満月の光だけで撮影された地球の夜のドラマ。 月は、地球のただ一つの自然の衛星。地球のもっとも近い天体である。 月光の明るさは、太陽の光の4650000分の1。 月が反射しているのは、太陽光線の約7%。 月から見る地球は、地球から見る月より、見かけの面積で16倍大きい。 月より400倍遠い太陽は、月より400倍の大きさを持っているので、太陽と月の地球からの見かけの大きさは同じである。 満月は、半月にくらべて12倍の明るさをもっている。 地球の鼓動に耳を澄ます。 「綺麗な写真やろ?」 有栖に見せられた写真集「月光浴」。 そこには不思議な世界が広がっていた。 「蒼い、蒼い、世界や」 有栖の言う通り、夜、月光の光だけで写した写真は蒼い。全てが。 「ということで、今日はお月見!」 パチンと明かりのスイッチを押し、蛍光灯を消す。 一瞬部屋は暗闇が広がるが、有栖がカーテンをざっと引いて開けると、月光が射し込む。 思ったより、ずっと明るい。 月光を背にして有栖が立っている。 顔を上げ、月を見上げる有栖に照られれる月光。 暗闇の中、白い肌が浮き立つ。 「火村?」 「ああ、今日は満月か?」 「どうやろ?それに近いと思う」 丸い月。 雲もなくて、はっきりと冴え渡る。 「小さい頃窓際にベッドがあって、満月やなくてもいいんやけど、寝る時に月が見える時はカーテンは開けて寝たんや。すっごく明るいんやで!目を閉じていてもそれがわかる。不思議な気分やったわ。月の光を浴びて寝ればいいことありそうな、気がして」 有栖は楽しそうに、昔を思い出す。 「月の光は人を狂わすって言うぞ」 火村はキャメルに火を付けながら言う。 「俺には狂気なんて感じんかった。ただ、綺麗だと、思ったんや」 思ったより強い口調で有栖は答えた。 「ふん。綺麗ね……」 「火村は綺麗やと思わへんの?」 「綺麗っていうより、怖いね。自分の中の狂気が引きずり出されそうだ」 「狂気?」 有栖は火村を問うように見つめる。 「ああ。人を殺すかもしれない、狂気」 「火村……」 火村は暗く笑う。 「そして、俺はアリスに狂ってる。アリスをいつか、壊すかもしれない。それでも俺はお前を手放せない」 普段は心の奥底に閉まってある言葉。 有栖を不安にさせたくなんてなくて、自分の暗い思いを見せたくなくて。 月の魔力からなのか、ふいに口から漏れた、心の言葉。 それが有栖には痛いほどわかった。 「火村……。俺も火村に狂ってるんやで?当たり前やん。恋してる人間は皆狂気を知ってる。どんなに焦がれても、相手が手に入らないんやから。別々の人間なんやから、当然や。でも、別の人間だから、こんなに恋しいんや。そうやろ?」 真っ直ぐな瞳。 月光で煌めく、艶やかな、有栖。 「壊されるなんて、怖くない。壊されるほど弱くもないつもりやし、もし火村に壊されたら俺も火村を壊したる」 有栖は婉然と微笑んだ。 「だから、安心せい……」 普段は日だまりみたいな有栖がこんな時は月の女神みたいに見える。 とても、強い。 神々しいまでの、存在感。 孤高の彼方にあるのに、手が届かないと思うのに、実は傍にある。 いつも見ていてくれる月。 降り注ぐ、透明な月光。 月光で「夜の虹」だって撮れる。 そんな奇跡みたいなこともある。 だから、これから月を見たら思い出そう。 有栖の傍らを。 火村を見つめる、奇跡の光。 END 参考資料 「月光浴」ーーMoonlight Blueーー撮影「石川賢治」小学館発行 |