*ラテン語の引用句*

 

諺・慣用句

ずっと覚えておきたい言葉

 

ラテン語の特色が生かされている名句

 

引用句/出典/訳

語注/コメント

1

ad astra per aspera

cf. Seneca  Hercules Furens 437

苦難を通して星々へ

  • ad 【前】〔+ 対格〕[]
  • astra astrum-i(【中】 星)の複数対格.
  • per 【前】〔+ 対格〕を通って.
  • aspera asper(【形】 つらい)の中性複数対格; ここでは名詞用法,「(数々の)苦難」の意.

☆米国Kansas 州のモットー

2

amantes amentes

Terence Andria 1311

恋する者は理性を失っている

  • amantes amare(【動】 愛する)の現在分詞 amans の複数主格,ここでは名詞的用法(主語)で,「愛する者は」の意.
  • amentes amens(【形】 理性を失った)の複数主格で,主格補語.

☆「恋は盲目」と言わんとすることは同じでしょう.

3

amicus certus in re incerta cernitur

Ennius cfCiceroDe Amicitia1764

確かな友は,不確かな状況で見分けられる.

  • amicus-i 【男】 友人.
  • certus【形】 確かな.
  • in【前】〔+奪格〕において.
  • re resrei(【女】状態,状況)の単数奪格.
  • incerta incertus(【形】 不確かな)の女性奪格.
  • cernitur cernocernere(【動】 見分ける)の受動態現在(3・単)

☆英語の A friend in need is a friend indeed (まさかの時の友こそ真の友)に当たる.

4

cicada cicadae caraformicae formica

蝉は蝉に親しく,蟻は蟻に親しい.

  • cicada-ae 【女】蝉.
  • cicadae cicada の単数与格.
  • cara carus(【形】に親しい +与格)の単数女性主格,cicadaの主格補語.
  • formicae formica(【女】 アリ,蟻)の単数与格.

☆「類は類を呼ぶ」にあたる諺.

5

Cras amet qui numquam amavit quique amavit cras amet

愛したことのない人は明日は愛するように,愛したことのある人も明日愛することを

『ウェヌスの宵宮』Pervigilium Veneris,1.

  • cras 【副】明日.
  • amet amoamare(【動】愛する)の接続法現在(3・単),「愛するように」という話者[書き手]の意志を表す,主語の部分はqui nunquam amavit
  • qui 関係代名詞(単数男性主格)で,英語のwhoにあたる,先行詞 is が省略されている.
  • numquam :【副】決してない; 英語の never
  • amavit amareの完了形(3・単).
  • quique = et qui e は英語のand too).

6

dum spirospero

息をする限り,希望を抱く

  • dum 【接】 〔+直説法〕の間.
  • spiro spirare(【動】息をする)の現在形(1・単).
  • spero sperare(【動】願う,希望を持つ)の現在形(1・単)

☆米国South Carolina州のモットー.

7

dum vivimus vivamus

生きてる限りは楽しもう

  • dum 6参照.
  • vivimus vivovivere(【動】生きる)の現在形(1・複).
  • vivamus 上の vivere の接続法現在形(1・複),「よく[楽しく]生きようではないか」(勧奨,英語のLet'sにあたる)の意(意志の接続法).
  • ☆エピクロス派の信条.

8

laborare est orare

労働は祈りなり

  • laborare laboro(【動】「働く,労働する」)の不定法; 主語の働きをする.
  • est sumesse(英語のbe動詞に当たる)の現在形(3・単); 英語 is に当たる.
  • orare oro(【動】「祈る」)の不定法で,主格補語の働きをしている.

ベネディクトゥス修道会のモットー.

fortuna favet fortibus

運は勇者に味方する

  • fortuna 【女】運,幸運.
  • favet faveofavere(【動】好意を持つ,味方する)の現在形(3・単)で,与格の補語をとる; 英語の favou)r に当たる.
  • fortibus fortis (【形】強い,勇敢な)の男性複数与格; ここでは名詞的用法で「勇敢な人々に」の意.

