MELI-MELO MELOMANE
2000年3月分
2000.3.30.
イル・モンド・カンタービレ
やっと大量に買ってきたイタリアン・ポップスを取り上げる。 欧州各国のローカルなポピュラー音楽シーンの中ではイタリア語によるものが一番好きである。 フランスは外来音楽シーンは常にホットだけれど、ローカルのフランスものは、どうしてもこれじゃなきゃいけないというアイデンティティには今ひとつのような気がするし、スペインはちょっとあか抜けない。 ドイツは論外、と勝手に切り捨ててしまうが最近はトーテン・ホーゼンだけじゃなくて結構いいグループがいるみたい。 でもドイツのパンピーってろくな地元音楽聴いていないようだ。 結局、伝統フォークダンス音楽か、ユーロビートか、最近はテクノか、とそれしかない。 ドイツではやるテクノも、結局伝統ダンス音楽のBPMを上げて電気入れただけだとも言える。 ドイツ人は昔からこうだったのだ。 何故、バッハやベートーヴェンやブラームスを生み出せたのか全くわからない。 残すは、ポップ大国スウェーデン。 というわけで、イタリア歌謡。 その魅力は何といっても「うた」の魅力に尽きる。 歌う世界。 どんなスタイルの音楽でも、どこか「歌って」いる。 とりあえず、今日のところは以下5枚。 どれも、もうすぐ始まる2000年のサンレモ音楽祭をにらんだアルバムだ。
Brivido Caldo : Matia Bazar (Columbia Italy COL 497796 2)
イタリアの歴史の長いポップ・グループ、マティア・バザールの2000年新作は、ヴォーカルの女性がまた変わった。 前作(?) Benvenuti a Sausalito (Sausalito って何だろう?)までのヴォーカル、ラウラ・ヴァレンテは線が細くて、90年代後半はバックも含めて薄っぺらな音になってしまった。 93年の Dove le canzoni si avverano ぐらいまでは良かったが、97年 Benvenuti a Sausalito は全くの失敗作、少なくともアントネッラ・ルッジェロ時代から続いたマティア・バザールの良さがさっぱり感じられなかった。 レーベルも変わって、コロンビア・イタリア(発売はソニミュだけれどコロンビア・レーベルで残してある)から出された新作。 ヴォーカルはシルヴィア・メッツァノッテ、真夜中という名の女。 体格も良くてプリマ・ドンナみたい。 これが大事。 輝きのある歌声にメンバーの志気も向上したのか、以前の調子を取り戻したかのように生き生きとしている。 高音の張りのある声で、以前のアントネッラ・ルッジェロを思い出させる。 1曲目がタイトル・チューンの Brivido Caldo (熱い震え)から、歌にも前作で失われていた「雰囲気」が聴かれる。 何曲かは男のピエロ・カッサーノが歌っている。 殆どが彼の手になる曲のようだ。
Marjorie Biondo (Virgin Italy 8 48970 2)
新人さん。 作曲は全て彼女自身。 アルバム・タイトルは無くて、Marjorie Biondo は彼女の名前。 Biondoってブロンドの意味なのに、黒髪の楚々とした面もちの女性。 1曲目 Quello che tu hai から結構キャッチーというか特徴的な曲と歌い方なのだけれど、クランベリーズのようでもある。 というより大ヒットした Zombie (北アイルランド紛争を歌ったヘヴィーな曲)の雰囲気で、時折ファルセットと交錯する歌い方もクランベリーズのドローレス・オリオーダンを彷彿とさせる。 どの曲も、ちょっと重めというか暗い雰囲気なのがイタリア・ポップとしては珍しい。 個人的には結構気に入ったのだけれど。
Cronaca : Luna (Easy Records Italiana ESY 497802 2)
