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MERRY CHRISTMAS IN SUMMER 〜 真夏のクリスマス音楽聴き比べ


年の瀬が近づく頃には、とてもゆっくりクリスマスの音楽を聴いてこんな風なページを纏める時間も無かろうという事で、この猛暑の夏の日々にせっせとクリスマス音楽を聴くと言う異邦人のみに許されるようなことをしました。 東洋人が、クリスマスの音楽を真夏に聴くとは何たる逆転!? しかし、クリスマス自体が、ヨーロッパ人のシンクレティズムの結晶のようなものだと考えれば、クリスマスはもう商売繁盛の契機としてのグローバル・スタンダード、決してクリスチャンのものだけではありませぬ。 まず古代ローマのサトゥルナリア(サトゥルヌス祭)で、12月下旬に人々はプレゼントを交換しあった。 不滅のシンボルとしての胡桃を贈る習慣もあった。 これは、聖母マリアが胡桃の木で雨をしのいだという伝説とも共振した。 北方ではゲルマン人の収穫祭ユールが共振。 もっとも、4世紀になってクリスマスが12月25日になったのも、そのようなローマやゲルマンの人々の間にあったお祭りをキリスト教側が戦略的に取り入れたものと言うこともできそうだ。 つまり、「やらせ」なわけである。 そして千年の時を経ながら、北方でも南方でも欧州各地でキリスト教のお祭りとして定着していった。 クリスマス・ツリーになると、時代ははるかに下って16世紀から17世紀にかけてのドイツで生まれた習慣らしい。 もちろん、古代ゲルマン人のユグドラシル(宇宙の樹)から発した神話的想像力がこだましたのかもしれない。 今でもヨーロッパの国々でクリスマスに対して特別な心構えで接するのはドイツ圏だ。 ドイツ人のクリスマス・グッズに対するフェティッシュな思い入れは特別である。 社会保障コスト逃れのための企業の従業員に対するフリンジ・ベネフィットに対して厳しいドイツの税務署も、会社のクリスマス・パーティを会社の経費で開催することには社会通念上、まるっきりお目こぼしをする。 さて、クリスマス・ツリーは19世紀に入ると近代市民社会の勃興とともに各国に広がりをみせた。 ドイツの作曲家グルーバーが「浄しこの夜」を作曲したのもこの頃のこと。 ハノーヴァー家を通じてビクトリア朝のイギリスに伝わり華が咲いた。 イギリスと言っても、それ以前、プレスビテリアン(清教徒の長老派)が権力を握っていた17世紀のスコットランドではクリスマス禁止令なんかがあったのである。 そのころと言えばクリスマスにはどんちゃん騒ぎをやらかすものだったらしい。 一方で、繁栄の下に、屈折と偽善も醸成されたビクトリア朝では、クリスマスはすっかり模範的宗教行事になった。 クリスマスと言えばサンタ・クロース。 しかし、彼も全く通りがかりの別人である。 12月6日の前日に子供達にプレゼントをしていた(という伝説を持つ)人だったのに、オランダからアメリカに伝わって、どういうわけかクリスマスの登場人物になってしまった。 そしてトナカイに乗ったり、煙突から入ったりさせられてしまうのである。 もともと、今のトルコに生まれて司教になった人なのに、なぜか別荘がラップランドにあるらしく、世界中の子供達の手紙がフィンランド宛に送られたりする。 かように、数多くの人々の夢と誤解にこねくり回されたクリスマス、ここ極東の無宗教国でも、恋人がサンタクロースになったり、ひとりきりのクリスマス・イヴには君が来なかったり、エボシ岩が悲しみで溶けそうになったりするのである。

(クリスマスの蘊蓄は平凡社の百科事典から頂きました。 あと、ぢぁすらっくには許可とってません・・・)