10

otia dant vitia

無為は悪徳[過ち]を生じる.

  • otia otium-i (【中】 暇,無為)の複数主格.
  • dant dodare(【動】与える)の現在形(3・複).
  • vitia vitium-i (【中】悪徳,過ち)の複数対格.

☆「小人閑居して不善を為す」に近い諺.

今回は,ラテン語の特色がいかんなく発揮されている,簡潔で,語呂のよいものを集めてみました.2,6のような母音を交替させることだけで,含蓄のある格言となることに注目してください.対応する英語句を考えてみると,いかに,ラテン語が格言に向いているかよく分かるはずです.語注で,略記号を使いましたが,ラテン語を学ばれた方なら,何を略したかは簡単に分かると思います(時間の関係で,凡例の省略,お許しください).

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諺・慣用句

 

今回は,ことわざを取り上げてみます.日本でよく使われる諺ないし四字成句が,ラテン語ではどう表現されるか,対比してみるのも,一興だと思います(御参考までに,英語の対応表現も添えておきます).

 

 

諺・慣用句

対応するラテン語表現/出典/逐語訳

語注/コメント

対応する英語表現

魚心あれば水心

manus manum lavat

SenecaApocolocyntosis 96

手は手を洗う

  • manus-us【女】
  • manum manusの単数対格
  • lavat lavolavare(【他動】洗う)の3人称単数現在

I’ll scratch your back if you scratch mine

急がば回れ

festina lente

cfSuetoniusAugustus 254

ゆっくりと急げ

  • festina festinare(【自動】急ぐ)の命令法(2・単)
  • lente【副】ゆっくりと

☆スエトニウスの『ローマ皇帝伝』によると(*1),アウグストゥス帝は,このラテン句の原句であるギリシア語 speude bradeos(スペウデ・ブラデオース)を好んで口にしていたということです.

[追記] 岩波書店のPR誌『図書』2000年1月号に,柳沼重剛氏がこのラテン句の出所について書かれています.この句がお好きな方はぜひお読みください.

Make haste slowly

一石二鳥

uno saltu duos apros capere

cfPlautusCasina 2840 (476)

一つの(林間の)隘路で2頭のイノシシを捕まえる

  • uno unus(【形】 一つの)の単数奪格; saltuにかかる
  • saltus saltus-us(【男】 林間の隘路)の単数奪格; 場所を表す奪格で「隘路で」の意
  • duos duo (2つの)の男性複数対格; aprosにかかる
  • apros aperapri(【男】 (雄)イノシシ)の複数対格
  • capere capio(【他動】捕まえる)の不定法; 辞書の見出しではcapio 意味用法の点では英語の take に近い.

kill two birds with one stone

さわらぬ神にたたりなし

quieta non movere

cfSallustiusCatilina 211

じっとしているものを動かさないこと

  • quieta quietus(【形】 静かな)の中性複数対格
  • non 否定辞「〜しない」;英語の not ここでは,不定法を伴って,否定命令的な意味となっている(ただし,古典ラテン語の標準的用法ではない)
  • movere moveo(【他動】動かす,刺激する)の不定法

Let sleeping dogs lie

去る者日々に疎し

absens haeres non erit

不在者が相続人になることはない

  • absens abesse(不在である)の現在分詞男性主格; ここでは名詞的用法で「不在者は」の意で主語
  • haeres = heres-edis 【男】【女】相続人.
  • erit esse の3人称単数未来

Out of sightout of mind

十人十色

quot homines tot sententiae

TerentiusPhormio 2414 CiceroDe Finibus 1515

人間の数と同数の意見(がある).

  • uot A tot B Aと同数のB quot tot の後ろに sunt を補って考えると良い.
  • homines homohominis(【男】 人間)の複数主格
  • sentenntiae sententia-ae(【女】 意見)の複数主格

So many menso many minds

うわさをすれば影

lupus in fabula

TerentiusAdelphi 4121

物語の中の狼

  • lupus-i【男】
  • in 【前】〔+奪格〕〜の中で[]
  • fabula(ファブラー): fabula(ファブラ),-ae(【女】 物語)の単数奪格

talk of the deviland he will appear.)