この人も新人かな。 クロナカはクロニクル。 ちょっと目つきの鋭いお姉さんなんだけれど、歌も迫力あり。 イタ・ポップにしては珍しくR&B入っているんだけれど、サビがしっかりカンタービレしていて、あくまでもイタリア風(何というステロタイプ)。 日本にヒッキーいるごとく、イタリアにルーナさん。 どのトラックも聴きごたえあり、強い印象を残す。 そして楽しめる。 各国ポップス漁りの冒険も、こういうアルバムに当たると嬉しい。 私が輸入盤購買担当なら、これを仕掛けたい。 でも、ルックスがちょっと日本人向けじゃないかな。
Tutto o Niente : Mietta (Warner Music Italiana 8573820072)
ヴェテランのミエッタ、フォニット・チェトラからワーナーに移籍。 タイトルは ALL OR NOTHING、1曲目の Fare l'Amore (メイク・ラヴ)がヒットしたらしい。 のりのよい、くっきりしたメロディは、イタリア歌謡を聴く楽しみそのもの。 昔の曲が入っているみたいだが、ベスト盤なのか新録音なのかわからず。
Domani : Spagna (Sony Music Italy EPC 497650 2)
妖艶な雰囲気の美女スパーニャも、これで何枚目かのアルバム。 もう貫禄十分。 スパーニャは本当に名字で、ファースト・ネームはイヴァナ。 いっしょにプロデュースしているテオ・スパーニャはお兄さんか旦那か? 力強いメロディの押し出し方は、コブシこそきかせないものの演歌歌手のように聴かせることもある。 13曲たっぷり収められているが、バラードから、ちょっとオルタナ風まで曲のヴァラエティは大きい。 メロディにも溢れていて、初心者も安心(?)。 5曲目の Acqua なんか個性的。 このアルバムもマジに売ったら結構いけると思うのだが。 今日の5枚の中では、一番、イタリア歌謡の魅力を持っていると思われる。
2000.3.22.
パイド・パイパー
イタリアでは、スペインのガリシア地方のパイプ奏者(ガイテロ)のエビアのアルバムがベスト・セラーになっていたのでびっくり。 何とチャートの第1位。 スペインでは、昨年の6月に発売されたアルバムだが、じわじわと世界中でブレークしてきた。 日本盤は昨年夏には売られていた。 原題 TIERRA DE NADIE、邦題「誰のものでもない世界」。 今日はパイプの音楽を少し。
The Gathering : Kathryn Tickell (Park Records PRKCD39)
小さなバグパイプの一種であるノーザンブリアン・パイプ奏者のキャスリン・ティッケルは、昔SAYDISCというレーベルから出したアルバムで知った。 最近は PARK RECORDS というレーベルで活躍しているらしい。 97、98、99年と毎年録音している。 これは、97年のもの。 こんなに歯切れの良い躍動感のあるパイプはなかなか聴けない。 キャスリンはノーザンブリアン・パイプの他、フィドルも弾く。 他にギターのイアン・カーとベースのニール・ハーランドという3人で演奏しているのだが、トラッド曲によりながら、実にコンテンポラリーな雰囲気に満ちている。 別に電気楽器が入るわけでもなく、ありふれたアコースティック楽器、それも3種類だけなのに全く古くさい感じがしない。 フォークにジャズの感覚を採り入れるのは、ペンタングルやクラナドも行っていたけれど、キャスリンと仲間達はごく自然にジャズっぽいトラックも作っている。 何度聴いても飽きが来ないアルバムだ。
The Northumberland Collection : Kathryn Tickell & Friends (Park Records PRKCD42)