というわけで、真夏のクリスマス名曲集のスタート。


CD聴き比べ


タイトル、演奏者
ひとこと
1
MICHAEL PRAETORIUS :
Weihnachtliche Chormusik
Thomanerchor Leipzig, Capella Fidicinia
Erhard Mauersberger
(Berlin Classics 0091282BC)
ドイツの作曲家プレトリウスのクリスマスに関わる宗教曲を収めている。 71年の録音だから、まだ東西の壁が頑としてある頃のライプツィヒの聖トーマス教会合唱団の演奏。 伝統そのものという感じで、合唱も美しい。 敬虔系クリスマス音楽の最右翼といった体で In dulci jubilo なんか、天上の奏楽という感じだが、一本調子といえなくもない。
2
Praetorius - Nativitas
Pickett / New London Consort

(Decca 458 025-2)
タイトルにはプレトリウスとあるが、彼のみならず、実際にはヴァルター、ハスラー、シャイン、シャイトと言った同時代のドイツの作曲家によるクリスマスを讃える音楽を集めている。 グローブ座の音楽監督としてルネッサンス期の劇音楽を現代の聴衆の前に蘇らせているフィリップ・ピケットがリードしているだけに、音楽から情景を思い起こさせるような喚起力のある演奏となっている。 やはり樅の木クリスマス発祥の地のドイツのクリスマス音楽が一番パワフル、素朴でほのぼの、という感じで楽しい。 音楽史分野のレコードだが、とてもハート・ウォーミングな1枚。
3
A MEDIEVAL CHRISTMAS
The Boston Camerata
Joel Cohen
(Nonsuch 9 71315-2)
アメリカのノンサッチが、まだマイナーだった頃の名盤。 今は同じワーナー系列のエラートからアルバムを出しているジョエル・コーエンによる中世(が殆どだが、16世紀ドイツまで)のクリスマス音楽集。 英独仏(フランス語もプロヴァンス語も)伊西からの時代もスタイルも背景も異なる音楽をとにかく「中世」というイメージをねつ造、と言って悪ければ創造しながらアルバムにまとめ上げている。 中世英語やチョーサーの朗読もイメージ作りに一役。 昔はこういうアルバムが結構あったが、これはこれで楽しめるものだ。 録音は長岡鉄男さん太鼓判の優秀アナログ録音が元になっているので悪くない。
4
NOEL!, NOEL! :
Noels Francais 1200-1600
The Boston Camerata
Joel Cohen
(Erato 2292-45420-2)
コーエンが89年にエラートに録音した、フランスのクリスマス音楽で、4分の3はルネッサンスの曲になっている。 中世編は「1200年頃のボーヴェのクリスマス」とタイトルされている。 さすがにスネッサンス編はそれ程「創造的」に振る舞えず、美しい普通の演奏。 デュファイのマニフィカトが中では一番大きな曲。 その後、ジェルヴェーズの舞曲などを交えながら雰囲気豊かに進行。 オーセンティックな古楽のディスクでは無いけれど、巷に溢れる百鬼夜行の「クリスマス」ものに比すれば、古雅な聖誕祭の雰囲気が味わえる。 このディスクには思い出があって、フランスに行って間も無い頃で引っ越し荷物も洋上にあり、FNACで特売になっていたものを買ってディスクマンで聴いていた。 初めて異国で過ごすクリスマスだった。 今自分がいるこの地ではるか数百年の昔、このような音楽を聴きながら年を越していたのだと言う感慨を持ちながら。
5 NADAL ENCARA :
Noels Occitans d'Hier... Aujourd'hui)
Martina e Rosina de Peira
(Revolum)
オクシタンのクリスマス音楽集で、かつて85年のシャルル・クロ・ディスク賞を取り、日本でも発売されたことがある。 Revolumというオック文化圏音楽専門のレーベルから出されていて、マルティナ、ロジーナを中心とする女性4名によるアカペラ。 曲も歌唱もフォーキー。 トゥールーズ、ガスコーニュ、リムーザン、オーヴェルニュ、ピレネー・ラングドックなど、かつてフランスの南半分に広がっていたオクシタン地方から幅広く集めたオック語の歌の数々を集めたこのアルバムは、古いフランスの家庭のささやかなクリスマスの風景を思い起こさせる。 またオック語によるところもポイントで、今は当然公用語になっていないこの言語による文化を守る活動をしている歌手達によるだけに、聴いていて非常に美しい言葉だと思わせる。
6
LA BELA NAISSENCA :
Les noels provencaux

