砂漠の暑さ、人の温かさ


 乾き切った砂漠の中で、人の温かさに触れた気がする。

 砂漠の中を走り続ける列車に乗って2日目。今日も午後に入ってからずっと車内温度は38度台のままだ。空気はカラカラに乾燥しているから汗はかかない。ただひたすら暑く、頭がのぼせている。時折、細かい砂を含んだ風が列車に押し寄せ、開け放たれた窓や扉から吹き込み、その間は車内が白くかすんで見える。

 この国は、少なくとも私が通った場所は、ただ砂漠があるだけだ。世界遺産として登録されているメロゥエのピラミッドがあるくらいで、これと言った観光名所はない。南部では、現在は休戦しているものの、内戦が続いていると言う。したがって、観光旅行する外国人は、ほとんど見かけない。また、外国人滞在登録、旅行許可証、といった面倒な制度も旅行者を少なくしている理由の一つだろう。

 そんな国ではあるが、人の心は温かい。この列車内、私は当日に切符を買うことになったため、座席を取ることが出来ず、デッキに座り込むことになった。が、同じ座席無しの人たちは、笑顔で座り込むのに良い場所を確保してくれた。また、ある男は、途中駅で停車している間に数個の果物を買ってきたが、デッキにいる全員に配ったため、本人は半個を食べただけだった。誰かが豆などを買ってくる度に、その袋が全員に回ってくる。スーダンでは、どんなに食べるものが少なくても、皆で分け合うのさ、そう、隣の男は言う。
 街でも、親切を何度も受けた。街角の御茶屋でお茶を飲みながら隣の人と話す。お前はどこから来た? アラビア語は話せるのかい? スーダンの印象はどうだい? そんなよくある会話をした後、
「そのお茶代は俺が払っておくから、気にするな」
 そう言って、さっと笑顔で立ち去っていく。見返りは求めずに。

 ジュース屋台では、隣に1〜2分ほど座り、アラビア語で「こんにちは」と、一言挨拶をかわしただけの若い男が、私の分まで払ってくれた。そのことに気付いたのは、彼が去った後だった。言葉は通じぬままだったが、その温かい気持ちは強く伝わってきた。

 ご飯をおごってもらった事もある。例えば、ゲダレフという街では、市警察幹部の朝食会に招かれた。外国人登録について質問しに警察に行き、その後、警察官たちと雑談していたら
「ボスがお前を朝食会に招待したいと言っている」
 そう突然言われ、その会の末席に加わらせてもらうことになった。厳つい顔の男ばかり30人ほどと囲むテーブルであったが、警察の仕事について話してくれたり、
「この市の警察のトップは4人の妻がいるが、日本では何人持てるのか?」
「一人だけです」
「では、妻とガールフレンドならばどうなのか?」
「問題になってしまうでしょう」
  と言った、堅苦しくない会話になったりした。とても面白く、印象的な一時となった。そして、スーダン人の親切さには、立場も仕事も関係無いのだと知った。

  自分は、日本は、一体どうだろう、そう考えてみる。食べ物・飲み物を分け合うといったこと以前の、もっと当たり前の思いやりの気持ちを持っているだろうか。

  スーダンほどではなくても、どこの国へ行っても、色々な人たちの親切を受けている。見習うべきことだろう。自分が逆の立場に立った時には、たとえ小さなことしか出来なかったとしても、そう思う。
 



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on the train (Between Khartoum and Wadi Halfa)
列車内 (ハルツーム - ワディ・ハルファ間)

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