こちらは98年の仕上がり。 前作とはうって変わって、どトラ(ディショナル)。 一体どうしてしまったのか、というくらい。 あまり特徴のないフォーク調のヴォーカルやハープも加わるが、アルバムの密度としては前作の方が遥かに上出来な気がする。 ちょっと、気楽になってみたかったのだろうか。 はっきり言ってつまんない。
Os amores libres : Carlos Nunez (BMG Spain 74321 66694 2)
今をときめくガイテロ、カルロス・ヌニェス! 最新アルバムに貼られたステッカーには、「バグパイプ界のジミ・ヘンドリックス」?? ビルボード誌らしいですよ、そう言ったのは。 で、ちょっと聴いたら何か退屈そうだったのだが、実は大間違い。 だいたい、これだけのゲストを集めて退屈するわけないというくらいの、ヴァラエティに満ちた客人たち。 チーフテンズ、ドーナル・ラニー、シャロン・シャノン、フィル・カニンガム、フランキー・ケーヴィン、ダン・ア・ブラと言ったケルト音楽シーンのスターから、フラメンコのサビカス、テレーザ・サルゲーロ(マードレデウスのヴォーカルの女性)、ノア(イスラエルのシンガー)、ジャクソン・ブラウン、エクトル・ザズーまで集まって実に幅広く欧州系ユニヴァーサル・ミュージックを作っている。 ユニヴァーサル・ミュージックって、ワールド・ミュージックというコトバがちょっと昔の流行語的なので今思いついたのだけれど、これじゃシーグラムに買収された旧ポリグラムの新しい商号だな。 テレーザとフィル・カニンガムの共演なんて、実に心に滲みる。 カルロスのアルバムを聴くのはこれが初めてなので、結局彼のパイプがどうなのか、よくわからない。 とにかくゲストがすご過ぎ。 むしろ、カルロスが奥に引っ込んでキャンバスとなり、ゲスト達の絵の具が様々に溶け合うのを楽しむべきアルバムかも知れない。 録音したスタジオの散らばり方がまた興味深い。 ダブリン(有名なウィンドミル・レーンともうひとつ)、ロンドン、マドリー、セビージャ、ビゴ(ガリシア地方、これがカルロスのホームグラウンド)、リスボン、ブルターニュ、パリ、フランクフルト、モロッコのタンジェールにルーマニアはトランシルヴァニアのティミショアラ、果てはサンタモニカ(カリフォルニア)。 旅するパイド・パイパー。
Tierra de Nadie : Hevia (Hispavox 7243 4 98338 2 1)
カルロス・ヌニェスに続けと現れたガイテロ、エビア。 フルネームはホセ・アンヘル・エビア。 シンセにベースやドラムスも加わり、ちょっとプログレた感じもする。 普通のガイタ(ガリシアのバグパイプ)の他に、何と何とエレクトリック・ガイタというのもある。 ローランドが作ってたりして、なわけないか。 シンセが多用されているトラックもあり意地悪く見れば、結構チープなワールド・ミュージック的アプローチも感じる。 しかし、第1曲の Busindre Reel から結構キャッチーなフレーズもあって、まあヒットしているのも頷ける。 パイプ自体は一本調子な感じもあるけれど、速いリールでのエネルギーの放出はなかなかに聴かせるし、次のアルバムが楽しみ。 ドーナル・ラニーあたりのプロデュースで変化球を投げるようになる方がいいかも知れない。 レコード番号はオリジナルのスペイン盤のものだが、日本盤は東芝EMIから出ているし、輸入盤も各国のヴァージョンがあるようで、ジャケット写真は異なる。 タイトルを確認しないと、2枚目が出たと思って同じのを買ってしまう恐れあり(結構、そういうことあるのです)。 これは去年出たときに買ったのですが、未紹介でした。
最近購入で未紹介のディスク、チーフテンズの最新盤や、サンレモ音楽祭2000に向けたイタリア・ポップなどまだまだ。
2000.3.20.