(L'empreinte digitale ED13113)
こちらはプロヴァンスのクリスマス・キャロルを収めている。 歌詞もプロヴァンス語で歌われており、歌い方も曲の感じも地中海的な光と陰を感じさせる。 マンドリンや各種の楽器をフィーチャーしたエッジの立った伴奏も、ニューウェーヴ・ユーロ・トラッドと言った感じで、意欲的なアルバム作り。 伝統音楽をそのまま演奏するのではなく、シンプルながら現代の趣向に合うような形にするというヌーヴェル・キュイジーヌ的解釈。 欧州圏フォークが好きな人には間違いなく歓迎されるアルバムだと思うが、クリスマス・アルバムとしては風変わりなのでプロモートが難しいかもしれない。
7
SONJ :
Musiques Sacrees de Bretagne
Anne Auffret, Jean Baron, Michel Ghesquiere
(Keltia Musique KMCD17)
今度はブルターニュのクリスマス音楽集。 カンペールにあるブレトン音楽専門レコード会社(及びケルト系音楽の輸入盤のフランスにおける代理店)の制作。 女声ソロにハープ、オルガン、ボンバルド(ブルターニュ独特のチャルメラ)の伴奏だけで、全曲ブレトン語によってしみじみと歌われる。 今世紀前半に編纂された曲集からのもので、今でも教会で歌われる曲もあれば廃れてしまった曲もあるとのこと。 歌手による短い解説が。「このアルバムのブルターニュの歌はシンプルだが力強く、教会堂の薄明の中に佇む木や石で出来たイエス、マリア、聖アンナや天使達の塑像の表情のようだ。 そして、ブレトンの田舎の道沿いのカルヴェール(受難をモチーフにしたブルターニュ独特の聖像)も思わせる。」
8
Chants Sacres d'Orient et d'Occident
Soeur Marie Keyrouz

(Virgin 7243 5 45379 2 9)
シスター・マリー・ケイルーズはシリアのマロン派の修道女で、仏ハルモニア・ムンディからマロン派教会やメルキート教会の祈りの音楽を出してずいぶん評価されていた。 「オリエントとオクシデントの聖歌」のとおり、2枚組の1枚は、彼女の専門とするシリアのアラビア語によるキリスト教のクリスマスのうたを納めている。 コーラスも入るが、基本的には彼女のソロにフォーカスされており、それは西洋のキリスト教音楽に馴染んだ耳にはエキゾティックに聴こえるかもしれないが、それでも違和感を抑えるような着色がされているような気もする。 節回しは独特でも、声の質などは「聴きやすく」なっている。 シリアやイラクというとイスラム教の国というイメージでもちろん大多数はムスリムだが、数パーセントのキリスト教徒が暮らしていてこのような音楽が歌われている。 現在の西欧のクリスマスのイメージは北方系のキリスト教以前の文化が基層にあるのだが、キリスト教が生み出された土地のクリスマスはどのようなものなのだろうか。 2枚目は西欧のクラシック作曲家たちによるマリア賛歌。 セザール・フランクやブルックナーのアヴェ・マリアなどが美しく歌われるがマスカーニのオペラからも採られている。 オーケストラのバックはまるでムード音楽のようで、ファミリー向けの体裁だが、選曲がけっこう渋い。 異色のクリスマス・アルバム。
9
A tapestry of Carols
Maddy Prior + Carnival Band

