* 名句の園(1-20)*

 

[1] edoergo sum

[2] O matre pulchra filia pulchrior

[3] noctuas Athenas ferre

[4] nunc est bibendum

[5] rem acu tetigisti

[6] vincit qui se vincit

[7] aequam memento rebus in arduis servare mentem

[8] ex oriente luxex occidente lex

[9] aerugo animi, robigo ingenii

[10] bene ambula et redambula

[11] cave canem

[12] cantabit vacuus coram latrone viator

[13] exstinctus amabitur idem

[14] orarestuderegaudereneminem laederenon temere crederede mundo non curare

[15] horas non numero nisi serenas

[16] latet anguis in herba

[17] horresco referens

[18] Hodie Christus natus est

[19] semper eadem

[20] nescit vox missa reverti

 

[1]

edo, ergo sum

エドー エルゴー スム

我食す,ゆえに我あり

[単語]

edo edere[または esse] 【動】 (食べる)の現在形(1・単)

ergo 【副】 したがって,ゆえに.

sum esse 現在形(1・単) 英語では,I am

[一口メモ]

この句に接すると,ラテン語を学んでいない人でも,あの有名なデカルトの句,‘cogitoergo sum’(コーギトー エルゴー スム)「我思う,ゆえに我あり」を思い起こすでしょう.岩波の引用句事典から拾ったため,元々の出典はわかりませんが,デカルトの句のパロディになっていることは申すまでもありません.

 

[2]

O matre pulchra filia pulchrior

オー マートゥレ プルクラー フィーリア プルクリオル

美しい母よりさらに美しい娘よ

[単語]

matre mater-tris (【女】 母) の単数奪格.

pulchra pulcher-chra-chrum (【形】 美しい) の単数奪格.

filia-ae 【女】 娘; ここでは呼格.

pulchrior pulcher の比較級; ここでは女性呼格.

[一口メモ]

*ラテン語初級を終えた人でも簡単に理解できる文句ですが,実はあのホラティウスの『歌章』(Carmina)第1巻16歌の冒頭句です.何か,ホラティウス自身のロマンスを思わせるような始まりですね.

*比較級の補語は,quamを用いない時は,奪格形にします.

 

[]

noctuas Athenas ferre

ノクトゥアース アテーナース フェッレ

アテナイにフクロウをもたらす; よけいなことをする

[単語]

noctuas noctua-ae (【女】 フクロウ)の複数対格.

Athenas Athenae-arum (【女】《複数》 アテナイ)の対格; ここでは「アテナイに」の意; 都市名では「どこへ」を示すのに対格のみでよい(前置詞を伴わない).

ferre fero(【他動】 もたらす,運ぶ)の不定法.

[一口メモ]

ギリシアの都市(国家)アテナイにはフクロウがたくさんいたといわれ,またふくろうが,その守護神であるアテーネー(Athene)の聖鳥であることを思い起こせば,この句の意味は明らかです.英語では,この意味にあたる成句として ‘carry coals to Newcastle’(*Newcastle は石炭の積み出し港として知られる都市)があります.

 

[4]

nunc est bibendum

ヌンク エスト ビベンドゥム

今こそ酒を飲むべき時だ.

[単語]

nunc 【副】 今.

est esseGerundium(動詞状形容詞) 〜ねばならない,〜すべきである.

bibendum bibo-ere (【動】 飲む)の Gerundivum(動詞状形容詞)中性単数; 非人称的表現.

[一口メモ]

今日の句は,酒の好きな人にとっては覚えやすい,というか憶えるべき句ですね.出典は,ホラティウス 『歌章』 Carmina)第1巻37歌の冒頭です.アクティウムの海戦(前31年)で,オクタウィアヌス(後のアウグストゥス帝)がクレオパトラ-アントニウスの連合軍を破った後の,ローマの喜びがこの句に表れています.

 

[5]

rem acu tetigisti

PlautusRudens 5.2.17.

レム アクー テティギスティー

君の言うことは的を得ている

(*逐語訳は「お前は針でその事に触れた」)

[単語]

rem resrei 【女】 こと,事柄.

acu acus-us 【女】 針.

tetigisti tangotangere (【他動】 触れる)の完了形(2・単).

