夜が夜らしく暗いということ


   暗い。
  通りに出てすぐそう思った。
  マハバンドーラ通りはメインストリートのひとつで、しかもここは首都ヤンゴン市の中心部、繁華街なのにだ。オレンジの冷たい色の光を放つナトリウム灯が等間隔で道の中央に並び、車道を照らし出しているが、端にある歩道に光は届かず、まるで闇の様にも思え、そしてその暗闇の中を人々が行きかっている。そんな夜の街を歩いてみる。夕方には店じまいするところが多く、商店からの明かりもあまり多くない。夕食を、と歩道上の比較的混んでいる屋台をのぞきこむ。ステンレス製の深鍋がいくつもあり、それぞれ異なったおかずが入っているが、持参していたペンライトで照らさないと、それが何の料理なのかさっぱり判らない。だからまるで闇鍋でもしているような気分になってくる。懐中電灯も持っていないようだが、他の客は一体どうやって料理の種類を見分けているのだろう。

  思えば昨夜までいたバンコクは光の海だった。東南アジアでは最も発展している現代都市の一つであるバンコク市は、深夜になっても様々な光に満ちあふれていた。もしかすると、様々な規制がある東京よりもよっぽど明るいかもしれない。真夜中の屋台でも手元が暗いなんてことは全くありえなかった。

  でも、考えてみれば夜は暗いのが当たり前だ。暗くて懐中電灯がなくては見分けがつかない、ではなく、暗くて見えないのであれば懐中電灯を使えばいい、と考えればよいのだ。
  ここヤンゴンの闇の方が、光の洪水であるバンコクよりよっぽど自然だろう。2〜3日もすれば眼も暗さに順応し、明るさについて特に何も思わないようになるだろう。また、どんなに深い鍋の中の料理でも、簡単に見分けられるようになるかもしれない。そしてそれは、この国に慣れてきたという証しの一つだと言えるかもしれない。
  暗い通りを歩く人々のざわめきの中に混じりながら、そんなことを考えている。
 
 

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夜のマハバンドーラ通り(ヤンゴン)
Mahabandoola St. at night ( Yangon )
 


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