(Saydisc CD-SDL 366)
スティーライ・スパンというイギリスの有名なフォーク・グループで歌っていたマディ・プライヤーは、現在でもソロ・アルバムを時々作っている。 この87年のアルバムは彼女の伸びやかな声で、ヨーロッパの生活の中に溶け込んだクリスマス・メロディをたっぷり楽しめる1枚。 この頃からマディと活動するようになったカーニヴァル・バンドが、種々の楽器を使ってひなびた音で雰囲気を出している。 God rest you merry も Ding dong merrily もフォーク・ソング的な味わいに充ちていて、日常生活の中の歳時記としてのクリスマスの雰囲気。 上のアルバムと続けて聴いてみると、ガリラヤの地から生まれたキリスト教のお膝元のクリスマス音楽と、このイギリスの生活の中のものと、同じテーマを扱いながら何と違うことだろう。 このアルバムは私のお気に入りのひとつだが、最近このレーベルはCD店で見なくなってしまった。 このアルバムだけでも復活が望まれる。
10
Carols and Capers
Maddy Prior + Carnival Band

(Park Records PRK CD9)
上の続編のようなアルバムで、演奏者も同じ。 現在、マディ・プライヤーのソロ・アルバムを出しているPARK RECORDSから。 16世紀のドイツから19世紀のアメリカまで、各地の歌を集めたもので、上で紹介した「キャロルのタペストリー」に比べると誰でも知っている曲ではないが、マディの歌が作り出す平和でほのぼのとした雰囲気が素晴らしい。
11
Christmas Now is Drawing Near
Sneak's Noyse

(Saydisc CD-SDL 371)
古楽とトラッドを合わせたようなスタイルで、イギリスのキャロルなどを演奏している。 13世紀あたりの曲から、ルネッサンス、さらにもっと新しく記録されたものまで。 ずっと聴きとおして、それほど面白いものではないかもしれない。 演奏が真面目というか、雰囲気や遊びがあまり無い。 敬虔なクリスマスなんだから特に遊ぶ必要は無いのだと割り切ればいいのだが、このような民衆的なお祭り要素を加味した構成だったら、もうちょっと楽しそうにやってもいいかも知れない。 レイフ・ヴォーン・ウィリアムズが編纂した「8つのイギリスのキャロル」からの曲が聴き応えあり、特に第6トラックの最後の This is the truth sent from above のフォーキーな味わいがいい。
12
Elizabethan Christmas Anthems
Red Byrd and The Rose Consort of Viols

(Amon Ra CD-SAR 46)
クリスマス・アンセムということで一応クリスマスがらみ。 しかし、エリザベス朝の宗教的な歌が付いたコンソート・ミュージック集と言った方がふさわしいディスク。 演奏しているローズ・コンソートもレッド・バード(声楽アンサンブル)も今はナクソス・レーベルなどで活躍している模様。 特に、後者はヒリアード・アンサンブルのジョン・ポッターが率いている実力派。 歌は結構、表情が濃い。 ヴィオール合奏もボリューム感がある。 七面鳥をたっぷり食べるクリスマス。
13
A Medieval Christmas
Pro Cantione Antiqua

(IMP PCD844)
3番のコーエンのアルバムと同趣向で、12世紀から15世紀までに限定したクリスマスの曲で構成されている。 イギリスの古楽合唱団プロ・カンティオーネ・アンティクヮによる演奏は、特に変な工夫、着色をせずに、これらの古の音楽を落ち着いて聴かせてくれる。 所々のリコーダーの合奏も趣がある。 当時から廉価盤扱いで出され、日本盤も発売されていたが、IMPレーベル自体が現在活動しているかどうかわからない。 全く別の形で出されているかもしれないが、このプロ・カンの演奏は出色。 指揮はマーク・ブラウン。
14
NATIVITAS
The Choir of New College, Oxford