アルカイック? フランスの宗教曲
今回買ったディスクは最初の1枚のみ。 ロパルツという作曲家のミサ曲がナクソスから発売された。 FNACに山積みされていたのでふと手にとってみた。 帰ってきて聴いてみると思いのほか良い曲だ。 そこで、それ以外にもフランスの20世紀のアルカイックな宗教曲を集めるために、CD棚をあさってみた。
Joseph-Guy Ropartz : Messes et motets - Ens. vocal Michel Piquemal / Piquemal, orgue par E. Lebrun (Naxos 8.554699)
ジョゼフ・ギ・ロパルツ(1864−1955)という名は初めて聞いた。 ブルターニュ北岸のガンギャンに生まれ、パリ音楽院でマスネに師事。 その後、転向(?)してフランクを師に。 ここで演奏されているのは1920年代の宗教合唱曲が殆ど。 随分と叙情的で、フランクから苦みを抜いたような感じ。 いや、ちょっと甘みすら感じる。 リリー・ブーランジェあたりよりも取っつき易くて、もっとポピュラーになってもいい音楽だと思う。 ディスクは18分ほどの小さなミサ曲が3つと、2、3分の小さなモテットが10曲という内容で、殆どはオルガンの伴奏による合唱曲。 とても20世紀の音楽とは思えないアヴェ・マリアのみアカペラである。 ナクソスもこういう音楽をどんどん録音しているから目が離せない。 スリーブノーツがフランス語のみだが、他の市場でも売っているのだろうか。 ロパルツには室内楽やピアノ曲もあるらしいので是非聴いてみたい。 近代イギリス音楽を思わせる音かも知れない。
Maurice Durufle : Sacred Choral Works and Organ Works vol. 1 - Ens. vocal Michel Piquemal / Piquemal, orgue par E. Lebrun (Naxos 8.55196-8.55196)
モーリス・デュリュフレは、そのレクイエムがフォーレと並んで人気曲になっている。 アルカイックな美ではフォーレに勝るとも劣らず。 ちょっと近代英国の合唱作品に近い感じもする。 今回聴き直して、フォーレのよりも好きになってしまった。 録音では、エラートに自作自演のものがある上、最近は随分レコーディングされているようだ。 ここでは上記のロパルツ同様ミシェル・ピクマルの演奏で聴いてみた。 ナクソス専属フランス近代合唱指揮者という感じだが、ステージも活発にこなしているアクティヴな指揮者だ。 レクイエムはフォーレほどではないものの録音も増えてきた。 合唱団はピクマルが78年に組織したもので古典から現代作品まで幅広くこなすし、本国ではコンサートの回数も多い。 「シテ・オーケストラ」なんて聞いたことのないオケだが、これもピクマルとともに活動していて、パリやリヨンの国立高等音楽院の卒業生を中心にした若い腕利きを揃えているらしい。 曲の魅力を存分に伝えてくれるフレッシュな演奏だと思う。 リベラ・メの遠くから光が放射してくるような神秘的な雰囲気を通り越してアカペラで静かに歌われるイン・パラディズム。 レクイエムの余白の曲も充実していて、グレゴリオ聖歌の主題による4つのモテット、我らの父、それに2つのオルガン曲。 ナクソスのフランスものは結構「当たり」が多いし、コンセプトもはっきりしている。
Maurice Durufle : Sacred Choral Works and Organ Works vol. 2 - Ens. vocal Michel Piquemal / Piquemal, orgue par E. Lebrun (Naxos 8.55196-8.55197)
ピクマルによる、デュリュフレの宗教曲の第2巻。 私の持っているのは2枚がそのまま外箱に入ってまとめられた 8.550691 という番号。 こちらは、ミサ曲「クム・ユビリオ」と2つのオルガン曲「プレリュード、アダージョとコラール変奏曲 Op. 5」と「オルガン組曲 Op.5」を収めている。 ミサ曲はグレゴリオ聖歌を思い出させる節回しに、幾分暗めのハーモニーがからみひんやりと美しい。 2枚にわたってオルガンを弾いているエリック・ルブランもナクソスでフランス近現代のオルガン作品を録音していて、ジャン・アランのオルガン曲集など貴重だ。