蓼(たで)食う虫も好き好き

de gustibus non est disputandum

[好み]について議論すべきではない

  • de 【前】〔+奪格〕〜について
  • gustibus gustus-us(【男】 味,好み)の複数奪格
  • disputandum disputodisputare(【動】議論する)の動詞状形容詞[受動形容詞]中性主格; esse+動詞状形容詞で「〜されねばならない」,さらに non がついて否定すると「〜されては[=しては]いけない,すべきではない」

☆動詞状形容詞の用法理解の上でもぜひとも覚えておきたい諺です.実際,人の好みというのは本当にさまざまですね.

There's no accounting for tastes

火の無いところに煙は立たない

flamma fumo est proxima

PlautusCurculio 53

炎は煙に最も近いところにある

  • flamma-ae 【女】 火,炎
  • fumo fumus-i (【男】 煙)の単数与格
  • proxima proximus(【形】最も近い<… +〔与〕>)の女性単数主格

There's no smoke without fire

10

大山鳴動して鼠一匹

parturient montesnascetur ridiculus mus

HoratiusArs Poetica 139

山々が出産しようとしている,生まれるのは,滑稽なねずみであろう.

  • parturient parturioparturire(【自動】陣痛を起こしている,出産しようとしている)の3人称複数
  • montes mons-tis(【男】 山)の複数主格
  • nascetur nascornasci(【動】《形式受動》 生まれる)の3人称単数未来; 主語は mus
  • ridiculus,【形】おかしな,滑稽な
  • mus-ris 【男】ねずみ

☆「大山〜」の句が,直接ホラティウスの句から生まれたわけではありませんが,同じ趣旨なので,これを取上げました.元々は,ギリシアの諺に基づいており,イソップの寓話を通して伝えられたようです.岩波文庫の『試論』の注によると,「大山〜」の諺は,16世紀に我が国に伝えられたイソップ寓話から生まれたようです.いずれにしても,中国古典に由来するものではありません.言葉の起源を探し求めると,時々,思わぬつながりが見つかることがありますが,この諺もその一つと言えましょう.

The mountain are in labor and the birth will be a funny little mouse.)

*1 岩波文庫,上巻P129参照

この項の参考文献として,A Dictionary of Latin Words and Phrases OUP),ギリシア・ラテン引用語辞典(岩波書店)を使用しました.(99//16作成)

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ずっと憶えておきたい言葉

今回は,ラテン語を学ばれるうちに,一度は目や耳にするような言葉(不幸にして?そうしたことのなかった方もいられるかもしれませんが)を中心に引用句を集めてみました.

引用句/読み

語注/コメント

ab urbe conditaAUC)

アブ ウルベ コンディター

ローマ建国以来

  • ab 【前】(+奪格)〜から,〜以来
  • urbe urbsurbis (【女】 都市)の単数奪格; ここでは「ローマ」のこと.
  • condita condo-ere(【他動】 建設する,創立する)の完了分詞 conditus の女性単数奪格.

Romulusによって,ローマが建国されたという伝説上の年(紀元前753年)から,ということです.なお,これは,リーウィウス(Livius)の書いた有名な歴史書のタイトルにもなっています(ハンニバル,大スキピオという名将の活躍を見事に描ききったこの書も残念ながら全体の約4分の1しか残っていません).

ad Kalendas Graecas

アド カレンダース グラエカース

決してない

  • ad 【前】 (+対格) 〜に.
  • Kalendas Kalendae-arum(【女】〔複〕 ローマ古暦で「カレンダエ,(暦月の第一日,ついたち」)の対格.
  • Graecas Graecus-a-um(【形】 ギリシアの)の複数対格.