[一口メモ]

res は第5変化, acus は第4変化に属する名詞です.第4変化に属する男性・女性名詞は主格形が第2変化(例: dominus「主人」)と同じ形なので要注意です.それから,tango の完了形は,だいぶ変化するので,理屈抜きに憶えるしかありません.

[6]

vincit qui se vincit

ウィンキット クゥィー セー ウィンキット

自分に勝つ者は勝つ

[単語]

vincit vinco-ere (【動】 勝つ)の現在形(3・単); 文頭の vincit は主文の動詞で,文末の vincit は関係文中の動詞.

qui 関係代名詞男性単数主格; ここでは「〜する人は」の意.

se 3人称の再帰代名詞の単数対格形.

[一口メモ]

「自分の敵は自分である」とよく言いますが,僕のような怠け者は特に,かみしめたい句です.今日の qui のように先行詞を伴わない用法にも注意してください.

 

[7]

 

aequam memento rebus in arduis servare mentem

Horatius Carmina 2. 3. 1-2.〉

アエクゥアム メメントー レーブス イン アルドゥイース セルウァーレ メンテム

難局にあっては平静さを保つことを心がけよ

[単語]

aequam aequus(【形】 等しい,平静な)の女性単数対格; mentem にかかる.

memento memini (《不完全動詞》 記憶している,考える)の命令形(2・単); ここでは不定法を伴う用法.

rebus res (【女】 こと,状況)の複数奪格.

in (+〔奪〕) 〜の中では,〜においては.

arduis arduus (【形】 困難な)の複数奪格; rebus にかかる.

servare servo (【他動】 保つ)の不定法.

mentem mensmentis (【女】 精神,(理性的な)心)の単数対格.

[一口メモ]

memento の形はそれこそ憶えておきたいものです.memento mori (死ぬことを忘れるな)という有名な言葉に接したことがあると思います.またその完了形で辞書の見出し語 memini は不完全動詞でもあるので注意してください.memini のタイプの不完全動詞は,完了系の時称でしか用いられず,完了形が現在の意味をもつ動詞です.他に,odi(憎む),novi(知っている),coepi(始める)などがあります.

 

[8]

ex oriente luxex occidente lex

エクス オリエンテ ルークス エクス オッキデンテ レークス

光は東方から,法は西方から

[単語]

ex 【前】 (+〔奪〕) 〜から.2 oriente oriens-entis (【男】 東,東方)の単数奪格.3 luxlucis 【女】 光.4 occidente occidens-entis (【男】 西,西方)の単数奪格.5 lexlegis 【女】 法.

[一口メモ]

今日の句の訳の方は歴史の本などで目にしている方も多いのではないでしょうか.ラテン語の句は,音声面でも,見事な対をなしていて,ぜひともラテン語で覚えておきたい名句です.oriensoccidens とも元々はそれぞれ orioroccido の現在分詞であることもご確認下さい.

[9]

aerugo animi, robigo ingenii.

アエルーゴー アニミー ロービーゴー インゲニイー

心のさびは,才能のさび

[単語]

aerugo-inis 【女】 緑青.< aesaeris 【中】 青銅.

animi animus-i (【男】 心)の単数属格.

robigo-inis 【女】 さび.

ingenii ingenium (【中】 生来のもの; 素質,才能)の単数属格.

[一口メモ]

前回に引き続いて,語呂のよい句です.誰にも何かしらの才能はあるものですが,それを光らせるのも,さびさせるのも,心がけ次第ということでしょうか.

 

[10]

bene ambula et redambula

Plautus Captivi 4. 2. 120.

ベネ アンブラー エト レダンブラー

よく歩んで行き,そしてよく歩んで帰れ

[単語]

bene 【副】 よく.

ambula ambulo-are (【動】 歩く,歩んで行く,旅する)の2人称単数命令法.

redambula redamburo-are (【動】 歩いて帰る)の2人称単数命令法.

[一口メモ]

今日の句は,僕の気に入っているものの一つで,旅立つ(比ゆ的な意味でも)人へのはなむけの言葉として,いいと思います.なお,ambulo (歩く散歩する,あちこち歩く)は,ambulance(救急車)の語源となる言葉です.