Andre CAPLET : Le Miroir de Jesus - B. Gaucet (Sop), Ensemble Vocal B. Britten / Nicole Corti (3D Classics 3D8017)
アンドレ・カプレはドビュッシーと親交を結び、「聖セバスチャンの殉教」のオーケストレーションを手伝ったり、ピアノ曲をオケに、オケをピアノにトランスクライブしたりした。 ドビュシーの死後、第一次大戦で兵役に就き、毒ガスの為に健康を害し、戦地から戻ってからは作曲に専念。 47歳で亡くなってしまったが、その若い晩年の3年間に様々な宗教曲を作った。 死の2年前に作られた「イエズスの鏡」というこの曲は、ロザリオの秘蹟をテーマとしたアンリ・ゲオンの詩に作曲されている。 「喜びの鏡」「苦しみの鏡」「栄光の鏡」の3部からなり、各部は6曲ずつに分かれる。 弦楽四重奏+コントラバス、ハープを伴奏に、ソプラノ・ソロと小規模な合唱団、少年3人が参加。 アルカイックな雰囲気に満ちた、輝くような曲だ。 伴奏も含めて、控えめな音の中から突然、ロマネスク聖堂のステンドグラスから降り注ぐ光のような響きが心を動かす。 カプレの曲では、「3声のアカペラ女声合唱のためのミサ曲」の方が有名かも知れない。 エラートから録音が出ている。
D. E. Inghelbrecht : Requiem, Vezelay - Orch. et Choeur de l'O.R.T.F. / J. Fournet (A. Charlin AMS 88 - 2)
フランスの指揮者、アンゲルブレシュトの残した録音はそれ程多くはない。 ちょうど、モノラルからステレオへの移行期のあたりのドビュッシーなどの録音が残っている。 彼の作曲家としての作品を聴く。 彼の創設したラジオフランスの国立オケをジャン・フルネが振っている。 アンドレ・シャルランの60年代半ばの録音。 レクイエム、宗教曲としては「聴かせる」曲である。 派手め、と言ってもいいかも知れない。 1940年から41年にかけての冬に作曲された。 指揮者としてフォーレのレクイエムを知り尽くしていた彼は、それだけに自分の作曲の過程でフォーレの名作の影が入り込まないかと気を遣ったようだ。 その甲斐あってか、フォーレとは異なった味の名作になった。 カプリングされたヴェズレーは、「交響的招魂」と名付けられている。 エヴォカシオンをどう訳すか、というところだが、あのアルベニスのイベリア組曲のエボカシオンと同じ言葉だ。 ヴェズレーは、あの有名なバシリカのある、サンチャゴ・デ・コンポステラへの巡礼の起点として、十字軍の起点として有名なブルゴーニュの町。 麓に、これまた「あの」あこがれの三ツ星レストラン L'Esperance のある、中世の町だ。 曲は組曲風に「道で、丘の上の正午」「石たちの伝説」「夜想曲」「十字軍と戦闘」「幸せな家」の5曲からなっている。 標題音楽的、映像的な要素もあり、中世風の調べが新しい響きの中にこだましたりして楽しい。 フランス中世史とレスペランスのディナーに想いを馳せて聴く。 この曲、初演はまさにヴェズレーのバシリカでなされた。 シャルランの録音は、決してオーディオ的なハイファイではないかもしれないが、残響などに依存せずにステージを彷彿とさせる、非常に雰囲気のあるもの。 また、英仏対訳の解説も作曲者自身の言葉を交ぜながら、ふたつの曲の背景をよく伝えてくれる。
さあ、ここまで来たら、プーランクのスターバト・マーテル、グローリア、黒い聖母の連祷、その他の合唱曲に進まないわけにはいかなくなるが、時間も押してきたのでここらで・・・
2000.3.18.
ドイツの古い音楽
せっかくドイツでCDを買うんだから、ドイツ音楽を。 それもちょっと古めの。 ドイツ3大Bが、バッハ、ベートーヴェン、ブラームスなら、3大Sのシュッツ、シャイト、シャイン。 まずはシュッツの音楽から。
Heinrich Schutz : Musikaliche Exequien, Johannes -Passion - Westfalische Kantorei / W. Ehmann (Cantate C 57602)