逐語訳は「ギリシアのカレンダエに」.ギリシア暦にはカレンダエがないことから.英和大辞典にも,never を意味する語として載っています.

alea jacta est

アーレア ヤクタ エスト

骰子(さい)は投げられた

  • alea-ae 【女】さいころ.
  • jacta jaciojacere(【他動】 投げる)の完了分詞単数女性主格: 完了分詞は esse と共に用いて,受身の完了の意味を表す.

☆スエトニウスの『ローマ皇帝伝』 「カエサル」32(そこでは,jacta alea est と語順が異なっています)に見えるあまりにも有名な言葉.ルビコン川渡河の際の言葉とされます.ルビコン川は,かなり小さな川のようですが,イタリアとガリアの境界をなしていました.軍隊を率いてそこを渡ることは,国法を破ることであり,国土を内乱へと導く行為を意味したわけです.

aurea mediocritas

アウレア メディオクリタース

黄金の中庸

  • aurea aureus-a-um(【形】 黄金の)の女性単数主格.
  • mediocritas-atis 【女】 中庸.

☆みがきぬかれた詩の中で中庸,節度の大切さを繰り返し歌ったホラ―ティウス(Horatius)のよく知られる句(.2.10.5.)です.ついでながら,ギリシア語では,meden agan(メーデン アガン)「何事も過ぎることなく」という同じ趣旨の句があります.デルポイのアポロン神殿に銘記されていました.

delenda est Carthago

デーレンダ エスト カルターゴー

カルタゴは滅ぼされねばならない

  • delenda deleo-ere(【他動】 破壊する,滅びる)の動詞状形容詞(Gerundivum)の女性単数主格; 動詞状形容詞は esseと共に用いると「されねばならない」という意味となる; 形容詞なので,性数格はCarthagoに一致.
  • Carthago-inis 【女】 カルタゴ; 都市名は女性名詞であることに注意.

大カトー(Cato Major)が元老院での演説をこの言葉で締めくくったことはあまりにも有名でしょう.動詞状形容詞の用法を覚えるのにもこの句は有益ですね.大カトーの望みどおり,カルタゴが滅びたのは紀元前146年ですが,彼の没年は前149年で,滅亡を知らずしてこの世を去ったのでした.

fides Punica

フィデース プーニカ

ポエニ(カルタゴ)人の信義; 裏切り

  • fides-ei 【女】 信義,信用,信頼.
  • Punica Punicus-a-um(【形】 ポエニ人の,カルタゴ人の)の単数女性主格.

上で,ローマの宿敵だったカルタゴが出てきたので取り上げました.ironicalな表現が利いていますね; Punica fides としてもかまいません.

idus Martiae

イーデゥース マールティアエ

315

  • idus-uum 【女】〔複〕(ローマ暦で3・5・7・10月の)15日,(その他の月の)13日.
  • Martiae Martius-a-um(【形】 3月の)の複数女性主格.

ローマ史上最も重要な日付でしょう.紀元前44年のこの日に,カエサルが暗殺されました.英語でも the ides of March と言います.

venividivici

ウェーニー,ウィーディー,ウィーキー

来た,見た,勝った

  • veni veniovenire(【動】 来る)の単数1人称完了.
  • vidi videovidere(【動】見る)の単数1人称完了.
  • vici vincovincere(【動】勝つ)の単数1人称完了.

ラテン語の教本ならば,必ずどこかに載っているようなラテン語の名文句でしょう.しかも,カエサルの言葉.古典ラテン語の句を一つだけでも覚えよ,と言われたらやはり,この頭韻を踏んで極めて語呂のよいこの言葉が真っ先に浮かぶのではないでしょうか.ラテン語学習者にとっても,この句は,完了形が3つも覚えられて,ありがたいですね.さて,この句も,スエトニウス 『ローマ皇帝伝』 「カエサル」37にあらわれます.それによると,ポントスの戦い(紀元前47年)での勝利を祝う凱旋式の際の(立て札に書かれた)言葉とのことです.

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