ヤマセミ

カワセミが多摩川の下流域や東京湾でも見られるようになった今でも、ヤマセミは相変わらず上流部に身を潜めている。現在のカワセミを、かつて清流の鳥の代表格とされた頃とは別亜種なのではないか、とさえささやく人がいる中で、ヤマセミは自分の縄張りから出ようとはしない。その違いは、都会に憧れて出て行った若者と、頑なにライフスタイルを守り続ける老人とになぞらえてみたくなる。自分は無論、スローライフ派だ。でなきゃ、奥多摩方面になんて住んでられない。同志よ、ここを守っていこうではないか。

ヤマセミ
2004/01/21 埼玉県入間郡名栗村
Nikon Fieldscope EDIII + 30xWideMC + Nikon E995
正面はウサギ顔
後から見ると冠羽は割れている?
なに見てんだよ
2004/01/18 埼玉県入間郡名栗村
Nikon Fieldscope EDIII + 30xWideMC + Nikon E995

特別な鳥なのである。

青梅に転居して間もない2000年の3月、義兄とともに多摩川に降りてみたら、そこに彼がやって来た。それまでにもカワセミの輝くような水色の後姿、という鮮烈なシーンは体験済みだったが、“かのこしょうびん”の衝撃は、それ以上だった。縁遠いものと思っていた自然の世界が、一気に近づいて来たように感じられた瞬間だった。

師匠(生物の教師である義兄)は、それまで俺には見えなかった小さな魚やカゲロウのニンフなどを探し出し、盛んにライズがあるのを見て、「健全な川だ」と感想を漏らした。正直、自分が誉められたような気がした。そして番のヤマセミが現れたのだ。一方は木の枝にとまり、他方はダイブしては流れの中に突き出した岩にとまる。素晴らしい自然が、目の前にある。そう実感するのに十分な光景だった。ヤマセミにいざなわれた、のだ。

後日、師匠は俺に「フィールドガイド日本の野鳥」をプレゼントしてくれた。その時の師匠のセリフに、今もしびれている。

「鳥を好きになってくれて、ありがとう」

そんなセリフ、いつか誰かに言ってみたいものだ。


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