[11]

cave canem

カウェー カネム

犬に御注意

[単語]

cave caveo-ere (【動】 注意する)の命令法(2・単).

canem canis-is (【男】【女】 犬)の単数対格.

[一口メモ]

今日の句は名句と言っていいものかどうか疑問ですが,語呂がよいせいか,引用句集には入っている場合が多いようです.ともかく,cavere という重要語を憶えるにはこの句がよいでしょう.英語 caution(用心,注意)も,この cavere(完了分詞 caustus)が語源です.

 

[12]

cantabit vacuus coram latrone viator

<Juvenalis Satirae 10.22.>

カンタービット ウァクウス コーラム ラトローネ ウィアートル

無一文の旅人は山賊の前で歌うであろう; 持たぬ者は失うもの無し.

[単語]

cantabit canto-are(【動】 歌う)の未来形(3・単) 主語は viator

vacuus 【形】 空の; viator にかかる.

coram 【前】 (+〔奪〕) 〜の面前で.

latrone latro-onis (【男】 追いはぎ,山賊)の単数奪格.

viator-oris 【男】 旅人.

[一口メモ]

今日のは何か愉快な句ですね.作者のユウェナーリスは1世紀後半から2世紀前半に生きた風刺詩人で,「パンとサーカス」(panem et circenses)というよく人口に膾炙した文句も,この詩人が生んだ言葉です.

 

[13]

exstinctus amabitur idem

<Horatius Epistolae 2.1.14.>

エクスティーンクトゥス アマービトゥル イーデム

(生きている間,そしられていた)同じ人が死んだら愛されることになる.

 

[単語]

exstinctus exstinguo-ere (【動】 消す,殺す)の完了分詞で「死んで」の意.

amabitur amo-are (【動】 愛する)の受動相未来形((3・単)

idemeademidem 【指示代名詞】 同じ人,同じもの[こと]

[一口メモ]

今日の句は誰でも思い当たるのではないでしょうか.文法のことでは,今日のextincutsのような状況を示すために用いられる完了分詞の用法にお気をつけ下さい.

 

[14]

orarestuderegaudereneminem laederenon temere crederede mundo non curare

 

オーラーレ ストゥデーレ ガウデーレ ネーミネム ラエデレ ノーン テメレ クレーデレ デー ムンドー ノーン クーラーレ

祈り,学び,喜び,何人をも害せず,軽信せず,世間に頓着せず.

[単語]

orare oro (【動】 祈る)の不定法.

studere studeo (【動】 学ぶ)の不定法.

gaudere (【動】 喜ぶ)の不定法.

nemonem nemo (【男】【女】 誰も〜ない)の単数対格.

laedere laedo (【他動】 打つ,傷つける)の不定法.

temere 【副】 やみくもに,思慮なく.

credere credo (【動】 信じる)の不定法.

de 【前】 (+〔奪〕) 〜について,〜に関して.

curare curo (【自動】 気にかける)の不定法.

[一口メモ]

イタリア中部のシエナ大学のモットーです.ちょっと長いですが,素晴らしいモットーですね.個人的には,gaudere de mundo non curare という文句のあるのが特に気に入っています.このモットーを日々実践できればよいのですが.

 

[15]

horas non numero nisi serenas

ホーラース ノーン ヌメロー ニシー セレーナース

我は晴れたる時間を除いては数えず.

[単語]

horas hora-ae (【女】 時間)の複数対格.

numero-are 【他動】 数える.

nisi 【接】 〜でないならば; 《否定語の後で》 〜を除いて.

serenas serenus (【形】 晴れた)の複数対格; horas を補ってみる.

[一口メモ]

なにかなぞなぞめいた文句ですね.実は日時計の銘です.どこかユーモラスな感じがありませんか? nisi の用法を憶えるにもよい例でしょう.

 

[16]

latet anguis in herba

<Vergilius. Eclogae. 3. 93. >

ラテット アングイス イン ヘルバー

ヘビが草の中に隠れている

[単語]

latet lateo-ere (【自動】 隠れる)の現在形(3・単)

anguis-is 【男】【女】 ヘビ.

in 【前】(+〔奪〕) 〜の中に.

herba-ae 【女】 草,植物; ここでは単数奪格.