1960年の録音でLPでも持っていたが、カンターテ・レーベルが全部22.5マルクになっていたので、CDで持っていなかった本盤を購入。 ムジカーリシェ・エクセクヴィーエン(音楽による葬送)はシュッツを代表する名曲であり、録音もいくつかある。 しかし、どうもこのような古い演奏に何故か良さを感じてしまう。 最も印象に残るのは、マウエルスベルガー指揮のドレスデンのクロイツコーアのもの。 冒頭のヨブ記に続くドイツ語のキリエがこれ程激しく歌われる演奏は無い。 エーマンの演奏はより暖かみのある穏やかな演奏だが、シュッツの音楽の厳しさを伝えるのに不足は無い。 新しい演奏では期待したガーディナーが颯爽と美しいがピンと来ない残念なものだった。 ヘレヴェッヘはこのエーマンの演奏を現代的にしたような感じで古雅な響きが静かに空間を満たす。 このエーマンのディスク、カプリングされているのはヨハネ受難曲。 滅茶苦茶なたとえをすれば、バッハの受難曲が歌舞伎とすれば、シュッツの曲は同じテーマの謡曲スタイル。 最初と最後、それに群衆のせりふ以外、エヴァンゲリストもイエスもその他登場人物も全てアカペラのソロで歌い継がれていく。 バッハのようにイエスの光背を表す弦の伴奏も無いわけだ。 静かに語りかけるように受難の物語が進んでいく。 エストニアの作曲家アルヴォ・ペルトのヨハネ受難曲もこのシュッツの曲にインスパイヤされたのではなかったかと思う。 ドイツの古い無名の宗教画を見るような曲であり演奏だ。
Hans Leo Hassler : Lustgarten Neuer Teutscher Gesang (selection) - Capella Lipsiensis / D. Knothe (Eterna 0031272BC)
ルネッサンス期のドイツというと、音楽的には後進国というイメージがあるけれど、ハンス・レオ・ハスラーなんかとても良い。 実に心に滲み入るメロディを書いた人。 生まれたのはシュッツより20年前だが、50歳にならずに死んでしまったので、活躍したのは半世紀近くずれていると言える。 同時代にはプレトリウスがいる。 ハスラーもプレトリウスもヴェネツィア楽派の要素をドイツに持ち込んだが、いかにもドイツ風に地味というか、つや消し調になっている。 この1601年にニュールンベルクで出版された「新しいドイツ歌曲の楽園」という曲集は歌曲や器楽曲のミックスで、素朴な味わいのある曲が多い。 クノーテは60年代に東ドイツで活躍した古楽指揮者。 今となっては古いスタイルかも知れないが、こういった曲を聴く分にはかまわない。 この中で特筆すべきは、あの、 Mein Gmuth ist mir verwirret (我が心は千々に乱れ) が歌われていること。 「あの」? この旋律が、受難節のコラールになり、そしてバッハのマタイ受難曲に5回現れる有名なコラールとなったのだ。 もともとは、このような恋歌だったとは。 マタイで使われるもう一つの印象的なコラールも元歌はイザークの世俗曲であるし。 Mein Gmuth ... の方は、5声だが楽器伴奏+テノール・ソロで歌われていて、メロディを聴けばまさにあのバッハのコラールの元歌だとわかる。 ポルタティフ・オルガンの曲なども入っていて、しんみり聴くにはぴったりのこんな素敵なディスクが何と9.99マルク、今なら500円ちょっと、と何かテレビの通販番組のようなノリになってしまうが(「奥様、今日はそれにマタイ受難曲もお付けして特別価格1480円でご提供!」)、ドイツではナクソスも9.99マルクであった。
Hans Leo Hassler : Ihr Musici ; Geistliche und weltliche Vokalwerke - Regensburger Domspatzen (Ars Musici Essence AME 3011-2)
さて、ハスラー続きでもう1枚。 宗教曲と世俗曲をレーゲンスブルク大聖堂の聖歌隊が歌っている。 Ecce quam bonum のモテットとミサ。 世俗曲は上と同じ曲集から。 「千々に乱れ」のコラールは入っていない。 レーゲンスブルクの聖歌隊も最近は録音が少ないが、この南ドイツの宗教曲を本当に美しく歌っている。 ミサ曲も、あまり世俗曲と変わらない活きの良い流れを持つ。 この頃のドイツ音楽は、その後ロマン派以降のコレステロールがたっぷり含まれたようなヘヴィーさが無い。 ハスラー、プレトリウス万歳。
2000.3.11.