(Erato 0630-19350-2)
様々な時代と場所のクリスマス合唱曲をヒギンボトムに率いられたオクスフォードの聖歌隊が歌っている。 まず、アパラチア地方のキャロルに始まり、後はパレストリーナあり、ブルックナーあり、プーランクあり。 お国ものからも、ルネッサンス時代のクリストファー・タイから現代のハウェウルズまで。 バスクやブザンソンあたりのキャロルなど、ヨーロッパ以外ではあまり馴染みの無い曲もとても美しい。 アルバムは、クリスマスの各シーン毎に何曲かまとめながら時折フルート・ソロを案内役にまるで音楽劇のように上手に構成されているが、かえって先入観無しに音楽だけ聴いてみても充実したアルバム。 グルーバーの浄しこの夜が、かえって浮いてしまうくらいである。
15
ONCE AS I REMEMBER ...
Gardiner / Monteverdi Choir

(Philips462 050-2)
古楽の名指揮者、ジョン・エリオット・ガーディナーによるクリスマス・アルバム? 単にそれだけではない。 ガーディナーの幼少時、村の人々によるクリスマス劇を楽しみにしていた。 自分自身もその中で歌ったりした。 そんな子供時代を振り返って、当時使っていた音楽を収めたのがこのアルバムだ。 つまり、とても個人的なクリスマス・アルバムなのだが、それを世界最強のコーラスのひとつである彼の手兵モンテヴェルディ・クワイアに歌わせてしまったのだからすごい。 ガーディナー自身が書いた4ページの解説も、思い出を交えて活き活きと語られる。 「ノーフォークの美しい後期ゴシック教会でのレコーディングの間、これらの思い出と連想が溢れるように舞い戻ってきた」 というぐらいなのだ。
16
ノートルダム寺院のクリスマス

(女子パウロ会 FPD036)
パリのノートルダム寺院のクリスマス・ライヴと言えば、昔からこの fy レーベルのディスクが有名だった。 これは、女子パウロ会がコピーライトを一本買いして国内仕様で出したもの。 1973年12月25日午前0時の鐘の後でカテドラルの奥から光彩のように響いてくる「聖しこの夜」など、まさに真打ち登場、クリスマス・アルバムの最右翼に位置すると言った感じのアルバム。 当時、この大聖堂のオルガン奏者だったピエール・コシュローの即興も聴ける。 グレゴリオ聖歌もオルガン伴奏付きで歌われるが、ひとつひとつの曲を聴くと言うより、あくまで「ノートルダム寺院のクリスマス」を仮想体験すべきアルバムなのでうるさいことは言いっこなし。 ブジニャックやプレトリウス、ダカン、モンテヴェルディなど曲もきっちり渋好み。 実際、ノートルダム寺院では毎年、12月24日の夜はミサの前のコンサートから始まって深夜ミサまで音楽をたっぷり聴かせてくれるのだが、後ろの方は観光客でごった返していてかなりの集中力が必要だったりする。 そう言えば聖体拝領のパンをその場で食べないでお土産に持って帰ろうとした日本人もいた。 神父さまがびっくりして「いま、ここで食べなさい」と言っていたけれど。
17
NOEL A NOTRE-DAME DE PARIS

(BMG France 74321 443642)
フランス語では同じタイトルのアルバム(こちらには定冠詞 la が無いが)で、歌っているのもノートルダム寺院の聖歌隊だが、96年のこのアルバムでは大オルガンを弾くのはフィリップ・ルヴェーブルという奏者。 しかも、こちらはライブではないようだ。 ビクトリア、スヴェーリンクからメンデルスゾーンまで、またイギリスやフランスのキャロルも今回は無伴奏のグレゴリオ聖歌に混じって歌われる。 7曲目の Je me suis leve par un matinet (ある朝目覚めると)は、上記5のアルバム NADAL ENCARA 1曲目タイトル・チューンのフランス語によるもの。 もとはケルシー地方(赤ワインで有名なカオールを中心とする一帯)の民謡だが、マルティナとロジーナのオック語によるフォーキーな味わいの歌と、こちらの少年合唱と聞き比べるのも面白い。
18
イギリスの古いキャロル
アンサンブル・エクレジア