[一口メモ]

‘anguis in herba’として,英和大辞典にも載っている,よく知られたラテン語の句です.「隠れた敵,伏兵」を意味するのは,容易にわかると思います.しかし,この句がウェルギリウスの『牧歌』中から採られたものであることは意外と知られていないのはないでしょうか.

 

[17]

horresco referens

<Vergilius. Aeneis. 2. 204. >

ホッレースコー レフェレーンス

それを語るだけでも身の毛がよだつ

[単語]

horresco-ere 【動】 (毛髪が)逆立つ;(恐怖のため)震えあがる.

referens referoreferre (【動】 語る)の現在分詞.

[一口メモ]

今日もウェルギリウスの名句で,『アエネーイス』中でアエネーアースが,海神の神官ラオコオーンを殺すために遣られた二匹の大蛇について語る際に発した言葉です.現在分詞の用法の点でも覚えておきたいものですね.

 

[18]

Hodie Christus natus est:

hodie Salvator apparuit:

hodie in terra canunt Angeli,

laetantur Archangeli

exsultant justi, dicentes

Gloria in excelsis Deo,

Alleluia.

今日は都合上,訳と読みは省略させていただきます.

 

[単語]

hodie 【副】 今日.

Christus-i 【男】 キリスト.

natus nascor-sci (【動】 《能動相欠如動詞》 生まれる: natus est で完了形,「生まれた」の意.

Salvator-oris 【男】 救世主,救い主.

apparuit appareo-ere (【動】 現れる)の完了形(3・単)

in 【前】 (+〔奪〕) 〜(の上)で.

terra-ae 【中】 大地; ここでは前置詞 in の補語なので奪格.

canunt cano-ere (【動】 歌う)の現在形(3・複); 主語は Angeli

Angeli Angelus-i (【男】 天使)の複数主格.

10 laetantur laetor-ari (【動】 《能動相欠如動詞》 喜ぶ)の現在形(3・複).

11 Archangeli Archangelus-i (【男】 大天使)の複数主格.

12 exsultant exsulto-are (【動】 歓声を上げる)の現在形(3・複).

13 justi justus (【形】 正しい)の複数主格; ここでは,名詞的用法で,「正しい人々」の意; exsultant の主語.

14 dicentes dico-ere (【動】 言う)の現在分詞で男性複数主格.

15 gloria-ae 【女】 栄光.

16 excelsis excelsus (【形】 高い,天の)の複数奪格; in excelsis で,「いと高きところに,天上に」の意.

17 Deo Deus-i (【男】 神)の単数与格; ここでは「神に」の意.

18 alleluia 《間投詞》 「ハレルヤ」(「主を褒め称えよ」の意); 元々はヘブライ語で「汝らがヤハウェを賛美するように」の意.

 

[一口メモ]

今日はクリスマスの日なので,それを祝うにふさわしいものを選びました.ある中世のクリスマス歌曲を集めたCDから歌詞を引用しましたが,そこにはグレゴリア聖歌とありました.単語欄を御覧になれば,全体の意味も明らかなので,訳は省きました.

 

[19]

semper eadem

センペル エアデム

常に変わらずに

[単語]

semper 【副】 常に.

eadem idem (【代名】 同じ人[もの・こと])の単数女性主格,

[一口メモ]

今日の句は,英国ルネサンス期の女王エリザベス一世のモットーです.男ならば,当然,semper idem となります.これを,自分のモットーとしたいと思います.

 

[20]

nescit vox missa reverti

Horatius Ars Poetica. 390

ネスキット ウォークス ミッサ レウェルティー

一度発せられた言葉は戻ることを知らない

〔単語〕

nescit nescio-scire (【動】 知らない)の現在形(3・単)

voxvocis 【女】 声,言葉.

missa mitto-ere (【動】 送る,発する)の完了分詞単数女性主格.

reverti revertor(【動】 《能動欠如動詞》 引き返す,戻る)の不定法.

〔一口メモ〕

ホラティウスの有名な『詩論』(書簡詩)中の句ですが,その前のところで,「将来何かを書いたなら,... 原稿を家の奥深くにしまい,9年目まで待つこと」(岡道男訳)と説いています.ひどく慎重なのが面白いですね.9年目というところにどういう意味があるのでしょうか.