ワルシャワ、パリ、マドリー
大きなレコード屋は楽しい。 世界中の音楽が詰まっている。 ディズニー・ランドよりもずっと楽しい。 以下のCDも全部ひとつの店で買ったわけではないが、ケルンとパリで、ポーランドやスペインの今の音楽を見つけたのだった。
Kayah * Bregovic (Zic-Zac 74321634812, BMG Poland)
ユーゴスラヴィアの作曲家ブレゴヴィッチの歌をポーランドの歌手、KAYAH が歌う。 しかし東欧の音楽事情を知らないので、それぞれがどういう活動をしているのかもわからない。 フォーク・ロック調というか、例えばイギリスのオイスター・バンドやアルビオン・バンドの東欧版という感じ。 スラヴもの独特のうら悲しい雰囲気があるが、ロシアのフォーク・ポップよりウェット。 またロマ音楽のようなクセも無く、結構「当たり」。 歌詞は全部ポーランド語。 歌詞カードもクレジットもポーランド語しか書いていない。 外資系輸入CDショップのワールド担当バイヤー好みな音なので、そのうち仕入れられて店頭に並ぶかも知れない。 FNACでも注目盤になっていたが、ラジオ・フランス(国営放送)の若者向けチャネルFIPがプロモートしているようだ。 そう言えばFIPの交通情報コーナーは朝からけだるい女の声で「環状線内回りはいつものようにポルト・ド・ヴェルサイユまで10キロの渋滞、その他パリ市内はどこも全部渋滞、いらいらしないでねえ」などと国営放送の交通情報番組とは思えないムーディな感じで面白かったけれど今はどうなのだろう。 日本であんな放送をNHKがやったら何十本もの良識あるおせっかいな市民の苦情電話が寄せられるだろう。 さて、全部ポリッシュのスリーヴノーツだが、URLだけはわかる。 こちらで。 しかし、つないでみたら全部ポーランド語・・・
Alexandre Tansman : Sinfonietta 1&2, Divertimento, Sinfonia piccola - Virtuosi di Praga / Yinon (Koch 3-6593-2)
ポーランドからパリ。 作曲家アレクサンドル・タンスマンの辿った道も同じ。 ユダヤ系ポーランド人で、第二次大戦中はアメリカに逃れていたが、再びパリに戻り86年に89歳で亡くなった。 ジャズや民謡のエレメントでモダンな音を織り上げるこの不思議な作曲家、もうちょっとリヴァイヴァルしてもいいと思う。 収められた曲の中では79年に作られたシンフォニエッタ第2番が一番「新しい」響きだが、プーランクとプロコフィエフをミックスしたような、でもどこかにシマノフスキみたいな「ポーランド情緒(?)」が覗くという変な曲。 ジャケットはクレーの絵。 クレーって、このような軽くて苦み走ったこだわりモダンな音楽のディスクのデザインに便利に使われる傾向がありますね。 世紀末ウィーン爛熟系音楽にクリムトが使われるのと同じか。 ドイツのレーベル、コッホ・シュヴァンも2000年早々いきなりこんなディスクをリリースしてくれるなんて嬉しい。 ここのカタログ、他にもバンジャマン・ゴダールのヴァイオリン協奏曲などという秘曲があったりして目が離せない。 そのうち中古屋で遭遇することになるだろうか。
COEUR DE VIVRE - Helene Segara (Orlando 3984 24576-2, Eastwest)
AU NOM D'UNE FEMME - Helene Segara (Orlando 8573 81454 2, Eastwest)
エレーヌ・セガラという歌手のことは知らなかった。 最初のアルバムの方は96年から98年までの曲、次のはリリースされたばかりでCDショップで赤丸付き売り出し中。 高域までよく伸びた美声で、シルキーというよりも更に艶が乗って、ワインで言うとボージョレーとかローヌ川沿いの味。 セリーヌ・ディオンのように芸域が広くないけれど、曲作り、歌い方、アレンジが一般のフランス人の好みの方向にフォーカスしているとも言えるか。 それにしても、これはある意味で全く毒にも薬にもならない心地良い音楽。 一切の不快感も無く聴き終わった後には何も残らない。 しかし、このような音楽が妙に好きになることがある。 ELTとか(あれも聴いた後には聴いたことすら忘れてしまうようなどうでもいい音楽でありながら何故か好きなのである)。 Coeur de Vivreの3曲目ではアンドレア・ボッチェリとデュエット。 どの曲も退屈しないでアルバム1枚すぐ聴き通せるというのは結構完成度が高いのか。