(女子パウロ会 FPD015)
アンサンブル・エクレジアは、つのだたかしさん率いるタブラトゥーラの別ユニットとも言えるグループで、タブラトゥーラの方が古楽的無国籍脱時代的音楽?として「俗」の側面に展開することに対し、こちらは「聖」の音楽を担っている。 まあ、女子パウロ会がタブラトゥーラに宗教的な音楽を演奏させているという感じか。 波多野睦美さんを始め、メンバーも多く重なっているし、ジャケットデザインも望月通陽さんの染絵やオブジェを使っていてこちらもとても雰囲気が良い。 これは91年の録音、ディレクターの佐々木節夫さんは少し前にお亡くなりになった。 ハンマーダルシマーで奏でられるGod rest you merry など、フォーキーな味わいがあり、静かにひとつひとつの曲が演奏される。 ジングルベルと電飾に彩られた歳末大売出しな街の情景とは最も離れたところに鳴っている音楽がある。
19
ノエル
アンサンブル・エクレジア

(女子パウロ会 FPD040)
タイトルの通り、フランスの古いクリスマスの音楽を収めている。 フィリプ・ル・シャンスリエやトロヴァドールのアダン・ド・ラ・アルあたりから、セルミジやアテニャンと言ったルネッサンスの頃までカヴァー。 各地の民衆的な曲も含まれている。 アンサンブル・エクレジアの演奏は、イギリス篇と同じように、しんみりとアンティームな雰囲気がある。 ただ、七面鳥やフォワグラを食べている人々の歌ではないな、と感じさせるところがある。 淡白というか、わびさびというか。 波多野さんのまっすぐに透き通った歌も本当にすばらしい。 もちろん、こんなノエルがあっても一向に構わない。 佐々木節夫さんの手になる録音も、演奏のコンセプトに沿っているし、CDは通常のプラスティック・ケースではなく小さな紙の箱に入っているのだ。 わずか2ページのつのださんの解説も、まるで小さなステージで話を聞くような簡素でわかりやすいものだし、いつもの望月さんの絵もたっぷり入っている。 隅から隅まで丁寧に作られたアルバム。
20
聖母マリアの子守唄
アンサンブル・エクレジア

(女子パウロ会 DCI 17037)
アンサンブル・エクレジアのもうひとつのアルバムはイタリア篇。 13世紀の写本の歌から、モンテヴェルディまで、イタリアのクリスマス曲を集めたもの。 ポジティブ・オルガンや濱田芳道さんのコルネットまで活躍。 イタリアの中世から初期バロックまでの音楽に絞っているクリスマス・アルバムというのも独特だが、ひとつひとつの曲をそのまま楽しむことが出来る。 不思議な曲はメルラの手になる聖母マリアの子守唄で、クラシックの曲と言うよりサルデーニャあたりの民謡のような調べ。 彼らには、もうひとつドイツ篇のクリスマス・アルバムもあるのだが、残念ならが未聴。
21
Christmas in Early America
The Columbus Consort

(Channel Classics CCS5693)
珍しい18世紀のアメリカのクリスマス音楽を集めたもの。 ちょうど古典期だったヨーロッパ側のスタイルで作られている。 大きく2部に分かれていて、最初はニュー・イングランド地方の音楽、後半はペンシルヴァニアやノース・キャロライナに移住したモラビア系の人々の音楽。 但し、全ての曲は作曲者がクレジットされていて、アノニムさんによる曲というのは無い。 最近はスペイン人が新大陸に持ち込んだ現地製のバロック音楽をリヴァイヴァルさせる試みなどもあるが、このようなアメリカの初期の音楽と言うのも興味深い。 普通の音楽史からは全く見向きも去れないような植民地の古典音楽だが、やはり人がいる限り音楽もあったのか。 音楽としては別にとりたてて面白くもないのかも知れないが、コロンバス・コンソートの演奏が腕達者なのか、だれずにアルバム1枚聴かせてしまう。 最後のマニフィカトが、パッヘルベル作曲とある。 ファースト・ネームはチャールズ・セオドーアとアメリカ人の名前。 解説を見ると、何とパッヘルベルのカノンで有名なヨハンの息子であった。 彼はボストン、ニューヨーク、チャールストンなどでオルガニストを務め、1750年に新大陸で世を去ったのだ。
22
DOUCE NUIT :
Les chansons eternelles de Noel
H. van Veen & Ton Koopman

