83の日企画


8月3〜5日まで期間限定でアップしていた、「83の日企画」。
テーマは「輪廻転生」。
この時初めて83を書きました。そして、本編の二人もここだけ・・・。
ちょっと懐かしいのですが、楽しんで頂けたら幸いです。 春流拝。





第1幕

「三蔵は生まれ変わりを信じますか?」
突然の八戒の問いに、三蔵は眉を潜める。
「ああ?何だって言うんだ?」
「すみません、ただ、生まれ変わっても何度も同じことを繰り返すのか、と思いまして」
「くだらんな」
三蔵は煙草に火を付け、一口吸う。
天井に向かって立ち上る白煙に視線を向けて、八戒を見つめた。
「今、生きてることが全てじゃねえのか?それ以外に何がある?輪廻転生思考もいいが、もし生まれ変わるとしても別人だろう。同じ人生なんてない。「もし」なんて自分の後悔をやり直したいだけの逃げだろ」
八戒は三蔵を黙って見つめる。
「起こったことをなしになんて、できない。だからその結果がどんなに無惨でも、足掻き続けるしかねえだろう?死んだ人間は決して戻らないんだから・・・」
三蔵と八戒がもう一度と望む人間は戻らない。
自分の命より大切だった存在。
自分の力不足で、消えてしまった魂。
だから、忘れる事なんてない。
でも、生きることに足掻いていたい。
「そうですね・・・。僕も足掻き続けたいと思います」
八戒はそう言うと、にっこり笑った。
「ところで僕思うんですけど、生まれ変わっても好みって同じなんじゃないかなって。好みってそうそう変えられるものでもないですから、きっともう一度好きになると思いますよ。僕って実は面食いですしねえ」
「はあ?」
三蔵はこいつどうしたんだ?という顔で八戒を見る。
真面目な顔で話していたと思ったら、笑って「面食いだ」ときたもんだ。
「見つけたら離れませんよ。僕ってしつこいんです。どこまでだって行ちゃいますよ」
にこにこしながら、どこか怖いセリフだった。
それって、ストーカー?
相思相愛だったら問題ないが、一方通行だったら、すばらしく迷惑、甚だしい。
「お前・・・」
三蔵も何と言っていいか、迷う。
いつもの「勝手にしろ」と言ったら、どうなるんだろうか?
ストーカーを勧めたくはない。個人の自由だけど。
そんな三蔵の杞憂を知ってか知らずか、
「大丈夫ですよ、三蔵。ご心配には及びません。僕は相手を手に入れるために最大限の努力を惜しみませんから!」
と宣言する。
それは、問題が違うのでは?と三蔵は思った。
けれど、あまり関わり合いたくないので、
「そうか」
と言うに留めた。
「ええ。がんばりますね」
にっこり。
満面の笑み。
・・・。
何をがんばるって?と聞きたかったが、聞いてはいけないような気がした。
それは賢明な判断だった。多分。
「それでは、おやすみなさい」
上機嫌で三蔵の横を通り過ぎる時、さらりと三蔵の金の髪に触れた。
ほんのわずか、空気がふるえるくらい。
え?と三蔵が驚く頃には八戒はベットの中である。
なぜだか、さっきの会話は忘れた方がいい気がしてきた。
三蔵はあまり吸えなかった煙草を灰皿に押しつけると、自分も寝ることに決めた。

明日も足掻くために。




第2幕

「下界はどうだった?」
「そうですね、毎回思いますが生き抜いてるって感じますよ」
「そうか」
天蓬が下界から帰って来た。
毎回、その度にここ金蝉の執務室に顔を出す。
「こことは明らかに違います。だって、人生は短くて、その分煌めいて。そして、死んでもなお、転生して繰り返すんですから」
「・・・ふん。羨ましいのか、天蓬?」
「いいえ。ここの空気が淀んでいるからって、下界で暮らしたいなんて、ただの逃げですから。それに、下界には貴方がいないでしょう?」
金蝉は机に両肘を付いて組み、その上に顎を乗せる。そして、紫の瞳で天蓬を見据えた。
「それで?」
天蓬は目を細め、口角を上げた。
そして、金蝉の前まで来ると、
「貴方が行くところになら、どこへでも」
金蝉を見つめながら、指を伸ばして煌めく金の髪を一筋摘んだ。
天蓬の行動に金蝉はわずかに瞳を見開いて、それでも天蓬を見上げた。
「貴方がここにいるのなら、ここにいます。下界に行くのなら、付いて行きます。例え輪廻転生の波に飲み込まれても、必ず見つけてみせますよ」
「記憶がないのに、どうやって探すんだ?」
くすり、と天蓬は笑う。
「僕が貴方を見間違えるとでも?きっと一目でわかりますよ」
自信ありげに言うので、金蝉は聞きたくなる。
「どうしてそんなことがわかる?」
「だって、貴方ですよ・・・。わからない訳ないですね。きっとどこにいても輝いていますよ。貴方の光は消せないですから」
流れる金の髪も、
強い力を持つ紫水晶の瞳も、
綺麗な、美麗なかんばせも。
全てが違っていても、この存在は消せないだろう。
煌めく光。清浄で、崇高。天上界にあっても高貴な魂。
どこであっても、きっとその存在を主張しているに違いない。
「俺が忘れていたら、どうする?」
「大丈夫。思い出させてあげますよ。もう一度出会いからやり直すってのも、乙なものかもしれませんよ?きっと楽しい」
天蓬は弄んでいた金の髪を指に絡ませて引き寄せる。
自然二人の距離が近づく。
金蝉は一瞬瞼を閉じるが、瞳を開いた時には面白そうに笑った。
「しょうがねえから、その時は待っててやる」
「はい。よろしくお願いしますよ」
天蓬はそう言って金蝉の細い顎に手を伸ばした。
近づく唇に金蝉は目を閉じた。


いつか、の話。
たとえば、の話。
でも、遠い未来の話。
もちろん、知らない。


END




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