LE MELANGE SANS APPEL - Zen Zila (Naive 3311-1)
この音楽は何だろう? アラブ風だけれど、ほとんどフランス語で歌っていて、一部のコーラス部分がアラビア語。 ポップ・ライなどとは全く違う種類。 ポーグスがアイリッシュ音楽のかわりにアラブ音楽でちょっとパンキッシュなフォークをやっている感じ。 Zen Zila というユニットは、ハキム・シャイブとワヒド・シャイブという二人のヴォーカル(それぞれギターとパーカッションも)、その他にギター、ベース、ドラムス、アコーディオンにヴァイオリンという構成。 しかし、コンテクストがわからないとこのような音楽はわからない。 「音楽に国境は無い」んだからそれでもいいと言えばいいのだが、それでは単なる「オリエンタリズム」になるのでは無かろうか。
ANA BELEN + MIGUEL RIOS CANTAN A KURT WEILL (BMG Spain 74321 692732)
この2枚組ディスクにはびっくり。 スペインの人気ポピュラー歌手アナ・ベレンとミゲル・リオスがオーケストラをバックにクルト・ワイルを歌っている。 しかも全部スペイン語。 従ってタイトルもラ・ルナ・デ・アラバマとかバラーダ・デ・マッキー・エル・ナバハとかになってしまうのだ。 バックはジョセプ・ポンス指揮のグラナダ市管弦楽団。 ポンスはテアトロ・リウレのオケなどを振ってスペインの近現代音楽をアルモニア・ムンディに録音している意欲的な指揮者。 ベテランの歌手の共演であり、ワイルの音楽が実に楽しめる。 ドイツ語で歌われたら対訳を見ないとわからないが、スペイン語なら聴きながら何とか理解できる。 しかし、コトバの響きとして違和感までは行かないにしても、何か変。 ロイド・ウェッバーのミュージカル「エビータ」のスペイン語ヴァージョンを聴いたときもこんな感じだった。
MAS - Alejandro Sanz (WEA 3984 25348 2)
スペインのシンガー・ソングライター、アレハンドロ・サンスの人気を一躍高めた97年のアルバム。 と言っても、それは後になって知ったのであった。 最初にルンバ・フラメンカとして好きになった Corazon Partio の作曲者として記憶していたのだが、実はポップ・ソングだった。 つまり、このアルバムに入っている Corazon Partio 原曲がヒットしたのでルンバ・グループやロシオ祭り巡礼組合がルンバにしてしまったのであった。 原曲はトロピカルなラテン風味でおしゃれな曲。 アレハンドロの甘いヴォーカルもヒットの条件。 しかしルンバにすると、これまたぴったりハマるところが不思議。 このアルバムには同曲がオリジナルと2つのリミックス・トラックの3ヴァージョンで収められている。 音盤偏奏曲の「世界総ルンバ化計画」に追加しなくては。
2000.3.7.
旅先で
たくさん仕入れてきたものの、まだ時差で音楽を聴くとすぐ眠くなってしまう・・・
ヨーロッパに音楽を聴きにいくツアーとかがあるけれど、最初の3日間くらいはマチネーでもない限りまともに聴いていることは常人には不可能ではないだろうか。 とても高価な子守歌になってしまいそう。
Another Sky - Altan (Virgin 7243 8 48838 2 9)
アイルランドのフォーク・グループ、アルタンの今年発売の新譜。 マレード・ニ・ウィニーのかそけき歌が静かに響き、特に3曲ほどのゲール語の歌は、幽玄を感じさせる。 いくつかのリールやジグでは、彼女自身のフィドルを中心にテンポを上げて躍動感を加えるが、どこか控えめで消えてしまいそうなはかなさが漂う。 たとえば有名な Ten Thousand Miles のすがすがしい懐かしさに、このアルバムの雰囲気が凝集されていることがわかる。
今回は、イタリアでサンレモ音楽祭に備えた新譜を1ダースほど購入。 ドイツでは、ギリシャからスペインまでのいろいろな音楽、フランスではエレーヌ・セガラという歌手の2枚(何だかフランスのサラ・ブライトマンという感じでアンドレア・ボッチェリとのデュエットもあり)など、幅広く集めてきました。