!何言うんや!火村も!!!」
 二人の言葉に有栖は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「アリスは俺と一緒が嫌なのか?」
「火村!!」
 じろりと睨むが効果はなかった。
「有栖もそんなに照れなくてもいいじゃろう?」
 笑いながら言う統一に、有栖はめまいを覚えた。
 いくら、恋人だとばれていると言っても、こんなおおっぴらに言われたくない。
 切実に有栖は思った。

(4)

「アリス?何ふくれてる?」
 火村は有栖を後ろから抱きしめた。
 先ほどから部屋に入ってからも機嫌の悪い有栖である。
 どうも、統一の前で、堂々と恋人らしく振る舞ったのが気に入らないらしい。
 全く可愛いねえ、と思いながら火村は有栖の腰に右腕を回し引き寄せ、左手で俯く有栖の顎をすくう。
 そして、耳元に甘いバリトンでささやく。

「アリス、どれだけぶりだと思ってる?」
「1ヶ月・・・」
 有栖はぽつりと、返す。
「そう、1ヶ月だ。俺はずっとアリスに触れたかった・・・。アリスは違うのか?」
「・・・俺も逢いたかった。でも・・・」
「でも、何だ?」
「何もこの屋敷でなくても、いいやろ?じいちゃんが同じ家にいるのに!」
「今更だろう?うん?俺たちが恋人同士だって、公認なんだから」
「公認でも!」

 有栖は火村の腕を外して、振り向く。
 いつまで意地を張るのか?と火村は思う。
 けれど、ムキになって言い募る有栖も可愛いと思うので、ついついからかいたくなる。
「前回はこの部屋でも「抱いて」って誘ってくれたのにな・・・」
 有栖は真っ赤になって、火村の口を両手で塞いだ。
「何てこと言うんや!あほ!」
 ただでさえ白い肌がピンクに染まる。
 火村は有栖の様子を堪能するように、見つめる。
 そして、にやりと笑うと、己の口に当てられた有栖の細い手首をつかむと、これまた、細くて形のいい指を口に含んだ。
 そして、舌でなぞるように、舐めた。
 有栖は一瞬瞳を見開くと、指を舐められる感触にびくりとふるえた。
「何するんや〜!!!」
 有栖は火村の口から指を奪い返し、自分の胸の辺りでぎゅっと結んだ。
「信じられへん・・・火村のあほっ」
 瞳を潤ませながら睨んでも少しも効果はなかった。
 いや、火村を煽る効果は十分だった。
「アリス・・・」
 火村は有栖が弱い甘い声で呼ぶと、優しく微笑んだ。
「おいで」

 腕を広げる。
 そこは有栖の場所。
 居心地が良くて、優しくて、気持ちよくて、暖かくて、大好きな場所・・・。

「ずるいんやから・・・」

 そう言って有栖は腕の中に収まった。
 悔しいけれど、ダメだ。
 本当は1ヶ月ぶりで、有栖自身も火村に抱きしめて欲しかった。
 優しく抱いて欲しかった。
 そんなこと簡単に言ってやらないけど・・・、でもばれているかもしれない。
 だって、こうして甘やかすのがとても上手だから。
 有栖は火村の胸にすりすりと頬を寄せてうっとりと火村を見上げた。
 そこには世間ではハンサムで理知的、ついでに無表情で有名な、でも有栖には甘い顔をする大好きな笑顔。

「火村・・・」
 有栖の柔らかい声。
 これまた火村のお気に入りの、自分にだけ向けられるうっとりとした艶っぽい表情。
 火村は有栖を抱きしめながら、
「愛してる・・・」唇を寄せながら、ささやいた。



END

 「あとがき」

 短編なのに、あとがきって変だけど!
 いよいよ夏が始まりますよね。
 そんな時、「冷菓子」ってとても美味しいです。
 「水まんじゅう」なんですが、私が食べた中では岐阜の大垣市にある有名なお店「金蝶堂」が一番です!まじめに美味しいです・・・。
 つるんとした触感。思い出すだけで、よだれ物・・・。(笑)
 一緒に程良く冷えた麦茶とかあると、最高ですね。
 さて、お話について。
 ただただ、じいちゃんと有栖の穏やかな会話が書きたかっただけなんです。
 そして、ラブラブ。4回目はサービスですね!
 のほほんと、読んで頂ければ嬉しいです。

  春流拝



BACK