(Erato 0630-14771-2)
ヘルマン・ヴァン・ヴェーンというオランダ出身の歌手によるフランスで歌われるクリスマス曲(フランス以外の起源のものが多いが)を収めたもので、耳馴染んだ曲も多く、ファミリー向けの体裁。 ヴァン・ヴェーンはコメディア・デッラルテに材を求めた劇場作品の上演などで有名らしい。 発声もミュージカル歌手のようだが、穏やかな歌いぶりは好感が持てる。 そして、伴奏がなんとコープマン率いるアムステルダム・バロック・オーケストラというのが豪華。 ちょっと異色のアルバムだが、日本では翌年には中古CD屋で500円くらいで叩き売られていそう。 96年の発売。
23
LEGENDS OF ST. NICHOLAS
Anonymous 4

(Harmonia Mundi USA 907232)
元祖サンタクロースであるところの、小アジアの聖ニクラウスの伝説に基づいた数々の歌を中世特殊癒し系ヴォーカル・アンサンブルのアノニマス4がたっぷり一枚にまとめた、異色のクリスマス・アルバム。 もともとが、キリストの生誕とは全く関係ない聖人の伝説なので、厩も東方の博士も出て来ない。 ジャケットの美しい細密画も、難破船を救ったり、3人の孤児にプレゼントしたりする聖ニクラウスの伝説によるもの。 もうひとつ、1087年に今のトルコのミュラからイタリアのバリに亡骸が移されたことを題材にした絵が載っている。 この後、欧州各地で聖ニクラウス伝説が広まっていくことになる。 アノニマス4の歌は、相変わらず美しい。 蒸留水のようでもあり、人工的でもある。 何だか、ディズニーが癒し系事業を始めたような具合である。
24
CREATOR OF THE STARS
Pomerium

(Archiv 449 819-2)
ポメリウムの演奏するクリスマス曲集。 プレトリウス、ラッスス、ジョスカン、デュファイ、バード、オケゲムとルネッサンス音楽史を時代を行き来しながら鳥瞰するようなアルバムになっている。 彼らの透明でソフトなアンサンブルはデュファイあたりに合っている。 ちょっと軟弱でのぺっとした気がしなくも無いが。 歌詞がクリスマスに因んでいるというだけで、もちろん全てラテン語であるし、イン・ドゥルチ・ユビリオを除いてはクリスマスっぽいメロディがあるわけでもない。 クリスマス・アルバムというより、ルネッサンス名曲集。 
25
Noel, Messe de minuit, Messe du jour
Abbaye St-Pierre de Solesmes

(Accord 221612)
最後は、ソーレム唱法の総本山、フランス中央部はソーレムの聖ピエール修道院の修道僧達による降誕節のグレゴリオ聖歌。 前半が「深夜ミサ」で後半が「日中ミサ」ということになっている。 もちろん、そういうものだと言う予備知識無しに聴いても、研究者かラテン語の歌詞が聴いて分からなければクリスマス関係かどうかは全くわからない。 様々なクリスマス・アルバムを2ダースも聴いて訳がわからなくなった耳をリセットさせる音楽の一つの原点。 エソテリックな単旋律の響きに身をゆだねて、さあ、明日から仕事である。 何のこっちゃ。


ここではクリスマスをコンセプトにしたアルバムに限ってあるので、たとえばバッハのクリスマス・オラトリオや、ヘンデルのメサイヤ、ブリテンのキャロルの祭典や聖ニコラ、オネゲルのクリスマス・カンタータと言った、曲自体がクリスマスをテーマにしたものは、また別の機会に致します。